第四章 BRBB 09 渥丹の睚眥
テレパシーでいつでもwikiを見られる、《H+》のみなさま、こんにちは。
読者のみんなにだけこっそりと白状するが、実はこれ、絶対すぐにスマホを使うマンを先読みした、おまけページのひねくれ問題だったりする。
ちなみにおれにはこの知識はなかった、今知った。
(小学生の方が解けるのにww 的な、発想力大正義縛りの中の設問ではないということ)
(常識ではなく日常に、平均のラインを設けるなら、そこをちょっと超えた知識は必要になる)
毛色の違う設問である可能性も、きちんと考慮できていたのか?
それともそんなことすら必要がないほどに、あらかじめ知識が豊富だったのか?
白亜木てぃら美は、またしてもあっさりと、
「Qのアスカに似てるって言うな! 『〇〇に似てる』は誉め言葉じゃないっ!」
と答えた。
パーにした左手に、親指を折り畳んだ右手を叩きつけて、天へ高く上げながら。
「っ、どうして!? どうして!?」
「どうしてもなにもないわよ、『ト』『ハ』『ヘ』って言ったら、音部記号しかないでしょ。ト音記号は『G』の、ハ音記号は『C』の、ヘ音記号は『F』のアルファベットから作られました。促音、長音、濁点、半濁点には何の意味もないので、すべて取り除きましょう――♪」
「た……! 誕生日には……、何が欲しい……?」
「夏」
おれはとにかく一番難しそうな問題を血眼で探した。
とても簡潔には言語化できそうにない図形問題を遣り過ごしていった先に、『15秒以内で解けたらIQ150』という問いを発見。
……む?
これで丁度いいか。
こいつ自称IQ150だし。
解けなけりゃ見栄を張ってただけだと判明。その場合はおれの勝ちにしよう。うん。で、解けたら普通――でもないぞ、これは。何をどう考えたらいいのか全くわからん。解けるわけがない。
いやだから、解けたらIQ150なんだって。ただ単に凄すぎるんだって。
出題者として解を確認。
……んん?
おおっ、成程!
ほんとだ、すげー。
今回はぶん殴りたくはならなかった。清々しい気持ち。美しい。
しかしこれは解法を知ってても、おれなんかには絶対、15秒ばかしでは解けんね。
スマホを取り出しストップウォッチへ。ぞくぞくする睚眥。もしかしてこの選考時間中に、記憶を整頓していたのか……? となると、できる限り迅速に出題しなければ。
出題するころには、おれはどうしてか、こいつに正解してほしいと強く思っていた。
『72=山犬 12=野良猫 6=首長竜 0=?』
設問を目にした顔を見て、おれはやはりご主人様には飛び切りの女王様スマイルでD・Fをおあずけし続けていてほしいと心の底から思った。よく考えれば泣いてる顔なんか微塵も見たくなかったし、敗北を喫する場面にも、全く立ち合いたくなかった。おれの心臓へ後悔の矢が突き刺さる!
(嗚呼、どうしておれは今こんなことをしているのだろう……!?)
見慣れた縦長瞳孔も、渥丹の虹彩も、光を纏ったレンズで見えない。7……8……9もう駄目だ!
と、そのとき、彼女の首が向かって左方向へごりっと傾いだ。
正午から15分時間が巻き戻った。
(おい、まさか、うそだろ……!?)
髪の蛇が遅れてズルリと後を追う。
呼吸を忘れたおれが奥歯を強く噛みしめる。
戻ってきた左目には、生気が爛々と漲っていた。
狼鍋を食べ終えた例の三匹のように、口の端がギイッと吊りあがる。
そしてそのままの格好で、一秒間に三文字言った。
「と・か・げ♪」
14、15、あとは知らない。
肺の中へ空気が流れ込んでくる、おれは思わず立ち上がった。
「……っ! まぐれという可能性も、ある」
「牛、蛇、鯨、叫鳥」
「ペルフェ~クトゥ!」
図書館の中ではないので大丈夫。
おれは負けた。
しかしこれでよいのだ。
奢らせて頂けるなんて、願ってもないことですよ。
「ではそろそろ行きましょうか、こじつけじゃない6くん?」
「はいっ、ペルフェクトゥ18先生!」
消耗品であるところの文房具を少々買って、小さな掌をも一度奪う。
連れ込む先は勿論、ティラミスのおいしいお店。