第一章 白百合十字団 第四節 ぼくらのリリエ馴染
「あのお姉ちゃんな。あんな目鼻立ちであんな髪の色してるけど、別に怖くないからな」
妹と手を繋いで歩く、同級生を指してぼくは言う。
「え、いえ、別に、怖いとかは……!」
いきなり会話に引きずり込まれた五百蔵男子中学生が、しどろもどろ手を振る。
「苗字もミドルネームも仰々しいからなあ……。悪の組織の幹部みたいだろ?」
「で……、ですかね……? ちょっと、はい。少しは。思います」
「だから下の名前で火菜さんって呼べばいいから」
「はい」
幼いころは1本1本が透き通って輝くプラチナブロンドだった。パッケージに描かれた『これはイメージです』の様などぎつい黄色ではなく、缶の中に入っていた本物のように霊妙に、人の心を甘くとらえるパイナップルだった。
「で、でしたら、その、握刀川さんもふたりいるんで、心至福さん、刃楼さんと、呼び分けた方がいいですかね……!? あっ、えっと、よく考えればそれしかないんですけれど……!」
「うん。それでいいよ。親友! 仲間! ダチ公! ウェ~イwww ってタイプなら、もとより部活で満足できたはずだろう? 塾には他校の生徒も集まる。一言も会話しなくても、塾の授業を受けるのが好きって本音を、授業中には共感し合える――そんな感じでいいんだよここは。フランクすぎず、他人行儀すぎないのが、ぼくたちのスタイルだ」
「はいっ」
純血のドイツ人でも大半は、成長とともに黒っぽく変化してしまうらしい。母親が日本人なら尚更だ。『隙のない私』感をサビ猫のようにオートで放つ、ダークブロンドのショートヘアは、今日は更に短く、後頭部で筆を結んでいた。
ぼくは歩きながら漠然と考える。
これはおそらく、うなじマニア悶絶の光景なのだろう、と。
「とっ、ということは、みなさんは、リリエ馴染なんですね?」
「ん? まあ、そうなるけど、言ってしまえばぼくと君もリリエ馴染だぜ? 高校生なんてまだまだガキさ。男は特にな。男は三十でやっと幼稚園卒業みたいなもんだ。二十代で大御所なんて、芸人や作家でもそうそういないだろ? む。ちょっと話がずれたか?」
「い、いえ……!」
またぶんぶん手を振る。
なんとなく昔の自分と重ねてみたり。
まあ、こんなにかわいらしくはなかったが。
初めから飛ばしてもあとが続かないので、しばらく黙って歩く。ぼくも別段、初対面でも全然平気! お喋り大好きを越えてごめん止められない! ――といった人間ではないのだ。
落ち着くねえ、用水路を泳ぐカモ。あれを獲って食うくらいなら、そうめんを食べる方が断然いい。そうめん大好き。かつおだし。
「今日は1等、当たるかな~?」
ぼくらのリリエ馴染、火菜・ヴァレンティーネ・ヴァンダービルト女子が言った。




