第一章 白百合十字団 第二節 宿命の遭逢
岡朝ガウラは某有名電気街の片隅でひとり、人が創りし文明社会をブッ壊していた。
なぜかというに、何よりも、そのフォルムが生理的に受け付けないから。
尻尾もなければ鱗もない。爪や角――は、あったりするか。知らないけれど。しかしあったとしても、やはりありていな“ヒーロー”には、総じて尻尾がなかったので、どいつもこいつもクソダサかった。
「それはまるで……青いランドセルを背負い……スカートの下にメンズのボクサーブリーフを穿いた……丸坊主の巨乳幼女……」
あらゆる“ヒーロー”がそのような姿に見えているのなら、本人に責任はあるまい。
「しかし……こんなに一生懸命破壊しても……現実世界には何の影響も与えられないんだから……この作業は紛れもない徒労ね……」
彼女は結局、仮想現実で怪獣を殺害する仕事に精を出すタイプのゲーマーとまったく同じ結論に辿り着いて、唐突に、同じように店内で独り呟く、ギリ不審者へコントローラーを譲った。
怪獣を操作して世界を破壊するゲームが世界に受け入れられていたから、アイデンティティの確立方法を見失ったのかもしれない。
「もしかして……普通人って……何派でもないのかしら……? それでは一体何を考えて……日々を過ごしているのかしら……?」
律儀にかけ直すんじゃなかった。
いやマジで。
かといって彼女には、積極的に何かを成し遂げたくないと想う熱意もなかった。
巻き込まれてみたかったと思ってみたりみなかったりする、本気出したら綺麗なのに、歪んだ心がその瞳を澱ませていて、人を不快にさせることに置いては右に出る者のいない、今時のめんどくさい自称腐女子なのだ。
「好きなモンスターを好きな自己を否定されたら……純粋な殺意が湧くだけ……って、それ、一番だめなやつじゃ~ん……! ふふっ……、ふふふっ……!」
信じられないほど激太りしたら――いや、悪臭を放つホームレスをスルーできる都会人に、一体どんな人工の変態が通用するというのだ。
というかここにはもともと、そんなことを閃くレベルの同類しかいなかった。
「私って……太ってる眼鏡の男性が……好みなんですよー……?」
「……。……おほォっ!? な、なにか言いましたっ、スか……!?」
「でも……太ってることに……コンプレックス……感じてます……?」
「ふん、む。かっ、かっ、か感じてます……っ!」
「わー……あっ……私……そのオリモン……持ってない……」
「ブッ、ンヒィ!? こっ、これは……! ボクが小学生の時に応募したデザインが……! と、と、当選して……! 公式の……元になった……やつで……! んっ……!?」
「ふーん……かっこいいよね……? この『アイシテール』……私好き……」
「あ……っ!? あ……っ! い……! あ……、いる……?」
「え~いいの~……? ありがと~……♪」
「ほっ……、ほ……、他にも、持ってる……! いろ、いろ……!」
「すご~い……! 私のも見てー……? ぴこーん」
「おっ、うんっ。んぐっ……! す、す、すごいと、思う……!」
「えー……? まだよく見てないじゃーん……♪ ねぇ~♪」
「おっ、んんっっ。うん……! は、はい……!」
こちらの彼も黙っていれば中の上のルックス的な男子である。
中の上でこの挙動なら、やはり、ギリ不審者なのかもしれないが――なんにせよ。
困っていないで話しかければいいじゃない、念じるとか心底頭悪いのね。――そんなスタイルでこの世を渡る、英雄嫌いの岡朝ガウラは、まさしく、同じクラスのあのふたり、片喰あうろと円亦円満の同類的対極だった。
だからこその遭逢。
だったのだろう。
『居たぁ――――っ!!』
「キャーッ! 助けてえええぇっ!」
人は幸運に見舞われたら見舞われたで、『大吉は凶に還る』などと考えてしまう生き物だ。
ちょっとそこの公園で、電子ペットの交換をする。そんな誘いを心底喜んだ数分前の自分を咎めでもするかのように、中2女子に抱きつかれたアイシテールパパが青くなる。
「あのねお母さん! 時間がないの! 話を聴いて!」
「思いっきりお母さんって言っているじゃないっ!」
「イヤーッ! そいつらは魔法少女に化けた悪い悪い悪者なのぉ! やっつけてぇっ!」
(魔法少女を……やっつける!?)
確かに悪い悪い悪者なら、魔法少女に成りすますという悪事を働いてもおかしくはないが、もっとそれっぽい悪者から、更にそれっぽい弱者を守る理想しか描いたことはなかった。
「どいて!」
「邪魔!」
想いの力実に虚しく、パンくずのようにコミカルに、突き飛ばされて鳩が舞う。
「今回の敵はうぬぼれ男子! 愛の力が効かないの!」
「どれだけ懸命に尽くしても、他人がこんなにも頑張るのは、このオレに魅力があるからだと考えて一向に悟らない、良心の呵責に苛まれない、自分の悪癖を知ろうとしない、永遠にもっと寄越せとしか主張できない――そんな、愛せば愛すほど勘違いが加速する、悪い意味で鈍感な男子を、貴女は本っ当~~~に好きかしら!?」
「はァ? 何言ってんの? 好きなわけないでしょ、馬鹿じゃない?」
「ところがこの娘は好きなのよ! 世界一の馬鹿だから!」
「えへへぇ……?」
「、それじゃあなたが戦えば?」
「あー、だめだめ。口から産まれたこのメガネは、肝心なところで非情に徹し切られないから。最後には必ず根負けして、もぉ、今回だけだよって赦しちゃう寂しがりひゃひゃ、んーっ!?」
そういう百合コントはどっかよそでやってくれないか。
と三白眼で語った直後、




