第四章 BRBB 16 鋸先輩
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一体誰に予測し得ただろう。ライムグリーン×シアンとピュアブラックのオッドアイという、それだけで充分に主役を張れる双眸が、あんなにも、『まあ別にそれもありだよね』と思える色をしたカラコン――いや《伽羅魂》で、覆われる日が来るということを。
燦然とシャークグレーに光り輝く、リーシアウェーブのふんわりかかった、モテカワミディアムロングヘア。デジャヴを呼んで色めく肩。右手が握る、ブラッドレッドブレッドブレイド。そして生まれて初めて見た、ウェディングバトルネグリジェ。
「素晴らしい……! 美しいわ!」
と、人間だった好乃が言う。
髪コプターでホバリングしながら、大きく夜の風を吸い込んで、
「ん~♪ いい香り♪」
そうだ、これは一体何だ。
この、桜でんぶとかまぼこの入ったお弁当のような、馥郁とした芬々たる香りは。
「《香然の気》よ」
「フレイグ、ランス……?」
「そう。この世のあらゆる空間に満ちている素晴らしい香気。合体したふたりから立ち昇る、炎のように見えるあれが、《香然の気》。そしてこれが私たち伽羅魂人間の、力の源」
「伽羅魂、人間……」
伽羅とは最上の沈香を指す。
キャラの魂、伽羅の魂、沈香の魂、人工の魂と合体した人間。
――伽羅魂人間。
(それよりも、女子こそ男子の大好きな、合体ロボそのものだったんだな……)
ないものねだりが叶う場面で共感してよと喚いては、共感が得られたら得られたで、自分に足りない強さを持った別の誰かに恋をする、宇宙船少女漫画号の一角で、一体何を求めてか、ただ間違いなく愛を求めて、因縁の母と娘が対峙する。
「埋火リュミナ! これ以上あなたの好きにはさせない! その子は私の大事な友だちなの! だから取り返します! 大嫌いなあなたの信念には一切関係なく!」
「はん、都合よく『友達』とか言って、男を便利なATM扱いする汚い女には何も言われたくないね。『可愛い私とお話できただけで幸せだったでしょ』? 馬鹿か! どこの阿房がエビチリよりも、お給金よりも、フライパンでジュワッと焼いて綺麗にお皿に盛りつける作業よりも、イライライライライライラする、殻剥きとか背ワタ処理とかいった屈辱的な下準備の方に幸せを見出すんだよ!? 『匂いが嗅げただけで満足なさい』? ハッ! 九官鳥とでも喋ってろ!」
「だから女だって言ってんでしょ!」
峰のないパン切り包丁が、おれがつけた名前の響き以上に格好よく奴を斬る。概念故に金属片は飛び散らなかったが、これまでとは違って、手ごたえ、歯ごたえは、ここからも十二分に感じられた。
百のエネルギーを内部で三等分する『三目複合型』ではなく、三百のエネルギーを一の体に詰めこんだ、反則の『三目融合型』。それに打ち克つためには、なにも三目人形だけを駆使する必要はなかったのだ。
三目人形はもとより、人類のお供の象徴だった。大量絶滅期兼氷河期の『集団生活』を、より一層快適なものとするために最低限必要な、共感と時短と食事を司る三種の神器だった。そもそもからして、人と組み合わさってこそ、真価を発揮できる存在だったのだ。
「それと、関係ないけど、いい加減きょうだい増やすのやめてよ!」
「ばーか、うるさい! どうせあんたも大人になったら、そう子どもに言われる方を我慢しよ~っ、て思うようになるのよ。嫌です、お断り。やめられません、楽しくて♪」
「こんの……、わからずや!」
「おーほほ、目指すはギネス更新よ♪ ぽこ、ぽこ♪」
赤でもピンクでも紫でもあり、赤でもピンクでも紫でもない、ファビュラスマゼンタの《香然の気》。見る人の心で固まった、名称が抱く定義の相違によって、相対的に色を変える、絶対的なその瞳。
小さい方には負けない勇気とスピードがあった。真剣勝負は二万発の打ち上げ花火のように、あっという間に記憶になった。真下の江久米根サービスエリアには人がいる。駐車場には相当数の車が停まっている。だからとどめは刺せない、致命傷は負わせられないと、埋火ママ――埋火リュミナは高をくくっていたのだろう。
「心刺せ、《鋸先輩》!」
ココロザ↑セ、ノ↓コ↓ギ↓リ↓セ↑ンパ↑イ!?
霧雨とか村雨でもなくて?
「《不可の圧殺》!!」
誰がどう握っても絶対に可愛く見えることはない変身ステッキの一振りで顕現した、ぼくのかんがえたさいきょうのさめが、特大かき氷機の顔面へ、触ってみたいメタボ腹からダイヴ。顔面が空き缶のように拉げる。腹部の画面に走った亀裂を埋火リュミナが咄嗟に避ける。危ねーな、と怒って見せるも、煩く弾けた爆炎に、面白顔で飛び上がる。
かわいい。
いや、敵だけど。
三目人形だから落下しても大丈夫? たとえ問題があっても、悪いのは全部埋火リュミナ? キングチートペンギンが、亀裂から銀の血飛沫を噴出させながら、ついに一度もかき氷を作ることなく落ちてゆく。
氷……。
氷麻ちゃん!




