第四章 BRBB 06 靉靆
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「こことかほら、地下三階。凍死の危険性はありませんが、埋没の危険があります。だってー。怖ーい」
「店でスマホでネットを覗くな」
巻いて、巻いても、押して、押して、現在の時刻は午後六時。
おれたちは今、本当に不動産屋へやって来ていた。
「うーん。有ちゃんハウスよりも安全なところって、やっぱりそうそうないわねー」
埋火カルカの新居を探しに。
探すだけならタダ、ということで。
「うちのマンションにしたら? いえ強要はしないわよ? ちょっと言ってみただけ」
「らいあの住んでるのってどこ? え、ここ? ここはちょっと、お家賃の方が……」
実のところ、第六度目の大量絶滅期が到来する以前から、世界中で超々地下居住施設の開発が進んでいたらしい。
この、ファミレスから不動産までそろったニュー月虹地下街にも、近々高校が入る模様。移動教室が楽しそうでいいな。おれたちは何部を設立すればいいのだろう?
不動産屋さんに恋だってーと、サジェストから話がそれてる。
女四人で盛り上がる。
こいつこそ女性を克服できたら何をするんだ? 他にしたいことがあるのだろうか。したいことじゃなくてもできちゃうからもうそれでいいやって感じなのか。いや本人にとっての一番の幸せを求めている余裕なんか全くない。今はとにかく死を回避しなきゃなんだからな。
ん?
四人?
顔はともかく超絶イケボ屋さんの周りにいる女子連中を再確認。
おれの大好きな靉靆が居ない……、
ドキン、自分で言ったあの言葉が蘇る。
ほんとに好きな相手には……!?
慌てて店から飛び出す!
「うわーっ! あぶ……、危ねーな、こんのっ!」
「おんっ!?」
鳩尾へ頭突きされても愛おしい。どうしてしまったんだおれは。いや初めから頭部は好きだったが。猟奇的とかじゃなくて。まるっとしててかわいいじゃん。ツインテールの最大の魅力は、あの撫で心地の良さそうな後頭部だろ?
こいつは”ロングツーサイドアップ”とかいう和製英語だけれど。
ああ、まるっが好きだからおれはやや不摂生なお腹が好きなのか。
胸も尻も眼球も、まるっこいからかわいいんだ。
話を聞くとただ単に、使用中だったから外のお手洗いへ行っていただけだった。ハンカチかわいい。よく見ると指も短っ。手ぇちっせえなあ、お前。というか人一倍代謝が良かったら、普通はトイレが近くならないものなんじゃないの? 汗で出るから。
じゃなくて、
黙って行くなよ、心配するだろ。
「あぁら、ありがと? でも大丈夫よ。先生は大人だから、うふん?」
超心配。
背伸びのみでできているのかお前は。
偶然出くわした彼氏と話をしていたんじゃないのかと理性担当のおれが囁く。
「アハハ……?」
渇いた笑いが勝手に出た。いやいや実に普通だって。こいつにこそ彼氏のひとりやふたり居るだろう、誰がどう考えても。男好きなんだから。告白? そんな馬鹿な。迷惑行為防止条例に抵触して補導されたいと心の底から願えるほど、ドMになった覚えはないぞ。
「お、おお、お前、い、今、誰かに会ってたの……?」
「は? え? ああ、うん。いや、会ったっていうか、見たっていうか」
「!?」
「見間違いだとは思うけどねー」
あやうくここから更に質問を重ねそうになった。この感じから彼氏ではない誰かを見たのだということすら読み解くことができないのであれば、真の男であるとは言えない!
「だ、だから誰? をみ、み、見た……の?」
「ん? ああ……、んん!? んん~~~っ?」
ああっ、流石に気付かれた。
「ひ・み・つ♪」
だめだかわいい。
「おなか減ったー。まだ終わんないのー? どうせ借りないんでしょー、お金ないんだしー」
一、好乃のもとへ指示を仰ぎに行く。
二、こいつの手を取って飯を食いに行く。
三、いやマジでチョップってなんなの?
おれは小さな手を取って、地毛リボンのもとへ支持を仰ぎに行き、六人で飯を食いに行った。