第一章 白百合十字団 第五節 科学的革新
自然科学と魔法学。
と板書して羞恥。
むん、斜めってる。
書き直したいけど時間ない。
「えー、今から22年前、世界最高の魔術研究機関である《白百合十字団》が突然、表の社会へ進出してきたことによって、《コペルニクス的転回》、いわゆる《科学的革新》というものが、文字通りにこの現実世界で起こりました」
「顔、怖っ!」
……なんだと。
「眉、超いかってるー! もう少しにこやか、にぃーっ♪」
真似してえくぼを無理矢理作ると、余計怖いと笑われた。
うん。いいからはよ、動画流せ。
「え、それではこちらが? 世界で初めて魔法の実在が科学的に証明された際の映像です!」
先生の机を隠したスクリーンへ皆が集中している間に、パラダイム・シフトの意味を書く。
書いて誤魔化す。動揺を。
人には向き不向きというものがある。火菜のような人間に憬れて何が悪いの!? ――と権利を主張するのは危険だ。それはただ、目についた他人の長所を片っ端から羨むという悪癖を克服できていないだけな場合が多いから。
これがオレの欠点だぜーっ! と潔く認めて、時が流れるのを静かに待つべき場面さここは。負けてもいい勝負にまでエネルギーを注いでいたら、勝てる勝負で負ける確率が1パーセントでも上がるだろ?
《自然科学:化学・生物学・地学・天文学・物理学》。
全く同じ肉体を持った天然のクローン、一卵性双生児が机に座って、それぞれ別々の言語に翻訳された、全く同じ内容のお話を読む。そして脳波を測定。
母国語で読める方はときに笑い、ときに涙を流して時を忘れる。そうじゃない方はイライラ顔で時計をチラ見。
次にふたりを犬と入れ替える。
脳波には何の変化もなし。
この映像を見せられて、これが本物の魔法だと説明を受けた22年前の人間は、まさしくその通りだと、革新を受け入れざるを得なかった。
《魔法学:帝王学・金融学・言語学》。
化学物質の添加なしに、化学反応を現実世界で引き起こすもの。
これが、現実に実在する“魔術”の基軸だ。
物質的なエネルギーを触媒にせずに、物質を移動させるエネルギーを抽出すること。
等価交換を大幅に無視して、1のエネルギーを数十・数百・数千倍に増幅すること。
すなわち、記憶と感情と心を有し、言語を解する知的生命体を動力の核とすること。
こいつが、現実に実存する“魔法”の基礎である。




