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第四章 BRBB 08 地下軋美


        8



 女の子の秘密の買い物。

 深夜に神さま視点で覗けるのなら、カップ麺をさかなに喜んで飛びつくけれど、同行すると決まると恐ろしく気が引ける。そんな単語を神秘性爛漫川は口にした。


(それじゃあどうしておれはここへやって来たんだ?)


 あれよあれよと言う間に、ドラッグストアとランジェリーショップと、家具・インテリア・雑貨店が走馬灯。

 気が付くとおれはH木先生と一緒に本屋さんの区画へ入っていた。

 せめて事前に行動計画を教えておいてくれないか。

 そうか、おれも好きだよ、この匂い。

 ああ、一生嗅いでいたいね。


 推理というのも大仰だが、おれは文字に恋する変人ではないので、水族よりも家族の声帯に興奮する奇人よろしく目に映る夾雑物の色を消した。いや、一見こいつが女子会からハブられてる形に見えたから。


 案外とすぐに答えが出た。氷麻ひょうまのためにてぃらが頑張る――これは時期尚早だと判断したためか。カルカもあれでいっぱいいっぱいなのだろうし。あいつらもまだ友だちになって日が浅いからな。女子会というか、肉食女子会……なんだ、最近はクーガーガールって言うのか? 絶対流行んねえぞ、そのネーミング。

 あれ、どこ行った。


 参考書に興奮するHを発見。ふと中学時代が気になって妄想。茶髪に見える赤毛は、小学校低学年のころから伸ばしていた――今と同じか、ツインテールか、ポニーテールか、三つ編みおさげ……コンタクトを外して眼鏡をかければ、いずれも大して差はないな。セーラー服に着替えさせて、ノートとペンを手に勉強が大得意。そして『友だちが欲しかった』――、


 待て待て待て。

 何よりもおれの想像力が、全くお墨付きではない。


 いやおれは解説文から筆者のポリシーとか痛々しい信念を読み解いたりはできないからどれでもいいけど。違いとかマジでわからんて。いや犬は全部違うだろ。んん? そういうことなの? ふーん。


 髪を指にからめて遊ぶ。

 するん♪ 楽しい。

 うん。聴いてる聴いてる。


 とは言ったものの、何に決める気もなかったおれは、漫画コーナーへ行きたかった。

 なに? お前漫画読めない人?

 ふむ。たとえば四コマ漫画だと、十六のスクリーンで別々の映画が同時上映されているように見えるらしい。どうやってもオチの部分が見えてしまうし、一度視界に入ったら永遠に忘れられないから、紙芝居形式でなければ読めないのだと。

 うーん。脳が発達しすぎてんだな。おれなんか四コマ目を読む頃には、一コマ目の内容を完全に忘却しているというのに。


 おれ? おれは名前がそのままの形で見える。ん? わかんない? つまりだな、『斯上(このうえ)斯臘(しろう)がお花屋さんで鬼田(おんだ)鬼怒(きぬ)と手を繋いだ』って文章なら、CGで立体的になった、人間サイズの『斯上斯臘』という文字そのものが、同じく人間サイズの『鬼田鬼怒』という文字そのものと、『お花屋さん』という文字が書かれた白い壁の手前で手を繋いでいる映像しか見えない――と。ああ、大変さ。いや手はあれだ、棒人間の手だよ。にゅっと生えてくんの。ああ、虫さ。文字というものは何よりも、口語的虫に似ている。


 こうして改めて眺めると、無理難題にもほどがある消費者の夢も、次第に叶ってきているなあと実感する。飲食しながら未購入の本をテーブルでまったり読書可能だなんて、やりすぎだとも思うが、こうでもしないとネット上の大型店舗に負けるのだろう。


 と、まさかのアレを見つけておれは二度見した。

 熱造ねつぞうなら今のおれを雰囲気小学フェイスと表現しただろうか。

 そうだここは本屋だった。

 胸が高鳴る。

 制限時間を無視すれば、おれにも正答できるかもしれない!


 さっと手に取って適当にめくると、次のような問が目に入ってきた。

 空欄に入るひらがなを答えよ。



『ち□きしみ』。



 …………。

 …………は? じゃなくて、『か』?

 地下軋美ちかきしみ

 誰だ。

 引っ込み思案で虚弱体質。でもちょっぴりえっち――なのか? いやそんなわけがない。っていうかこれだけの情報で、これしかないという一文字を限定できんの? 無理だろ。


 無意識で『あ』から順に当てはめて読んでいる自分に気付いたおれは、あることを閃いて潔く負けを認めた。

 そうだ、おれのことなんかどうでもいい。どうせ馬鹿だ。先生に出題してみよう。わかんなかったら超萌える。即答したら更に惚れるかもだけど――いずれにせよ面白そうだ。


 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせながら解答を確認。途端、心の中でにやにやと口笛を吹き遊んでいたおれの顔が般若になった。むほっ!? ぐぬぬ……! そんな、そうか、これが、解説文から筆者のドヤ顔が浮かぶというやつか! ッ畜生ォォ――ッ! ぶん殴りてえ!


「なに珍しく百面相してんの」


 おっと気付かれた。こいつがチビでよかった。筆者の生霊に憑りつかれたかのような表情を隠しきれない、もう既に答えを知ったおれ!

 こほんと咳払いをひとつして、件の本をスッと差し出す。某ページを開いて見せつけると、白亜木はくあきてぃらは即座に浅笑。そして言う。


「空欄っていうか、四角でしょ?」


 反対にこちらをたしなめるように、前のめり右目ウインク。

 除霊されたおれは、いつものお犬坂を取り戻した。


「先生かわいい。先生好き。卒業したら結婚して」


「もぉっ、お姉さんをからかわないの♪ でもうれしいっ♪ いやぁん///」


「お前、誕生日いつ?」


「1月17」


 まったくお姉さんではなかった。

 ああ、5月1日……では第二問!



『ベッド=13 パート=10 ペッパー=?』。


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