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第四章 BRBB 15 死灰復燃


        14



 かにん空間へ飛び込んだ途端、全力でしがみつかれた。


 コントローラーのように振動しながら、ゴールした短距離走者のように息をあららげ、おもいきり匂いを貪り吸われる。タイコウチに捕食されるメダカの気持ちが身に染みてよく解った。

 握力すげーな、お前。


 耳に生暖かい二酸化炭素!

 目がマジだ。座ってる。

 ちょっと噛まれた。

 愉しそうに目が嗤う。

 怖ぇーよ。それで落ち着くのならいいけ、痛い、痛い、痛い、やめろ!


「ぁん♪」


 かにんちゃんにも飛んでもらう。今来た道を逆戻り。はい充電お終い。聞き分けのいい子をいい子いい子して、かにんボディから少し出る。髪の毛をヘリコプターへ変形させて、バラバラと隣へやってきた好乃いいのから、疲労で色気の増したオリザを受け取る。

 首筋すげーな、お前。


「――で、24倍って――、本当にそんなことが、有り得るのか――!?」


「ええ! 理論上は!」


 風を切る滴の中を数字が泳ぐ。あちらからも24倍になるのが難点だが、無効を相殺できる代価だと思えば安すぎる。

 理論上は――つまりこいつのように、三目人形アイドールのルールに関係ないところで問題が発生しなければ。

 化学を無視した固有の苦手に足を引っ張られなければ。


 肝心の方法を耳にしたおれは、驚きのあまり大きな声を張り上げた。

 マジでそんな方法で!?

 言われてみればそれしかないが……!

 そんなのはあんまりにも真骨頂すぎる!


「でももうこれしか打つ手はないの!」


 ああそうだな、それしかないな。本当にそれしかない。だからやるしかない。

 ――とは言っても、おれは特に何もしないのだが。

 何も、できないのだが。

 獣へ入れば意識が落ちる爛漫川から、もう一度説明のレクチャーを受けて――もう追いつく――おれは中へ引っ込んだ。


『ええ――――っ!? やります!』


「やってくれるか!?」


『女は度胸!』


 うーん、女子ってマジで予測できない。

 そういや今の時代って、女性の方が生きる力は勿論のこと、負けず嫌い度も高かったっけ。


 目を覚ました美人秘書が、積年の想い虚しくおれからひっぺがされる。

 おれにもできることがあった!

 こいつを全力で護ること! ぎゅー!

 泣くなよ、あとで熱造ねつぞうって名前の、超絶モミナシモミモミを紹介してやるから……。

 江久米根(えくめね)サービスエリアが近づいてきた、もう時間がない!


 天翔あまかける高麗犬が加速して、おれたちの部屋がぎゅっとしぼんだ。度胸のない男には信じられない決断力で、ふたりが飛び出しおれの心臓が跳ね上がるッ!

 急ブレーキに後押しされなくとも揉んじゃって、後ろ足が真冬の春を、虹の形に引き裂きながら火花(ほし)を産む。


『―――――――~~~~~~ッ!』


 再び呼吸ができるようになるまでに1000年もの時が流れた。

 両耳で心臓が早鐘を打つ。

 それはまるでサーカスだった。

 陰鬱な種も陰険な仕掛けもない、潔い肉体のイリュージョンだった。

 そしてこれはまだ、温室を名残惜しんで高まった、緊張の結果分でしかないのだった。


 慣性の法則と空気抵抗と風圧、そして全方位から突撃し続けてきていた素粒子による圧力の全てが完璧に釣り合って、埋火うずみびカルカが一瞬間、人形の間で静止した。遥か高く見上げた海で、翼のない人魚が産まれる。またおれの息が止まる。頑張れと握りしめた掌からではなく両目から、じんわりと汗が滲んだ。

 瞬きする間も惜しいというのに!


 USBジャントー眼帯という名の拘束具から、KAWAII右目が解き放たれる。陰と陽のハスキーアイが現実感を()()ずり、冷たい瑞夢ずいむをあとに残して、頭から真っ逆さまに急降下。ふたつに分かれた火の玉が、螺旋を描いてあとを追う。直後、全てが真っ白に輪郭を失い――、



 爆心地から、言語化できない炎をくゆらす、ひとりの少女が現れた。



「必要ないと棄てられてなお、清く正しく怒りに燃えろ……!」


「自宅にマグロが届いた際の、水銀除去はお任せ下さい♪」


「被った灰を、そのまま愛して!」


「ウェディングケーキ、入刀フォーム!」


死灰復燃(しかいふくねん)!」


伽羅魂(きゃらこん)合体(がったい)!」


『カルカロドント・オルルーザ!!』

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