アイドール編 エピローグ(後編)
「……なんだ、マジックか」
「あ?」
「熱造ちゃんも描いたげよっか?」
「いや、い、いい、いい……!」
また目がチラリ。
気づいたてぃら美サンタが、いやらしく目を細める。
「あの子ゎね? ムッキムキのゴリメン男子がたいぷだってゅってたよ……?」
「な、なに……!? そ、そうなのか……!?」
普通のサンタさんもやってきた。
「いらっしゃいませぇ、こんばんは~♪」
『ンィラッシャィァセェッ! コンバンワァ~~~ッ!?』
どうも何かが違う気が。
サンタも集団になれば、赤い盗賊団にしか見えない。
かくいうおれも赤いのだけれど。
でもなあー、これから空を飛んで他人の家に不法侵入――
ガチでドキドキしてきた。
何故ならそれは、ただの犯罪だからだ。
欲張りな日本のばか!
「こいつは《軍用卵》と言ってね。本来は軍事用の対人兵器なんだ」
と、サンタのひとりがなにやら語り始めたが、おれは男性の体毛フェチな女が気になって仕方がなかった。
「しかしあのとき、みんなも知っているように、全く別の方向から危機が訪れた。戦争を始めている場合ではないというのに、戦争が加速した。いや、いつだって、戦争を始めている場合なんてのはありえないんだけどね。ありえちゃあいけないんだけれど――」
どうして氷麻にときめく熱造のような目でヒゲを見る!?
埋火カルカよ!
「ひげー♡」
ああっ! ついに触っちゃった!
きっと腕毛も胸毛もすね毛も大好きなのに違いない!
「ヒゲもこう、白くてふわふわならいいのよねー。これなら髪と一緒だし。ふわ~」
最後の砦、白亜木てぃら美までがあんなことを言いだした!
「父性ね。あの子は今、純粋に父性を求めて動いているのよ。初めから父親がいなかったあの子にとって、男性の体毛とは、父親そのものなの」
「お前が言うと、格段に重みが違うな」
「あのヒゲ、私の私淑する、かのベンジャミン・フランクリンの髪に似ていると思わない?」
「うん。体型も似てるよな」
「サンタさーん! だぁいすきっ♪」
おれの将来の夢が決まった。
――と、いうわけだ。
以上の理由によって、夢芽留んたちの再登場はなし。
排他的とかじゃなくて、機密性はもちろん重要であるのだろうが、何よりも、危険性が高かったから。
いちばん初めの試みにフルメンバーで挑むのは、株やFXや仮想通貨に、全財産を投資するようなものじゃないか。
FXでの最悪は、投資額がスッカラカンになってお終い、では済まないみたいだけれども。
味噌顔ティシューペ?
行かなきゃな~、お見舞い行かなきゃな~。
ジュラ樹は再開した畑仕事へ駆り出された所為で、逆に3キロ太ったらしい。
どうでもいいけど、おれの今の待ち受けは、【えりあし】――じゃなかった。【てぃらぴゅいあ】。
最後に杣山とモモペが付き合い始めた報告でも持ってこられれば、結びにふさわしい綺麗みがあるのだろうと、おれでも思うけれど、現実でそういうことはめったに起きない。
「まずは親のいない子どもたちへ配る。その次に、親に虐げられている子どもたちへ配る――というふうにして、とにかく若い命を救おうと私たちは考えた。大人に渡すと争いが悪化するからね。――まあしかし、そうであったところで、更にそれを越える出来事が起こるとは、隕石の直撃以上に予想できなかったが……」
改めて礼を言うという台詞を飛ばして、サンタさんは礼を言った。おれたちもそれにならって、当然のことをしたまでですとは言わずに、あぃザァーッス! と言った。サンタさんは解脱世代を超えて来たな君たちは、と快活に笑った。
ピザの宅配がんばんぞって感じ。
各自担当の地域を地図で再確認し、オリザ姉に見送られておれたちは外へ出た。
あらまあなんと豪勢な、ホワイトキングチーターの橇……。
「たとえばビルとかを買えるお金があれば、大人にも入手できないってことはないんだ。彼女は私が引き取ることになってね。なにせこの仕事はスピードが勝負だから――……」
解説サンタの声が、埋火カルカと一緒に遠のいてゆく……。
待て待て嫉妬くらいするさ、ハハ。おれはそもそもそういった理由で男性が苦手でもあるんだからな。一番大事なのはあいつの幸せ! おれにはそう、こんなにも美しい、かにんちゃんがいるうへへ……!
「超かっこいいよ。君はこの橇を引くために産まれてきたんだね……? んー、ちゅ」
「ちょっと待て」
ヴォルペったかにんちゃんと、ふたりっきりでデートできるとは思っていなかったけれど。紳士的にてぃら美の手を取る。まあ必要とされるのは嬉しいことだ。いや、謙遜、謙遜。おれは全然モテてない。いいように利用されているだけだ。それだけだ。ただ、女性を護ることが、悪であるはずがないだけだ。
「中? 中?」
「うん。橇には荷物だけ。でないと超寒いだろ?」
「ふーん。やらしいことしないでよねー」
「んー、する」
「えっちー」
五月二十四日、木曜日。
午後十時ちょうど。
おれたちは一斉に舞い上がった。
選ばれなかった子どもたちを目指して。