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アイドール編 エピローグ(前編)

「ありがとねー、ほんとお世話になったー」


「いえいえ、こちらこそ」


 オリザ姉とお別れのハグ。おれもやりたくなったので、興味がないふりをした。適当にバイバイして自室へ向かう。お腹を撫でる。鼻を押しつけてふがふが。そしてほっぺたに無理矢理ちゅう! ああっ、目の白いとこかわいい。んー、ちゅちゅちゅ!


 寂しさを感じないと言っても、今回の場合は嘘にならない。何故なら彼女の移住先は――、思い出したおれは、あのときピンチを救ってくれた、かろうじて女子爛漫川へ、今更ながら感謝の言葉を送った。そして埋火うずみびママから立ち合いしてみる? とのお誘いが入る。


(わりと真面目にしてみたい……)


 高級マンションの一室と、うちの駐車場だったスペースへ建てた食堂の三階。もともとあいつの部屋だったからというよりは、シスコンの兄貴が作ったから。ちなみに埋火邸にはまだいくつか、家単位で自室があるらしい。なんと言わなくても桁が違う。


 同じマンションで住まうことになった細流妹は、一周して不安になったらしく、何故かおれに相談しにきた。襲ってしまわない方法? おれは少し考えてから、オープニングスタッフをやってみないかと持ち掛けた。どの道誘うつもりだったとは言わずに。


「それだと余計距離が縮まっちゃうじゃない!」


氷麻ひょうまちゃんも連れてきて。人手が欲しいんだ」


 今では赤き好敵手(レッドライバル)と競り合いながら、《ちぃとばかし》の名物スタッフとなっている。いや、オーナーはおれじゃないぞ。姉ちゃんでもない。建築者の妹、埋火うずみびカルカだ。

 なんだろうな。何もしないのに極端に奪われて、何もしなくても極端に手に入って……。案外とあいつの夢も、お嫁さんだったりするのかもしれない。


 氷麻ひょうまちゃんは厨房で、嬉々として魚介をさばいている。土日なんか泊まり込みでもう夢中。将来の夢は自分の船を持つことだとか。本当にお前はどこまで熱造ねつぞうの対極なんだ。いや、おれこそ頑張って夢を見つけねば。


 熱造と言えば、みんなも意外と気になっていただろう、川江々(かわええ)(はしご)ちゃんとのその後だ。お互いの休日が重なった日にときどきデートするのも充分楽しいらしいのだが、秘書と土木作業員。会うたびになんとなくすれ違う二人の心。そしていつしかかけがえのない存在になっていた、いつもそばにいるあの娘……。


「あのとき受けた衝撃が、忘れられないんだ……!」


「何もかも忘れてもおかしくないほどの衝撃だったのにな」


「そういう洒落はいいんだよ!」


 一体何が悲しくて、野郎同士で恋バナをしなけりゃならん。適当にあしらってもしくしく泣くだけで、別段犯罪に走りそうにはないなと思ったおれは、とりあえず飯食って元気出せと、昨日の残り物で励ました。単純な熱造はおれの手を熱く握って、ありがとよと涙ぐんだ。相変わらず飯をうまそうに食うやつだ。


 まあおおむねそんな感じで、おれたちは今も互いに支え合いながら、どうにかこうにか生きている。あとなんかないか? ああ、ええと、そう、あのときの雪は、埋火うずみびリュミナが手持ちのアイドール、シュエ・マオニァンちゃんで、おれたちへ燃え広がった炎を消すために、咄嗟に射出したものだった。


 ではおれの家に降らせたのは?

 時計を見る。午後九時。その張本人にもうすぐ会える。

 でもまああれは、除雲作業中のミスだったらしいのだが……。


 ついに奴がやって来た。

 右手にはマジック。

 にやりと笑って飛びついてきて、自慢の胸器をおれの腹へ押し当てる!

 卑怯だぞ! そんなことをされたら、抵抗できないじゃないか!

 座って座ってと言われたおれは、我慢できずにちょっと触った。


「ルパンルパーン♪」


「それ、超違うやつだから」


 反対側にも丁寧に描かれる。


「できた! 超かっこいい!」


 鏡で確認。

 手前みそながら似合っていなくはないが、おれはこの顔は好みではなかった。

 このモジャ感、ヒゲとどう違うの?


「明日から……、剃らずに伸ばして、くれますか……?」


 替え歌うま歌い手要らずの、セルフ替え歌うま歌い手だ。


「……はい」


「やったぁ♪ 剃ったら描くから! 学校ででも描く!」


「ふーん、ちゅーしようぜ」


「やだ~っ、べぇーっ」


 手を伸ばしたら帽子だけ取れた。


「はわぁ!? 返してぇ!」


 おれはウェ~イとやらずにはいられない男を、超絶チンパンメンだと認める男だ。投げ返すとか気取ってる。おいでと手招きするのは気障。そっと匂いを吸い込んだらひったくられた。両手で被ってかわいいポーズ。写真撮影の許可が下りる。


「すげー似合ってるよ。世界で一番似合ってる」


「えー、そう? それ、みんなに言ってない?」


「いや一番似合うのはお前だけだろー、赤と言えばお前だろー」


「んー、まあねー? んふ♪」


(これは結構本気で、偽のモデルのスカウトには騙されないように、強く言って聞かせないといけないな……)


 いつもの面子もこの食堂へやってきた。赤とシャークグレー、赤とミステリアスネイビー、赤とギルティパープル、赤とドラゴンフライグリーン……。


 全員、世界で一番似合っていた。

 おれは悪くない、全部サンタ服の汎用性の高さの所為だ!


 熱造サンタもやってきた。うわぁ目が泳ぎすぎ。しかしおれと目が合うや否や血相を変え、

 は!?

 やめろ、おれは男に唇を奪われるくらいなら舌を噛み千切って自決する!

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