第一章 白百合十字団 第二節 On the square
「かぁ~っこいい! かっこいい! むげんのそうたい! パフィンりりぽっぷレインボーテイル!」
「ゴリーッ! ゴッリリィィィィッ!」
「出たな! ゴリラ怪人! ビームをくらえ! ビビューン!」
「ゴリッ……! ゴリラアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「ゴリラの鳴き声って『ウホー』じゃないの……? あっ!」
あっ?
見つめたら目を逸らされた。
指を切ったのなら喚くはずだから、そこは安心するとして。
トイレっと元気に妹が駆ける。
ぼくは実母のもとへ向かった。
「今日はなにやらかしたの」
「なっ、な、なんにも……!?」
ゆっくり近づいて追いつめて、後ろから優しくハグ。
腰をぐっと抱き寄せる。
「なんにもってことはないだろう……? ちょっとそれ、見せなさい」
「だっ、だめえぇぇ~~~っ!」
両腕を一生懸命伸ばして遠ざけるも、ボウルの中身は残念ながら、ぼくの位置からは丸見えだった。
一応見回す。
空になったカフェオレの袋を発見。
(あのマグに入れるつもりだったのか……)
「あ、味は問題ないと思うからっ!」
「はむーっ、ちゅちゅちゅ!」
「やめなさいっ、お料理中よ?」
「む……握美ちゃん、ちょっと痩せた?」
「んー、太った」
「あっ、もう焼くの。でもどう気をつけても最初の一枚は焦げるよ」
「うるさいなあ、上手にやれば大丈夫よ」
垂らしてすぐ、泡が出る前に裏返したのに、もう既に真っ黒に焦げていた。
「なんで!?」
「ホットプレートを取り出すひと手間を、面倒くさがったからさ☆」
もう一度強めに抱きしめてから、いちごチャイ色の長髪に、何度も鼻をうずめて遊ぶ。
「はぁ~っ……あ、おかえり。ちゃんと手を洗って蛇口を洗って、」
「もう一度手を洗いましたっ! オンザス!」
まんまる頭で突っ込んできたので、ぼくは仕方なく母の喉を撫でる手を止めて防御した。
『ぐぐっ、ぬぅおお……!!』
「こぉら! 火ぃ使ってるから危ないから! あっちでやりなさい!」
さすがに本気で叱られた。
ふたりしてごにょごにょ謝罪。
どうせもうCMも終わるし。
「いつでも『公平に平等に』よ?」
ソファに座った妹が、お姉ちゃんみたいに指を立てる。今の行動のどの辺りが、誰に対してどう不公平でかつ不平等だったのかは完全に謎だが、小3相手に口で勝っても仕方がない。
「『オンザス』より『おんすく』の方がかわいくない?」
「ん~、それは~、ずつきじゃないときにつかう用」
「なるほど。キメ台詞の略し方がふた通りもあるなんて、刃楼が絶対に世界初だな」
「えへへ……おんすく!」
「ほら、後半始まるよ」
「レインボーッ!」
こちらは世界初の、略したら舌を噛む魔法少女……、か。
パフィンリリポップレインボーレーザービームが炸裂。
爆炎と黒煙が、座ったまま器用にぴょこぴょこはねる妹の瞳に反射する。
そして赤い字でMILKと書かれた、真っ白な牛乳アメフクラガエルクッションを抱いたまま、改めて仲間になる最後のシーンへのめり込む。




