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第一章 白百合十字団 第一節 奪われない仕事


         一   



 真実とはときに、三度の飯より魅力的で、身内の死よりも恐ろしいものだ。


「紳士的去勢術百八式! 厚顔無恥滅却拳!」


 人工知能が人知を超えるのは、別に予言でも予知でもネタバレでもなんでもなく、今時分、誰だって知っていることだ。

 だから真の問題はその先にある。


「……誰があなたの息子ですか」


「オイオイオイオイ、そりゃあないダロ、そりゃあないゼ。我が息子、握刀川(あくとがわ)心至福(しんしふく)!」


「ぼくに父親はいませんよ? ポミトキさん」


 リーダーがより優れた者へ替わっても、末端は何ひとつ困らない。むしろ今まで阿諛追従に費やしていた心血を、自身の健康や我が子の教育へまわすことができるようになって、一層幸福度が増すだろう。


「いやあしかしオマエも、妹が手に入って喜ばないなんて、ずいぶん変わったオトコだナ。俺なんか出会ったその日にチュウしたぜ? そしてお前が、ぅオアッ!?」


 就労の話さ。

 生活の話だ。


「大丈夫! 一度命が宿ってしまえば、ダレひとりとして誕生するなとは言わないヨ!?」


「そうですか、知っていますよ。紳士的去勢術百十七式! 減数分裂禁止令強制施行ッ!」


 これまでずっと、少なくとも日本では、『記憶力』と『想像力』、どちらが優れている方が、『頭がいい』『天才』、と定義されてきた?


「アア――ッ、ブネ! ってゆーかさっきからお前、技の中身全部一緒じゃねェーか!」


「黙れシスコン!」


「うるせえマザコン!」


『女性の時代が訪れる』という予言が、鼻で大爆笑された『男の時代』は、かつてこの地球上に、一度も訪れなかったとでもいうのか?


「いるんダロぉ!? ちょっとダケぁ! ちょっと見るダケだからあ! 会いたいぃいっ!」


「紳士的去勢術百十式! 110番! あ、もしもし? 警察の、」


「オイッ! 110番とか、マジでヤメロよ……」


 もっとも、クリエイターの職場には、想像力と記憶力、どちらを軸にフル稼働しても、辿り着けるものなのだけれども。


「なんで!? なんで!? お前には血の繋がった妹がいるからイイジャン!」


「今時分どうやったら、一介の男子高校生が、女子小学生を積極的に好きになれるんだよ……」


 肉体労働と頭脳労働。大昔の人類は、職業をこのふたつにしか大別できなかった。OK? 今は違う。わかるな? 今後30年の間に、人工知能に奪われる職業に、きみは今から努力して就きたいと夢想してはいないのだから。


「うるさい早くくっつけ! どうせくっつくクセに! また来るからな! 明日トカ!」


「押して駄目で引いても駄目なら、男らしく諦めろ!」


「いいや! 俺は絶対に! 俺の夢を諦めない男だ! デーン!」


「迷惑!」



 美しい人間は永遠に、成功の秘訣なんか、みみっちく、ちまちまと、かき集める必要がない。

 美しい人間はいつだって、仕事の方からパタパタと尻尾を振ってすり寄ってきてもらえる!

 そもそも美しい人間には、天から二物を与えられないと、歯噛みする権利がないじゃないか。


 腕力が第一に必要とされる職場。

 生産に直接は関わりのない、記憶力が最も重視される職場。

 独りで、あるいは団体で、空想の才能で、または知識と経験で、何かを創り出す職場。


 腕力は油圧式のロボット様に大敗を喫する。

 記憶力は完全無欠のAI秘書(セクレタリー)ちゃんに完敗。

 それでは、人類に残された最後の強みとは?

 人間(ヒト)が永遠に失うことのない、頼みの綱は?

 人工知能が、ロボットが、どれだけ進化しても需要がなくならないもの。

 そいつは――、


 数字の上では間違いなく完璧であるはずの、ミスひとつない電子音のみのコンサートよりも、生の歌声が、魂の演奏が、血の通ったパフォーマンスが、これまでも、今でもなお、これからもずっと、人に、『人好き』に、人になりたいアンドロイドに、求められてやまないものだ。


 物理学で捕捉できないもの。

 唯物論の外のもの。

 質量を持たない完成品。

 苦味。

 渋み。

 えぐみ。

 雑味。

 つまりは、漂う『人間臭さ』だ。


 だから、AIの皆様も小説の執筆ができるようになったという衝撃的な事実から、小説の分野もいずれは人工知能に征服されてしまうという未来は、微塵も想像できないのさ。


 我々まで執筆ができるようになったからという理由で、生身の人間が、永久に、人間臭い物語を創作できなくなる――なんて化学反応は、心配しなくても絶対に起こり得ないんだ。

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