第一章 白百合十字団 第五節 自称魔法物語
少々くどいが、せっかくなので、“なろう”でもたとえよう。
タイトルは『世界が10万人のなろう小説村だったら』。
今は『異世界転生』『異世界転移』というアイディアを、誰もが自由に使い放題だ。
その“やさしい世界”がブッ壊された未来を想像してみてほしい。
ある日突然、何の前触れもなく現れた、たったひとつの『究極の異世界モノ物語』!
そいつはあんまりにも鮮烈すぎて、その所為で、過去の『異世界モノ』の全てを、無価値な灰色へと褪色させた。
そいつはあんまりにも強烈すぎて、そのために、今後誰一人として、『異世界モノ』を執筆することはできなくなった。
そうなったとき!
異世界を愛していた、受け手と送り手は激怒しないか?
未来の希望を完全に見失った後輩は?
今やっと物心がついたばかりの新人は?
今まで『科学』だと信じていたものが、実は『新興宗教』だった。
今まで『魔法』だと信じていたものが、実は『自然科学』だった。
こんな新世界に耐えられる、生身の人間はいなかった!
ファンタジー世界の中にのみ『魔法』が存在する現実を、ヒトは愛していたのだから!!
自称魔法物語wwwwwwwww
これに激怒しないホモ・サピエンス・サピエンスも、ひとりとして現世には居なかった!
――らしい。
22年もの時が経てば、色々となあなあになってしまうものなのだ。
いくら現実世界に本物の魔法が顕現したからといっても、《超自然科学少女》や《自称魔法少女》では、女児向けアニメのタイトルとしてはあんまりにも締まらない。だから口語の世界においてのみ、旧時代の定義を内包した『魔法』という単語は生き残った。
こちらの方が本物の魔法なんだと未だに頑なに主張するグループ、超自然科学だって解ってるけど――ああ自称魔法ね? 知ってる――魔法って呼ぶ方が楽だもんな? と仲を取り持つ日和見勢の両方から、同時に好意を勝ち取られるから尚更に。
だからぼくが先日、魔法という単語で済ませたのも、ぶっちゃけ楽だったからだ。本当は、握美ちゃんに成長促進剤を大量に飲まされてこうなった。純粋な化学薬品の投与による、ガチガチの医療処置を施されて、ぼくの身長は184cmにまで成長した。
小6でもう180あった過去はまあ水に流すとして。中身がこれだから体育の授業でハリボテが剥がれまくる見かけ倒しな現実もまあいいとして。面長!
……いや、小顔に憧れるくらいは赦してほしい。
ぼくの前髪が比較的長いのはこのためだ。
高度に発達した科学が、魔法と見分けがつかないのも当たり前だったのだ。なぜなら人は、端から超自然科学のことを、魔法だと定義していたのだから。
科学技術が発達するに従って、それらが自然科学へと定義されてゆくのは必然。そうなると今まで魔法だと思っていた、空想の産物の座席が、次第に空いてゆくのも自明。すると灼然、本物の魔法が、そこへ腰を下ろしにくる――。
だからある意味《白百合十字団》を表の世界へ引きずり出したのは、旧時代の科学者本人であるとも言える。
全ては星の運行のように、極めて合理的に秩序立っているのである。
白百合十字団!
正直言って、全ての人間が歓喜した!
ええっ!? マジで!? 本物の魔法!? 夢にまで見た錬金術が、もう既に確立されている!? そんなものはお前……あんまりにも学びたすぎるだろう! 早く寄越せ! ――と。
「これが、僕に見えている世界です」
突然の衝撃的な告白に、クラスメイト全員が声を失った。




