第四章 BRBB 21 白亜木てぃら美のデシルシオン
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「生理じゃない? 腰いたーい……。腰の下。こつばん」
「大丈夫カルカ!? 早退する? 保健室行く? お薬飲む?」
「んー、大丈夫ー」
「親に叱られたのかなあと思ったんだけど……何か知らない? 狼坂君」
ん? おれ?
「氷麻ちゃん、その服すげー似合ってるよ。みんな戻ってきた青空に夢中でさ、変に騒がれなくてよかったなあ」
「えっ、ああ、うん……。ありがと」
心配は杞憂に終わりそうだった。
さて。
寝たふりをしてスマホで動画サイトで電子ドラッグのついでに、腋の下から生腿をさかのぼる――ではなく、振り向いて堂々と顔を眺めやると、ほんとだ白亜木てぃら美の目尻は、クラスの一番後ろの席で、いつも以上につり上がっていた。
話しかけてくれるなというオーラに、解きほぐしたくなる仏頂面。
昨日散々泣いたようにも、現在必至でなにかの痛みを堪えているようにも見える。
一応確認。
他のお友だちと談話中。
いや、あいつは人間中毒故に、ありったけの人間と関わり続けないと、動きを止められたアオザメよろしく死亡するんだ。おれたちだけじゃ全然足りない。まあそれはいいとして――、
十中八九、あのことだろう。
おれは三組へ帰る氷麻ちゃんに、小さく手を振ってから席を立った。
好乃が出るほどの問題でもないのだから。
腕を掴んで立ちあがらせると、一組がしんと静かになって、おれたちへ視線が集まった。
「……何」
「いいから来い」
ショートホームルームを告げるチャイムが鳴ったけれど、構わず進む。幸い空室はいくらでもあった。後ろ手に扉を閉めておれは言う。なるべくあっさりした口調になるよう努めて、
「花松先生は、残念だったな」
「! ……!? ~~~っ、わはぁぁああん! うぅえええぇぇん! ぐおーっ! ずびっ、」
白亜木てぃら美は全力で泣いた。
時折鼻水を両方の鼻の穴から噴き出して。
腕を広げたおれは卑怯にも、全力で朱い矮躯を抱きしめ返した。
今日もちゅーはしなかった。




