第一章 白百合十字団 第四節 町の電気駄菓子屋さんの日常
「キタ――――ッ! 100万分の1! 10KB! シリアルコードのみ! 車っ!」
『ええ――っ!? ちょ……、マジで!?』
「マ!?」
「うそー♪」
『嘘かよ!』
また騙された!
人間には四種類の嘘つきがいる。
第一に、自分は嘘をついたことがないとか本気で言っちゃう、嘘つきに自覚がない嘘つき。現行犯で逮捕しても真剣に潔白を主張し通し、証拠動画をつきつけても一向に反省しない、自己愛が天井知らずの、高すぎる意識が現実の肉体と乖離している、筋金入りのガチサイコ。言うまでもなく一番危険。
その次に、幼いころからほとんどの機会で、運よく多数派に属せてこられた、悪行に耐性のない潔癖。自分の本音が『悪』認定を受けた際に、対極側を四捨五入するという経験しか引き出すことができず、結局全ての局面でマジョリティになられる夢なんか叶うはずがなかったなんて現実を、今やっと温室の外で受け入れさせられて、自分の心に血の涙で永遠の嘘をつく。
三番目。本人を前にしての御機嫌取りは大得意なのに、陰でそいつの悪口を言うことを、どうしても我慢できないへたくそ。結局ばれて全部台無し。
最後に、嘘ついてたことがバレても、誰からも憎まれないどころか好かれる、『テキトーに話を合わせるのが最高にうまい顔』のやつ。
なんなんだろう、この無駄に高い演技力は。
それとも思い切りがいいだけか?
ああ、自称の嘘つきさんは、嘘つくぜぇ! とあらかじめ宣言しているので、それ以降の発言の全てが例によって『純粋な嘘』にはならず、よってこの話題には綺麗に関係がない。
「で、何が当たったの」
「うん? なんかこれ」
カードリーダーが接続されたスマートフォンの画面を見る。文豪みたいな出で立ちで、刀を持った、イケメンのイラストの詰め合わせ……これも結構な当たりなんじゃないの? っていうかこれ、誰だっけ?
「『ピュリティサムライ』! 《純潔魔刀少女 スターピュリティ》の!」
背伸びして覗き込んできた妹が、白緑の瞳を輝かせながら言う。
「普段は引っ込み思案な女の子なんだけどー、」
「女の子なのか」
「うん。えりぃとでくぅるなお姉ちゃんがいるから優しいお兄ちゃんが欲しくってー、絵がとくいだからいっぱい描いてたら夢に見た王子様がでもまさかの未来のじぶんだったの!」
「へえー」
探したら変身前のイラストもあった。ピンクのゴスロリ。シャボン玉。一応本体に保存する火菜。
抜き取られた『魔法のマイクロフラッシュメモリ』、通称『魔マメモ』が、刃楼の手に渡る。ちゃんとありがとうとお礼を言える。でもまずは自分が買ったやつから。
「うわーっ! うそ!? ええっ!? なんで!?」
「どうした」
「心ちゃん、またこれが出たぁ~っ!」
妹のスマホを受け取る。
むむぅ。
こういう物質系は、本来は相当な当たりなんだが……。
三体目の牛乳アメフクラガエルクッションは、五百蔵中学生へ贈呈された。ぼくのやつにはただ、『大吉』とだけ書かれていた。女子ふたりが大爆笑。なるほど。確かに大吉だ。ザコメモが15枚溜まったので、300円分の駄菓子と交換。ミニジャーキーをみんなで分ける。
『ウルトラレア……《雷電の三又槍》……!?』
しかし課金ゲーをやらない中高生にとって、実質的な価値はゼロだった。
相談の結果、五百蔵君が当てたスマホゲー内のレアカードは、さっきの大学生たちにあげることに。いえ、ぼくは何学部でもないです。高等部の1年生で……はあ。どうも。
ザコメモを100枚くらいもらって、全部駄菓子と交換。
牛乳アメフクラガエルバッグがパンパンになる。
ちなみに、『魔マメモおみくじ』は1回300円。あんなにも小さなマイクロSDカードの容量が、全部64GBである必要なんか、どこにもなかったんだ。メインは中身だから、複製しておけば盗まれても平気だし、さっきとは違って、男子がイケメンキャラを当てた場合、クラスの女子におねだりされたりもする。それ目的であることを顔に出してしまえば、うわぁないわ……、ってブロックされちゃうけど。
いや、ここでなくとも、女子小学生が外でひとりで遊んでたら危険だろ。




