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第四章 BRBB 10 白銀世界


        9



 もしそのとき、丁度、《何って訊けないライヤーテールBANG!》が流れていなければ、おれは気付けなかっただろう。


「じゃあ最後、ちょっとスーパーに寄ってから、帰りま、しょう♪」


 家に帰るまでが遠足です爛漫川が、荷物の大半を軽々と自力で持ち運びながら言う。

 まだなんか買うのか。

 大天使サキュバス部を設立して、第3種永久機関を開発すればいいのかね。


 疲れたら疲れたと言い、おんぶしてほしくなればおんぶと言う、眼鏡女教師は論外として。

 ふたりっきりではなかったとはいえ、好きな人とデートできて、絶賛感涙継続中の眼鏡秘書も除外。

 自分の買い物だったんだから、姉の方は別に疲れてたっていいんだ。


 …………。

 目元だけが急激に老けたというか。やや白目。ほぼ三白眼。後天的なものだとばかり思っていたけれど、もしかすると先天的なものなのだろうか、という着想を得てしまったかのような、魂の抜け具合である。

 マジで大丈夫か。


 ジェンダーに関係なく、遊園地に興味がないタイプは、お買い物も楽しめないだけだと思うが。

 まあ、スポーツ、たとえばバスケをやるにも人数が要るしな。でもそれだときっと、適当にかき集めた乙女は全然相手にならなくて、結局男子と試合をすることになるんだ。

 ううむ。


 そうだこいつは比較的風呂好きだし? 入浴ダイエットなんてのも世の中にはあるらしいから、最後の最後にサウナ対決でもやればいいんじゃないのか。というよりもむしろあの好乃イイノが、そこまで計算していない可能性の方が低い。最近偶然見つけたフィンランド式のサウナへ行けば、貧乏民家の冷たい風呂場に全裸ですし詰め状態とは――よく似ているのかもしれないが、おれも一緒に入れるかも、しれない!


 その、万人を虜にして止まない底知れぬ包容力に惹かれたおれは、そこで見覚えのある女子小学生を発見してはたと足を止めた。

 よく考えると不自然だ。ステージまで完備されたスペースで、こんな催し物をするなんて。まるで今にも残りのみんなが、サプライズで登場しますよとでも言わんばかり……え? 待て。まさかそんな偶然が……!?

 耳当て付き猫耳ニット帽に、背伸びした私感満載かわいいキッズトレンチコート。そして、アイドルといえばこれ。両サイドのフィラメントが、すらりと伸びたぱっつん前髪。



FiRe(ファイヤー) Igloo(イグルー)》のセンター、誰もが見蕩れる白銀髪はくぎんぱつの、シュエ・マオニァンちゃんがそこにいた。



 じわじわと喉が鳴る。人間の男性、つまりライバル――以外は全員嫁だと、物心ついたころから思い込んで生きてきたおれだからこそ、見抜くことができたのかもしれない。


「ねえ、あれってさ」


 なにっ!? 白亜木はくあきてぃらよ、お前もやはり《FiRe(ファイヤー) Igloo(イグルー)》のファンだったのかぁ~っ!?

 尊いよね~、《太陽(なつ)に焦がれる熱帯蝶蛹(クリサリス)》♪ やっぱまぢ今って蛹期間? 忍ぶべき時?

 この氷河期(まふゆ)を楽しもう、じゃなくて、太陽(なつ)を好きって気持ち、大切にしていきたい。的な?


「ん? なにして――って、なんじゃこりゃ! 『寝具フェス』だってー」


「え……? エロ~い……!」


 好乃いいのが嬉々として眼鏡を光らせ、カルカが体力を全回復。

 しかしどうなんだ、その口癖は。

 氷麻ひょうま班がふらふらと、魅惑のベッドに誘われる。

 降りてもいいぞ。また今度。


「いやだからさ、あの子、ごにょごにょ……じゃない?」


 これが耳が妊娠!

 え? ああ、うん。

 ちらみは背中でやっぱり見間違いじゃなかったのねと呟いた。

 おれはなんだっけほらあのアレを思い出そうと目を閉じる……ああ! いや、でも、それと、彼氏がいるかどうかは別だ……!

 おれはまた肩車をしておけばよかったと、首を静かに振りながら思った。


 さあ知らん。見た感じ、お布団に恋をしている……のか? 無断で商品にボフついてるけど、あれは全く犯罪ではない。むしろマニアが言い値で買うだろう。

 待て。他人の空似だったとしても、どうして女子小学生が今、こんな時間に、独りでこんなところにいるんだ? 仕事が嫌になって抜け出して来たのか? キッズ向けの漫画じゃあるまいし。まあここの方が地上よりも数段安全だと言えばそうだが。


 ああ、かわいいな。あ、いや……。カルカとちょい間違えたとは言えない。こいつは女の子平気なんだっけ? 平気だけど同性との付き合い方が下手……ややこしい。男好きってのが被ってんだよなー。いや女子は基本男好きか。細流せせらきらいあ系以外。んー。


 ときどき小さな『人』にはなるけれど、決してあざとく『ω』にはしない口元が、ぶん殴りたくなるアヒル口には決してならない口元が、冷徹なる(みかど)を求めるおれの心をじんわり癒す。


 寝具じゃないけど、こんなのも売ってた。

 ねこみみみみあて。

 みみみみかわいい。


「ちょっと待て、そこの犯罪者ァッ!!」


 パブロフの犬坂おれが、即座に爆弾を連想して、ここまでが胡蝶の夢だったのかと驚いた。

 想像力がどれだけ優れていても、全部忘れちまうんじゃあ意味ねえな。


 白亜木はくあきねこみみみみあてと一緒に見たステージでは、テッカテカに肥え太ったバーコード頭の男性が、捕まえたシュエ・マオニァンちゃんの小さな口を、後ろから無理矢理押さえ付けていた。


 細流せせらき氷麻ひょうまが鬼のような形相で、毒紫にゆらゆら染まる、特大バールを背中から取り出す。


 なんとあれにも後遺症が!

 ――なんて言ってる場合じゃない。

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