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第四章 BRBB 05 おいさか君と てぃら美先生


        5



「『あのとき影で笑った生徒を待ち伏せていた』」


『こえーよ!』


 そのためのバールだったの!?


「都合が良すぎたのは氷麻ひょうまちゃんの方だったみたいね。大事な相談があるから友だちの家へ泊りに行くと断って家を出た。馬鹿にしたやつは男でも女でも関係なくぶち壊そうと思っていた。そこへヒーローになるチャンスが訪れた。とにかく壊せるならなんでもよかった」


『こえー……』


 問題児多すぎんだろ、ここ……。

 まあ何もかも地球規模の貧困の所為なんだが。


「それであとから、『実は心が女の子だった』という設定をでっちあげて、正直に嘘の告白をお母さんにした。というわけ。めでたし、めでたし♪」


 ああ……だからあんなにも、全てを受け入れる私って素敵っオーラが出てたのか。


(ちなみに五月八日の火曜日は、ずうっとジュラ樹の部屋にいたという虚偽の報告で、予測される衝突を回避したらしい)


(たいしたことない嘘でも、なんとなく傍から見ていて累卵の)


「だからあんたは早く勉強しなさい。最低限宿題は終わらせるの」


『だから』ってなんだよ。


「いやーだー、これからふたりの新居探しに出かけるからに決まってるでしょー?」


 脚バトル勃発。

 このっ、このっ。

 ひと思いに触ってやろうか、いや流石にそれは駄目だ。


「妹の方は何やってたんだ?」


「ああ、あの子? あの子はねー。『好き』って気持ちが強すぎるから、してあげたいことを全部書き出して提出するように指示したの。本人にぶつける前に一旦ね。ま、その中で問題なさそうなのがあったら、女性苦手克服の役にも立つでしょ」


「ふうん」


「はいもうお終い。ふーんふーんて、答えが解ったら全部忘れる癖に質問ばっかりしないの」


「はい」


 眼鏡をかけたてぃら美先生が隣にやってきた。ちょこちょこふわりといい香り。これなら何時間でも勉強できるね。

 初めは英語の予習。まずわかんない単語にチェック。辞書で調べて小さく書き込む。それから何度も音読。大体意味が解ってきたらノートに日本語訳をメモ。七十点の変な文ができた。違うでしょと百点にしてくれた。

 …………。

 やっぱり甘いぞ、てぃら美先生!


「勉強に限らず情報というものは、母国語を会得したように頭に入れるべきなの。なんでもそのように暗記すべきなのよ。狼坂おいさか君、あなたどうやって勉強して、最終的に日本語を喋られるようになった?」


「その狼坂君っての、いいな。ゆっくり首をかしげながら言ってみて。髪は掻き上げずに」


「おいさかくん? あのねぇ、先生ぇ今、とぉっても真面目なお話してるのよ……?」


「おれって実はMなのかなあ?」


「んん? なぁに、それ? 話を逸らさないで」


 えー。んー。えーと、なんだっけ。日本語? それは……。


「ああそうだったわねごめんなさい、先生ちょっと無思慮だったわ。ごめんなさい」


「? ああ、いや、」


「大丈夫よ、先生がついてるからね!」


「先生っ!」


 まあ、全体的に小声で。

 首領が上座で何やら真面目に集中してるから。

 男の方の氷麻ひょうまちゃんを好きだった男女の心のケアとかまで、多分考えているんだろうな。


「『反復』。どれだけ頑張っても暗記できないのは、自分の脳に合った努力をしていないから。瞬間記憶力を司る『海馬』が発達している人は、スマホにアプリをダウンロードするように、一度見ただけ、聞いただけで暗記ができるわよ? でもその代わり、辛い出来事を死ぬまで忘れられなかったり、死にもの狂いで書き上げても、二次創作? はいボツねと言われたりする。想像力を司る『前頭葉』の容積が、物理的に人並み以下だったりするから。だから暗記の分野でのみ1位を取られる他人を妬まないこと。ダウンロードができないなら、バウムクーヘンを作るみたいに、何度も何度も薄い層を重ねて形にすればいい。母国語が喋れる時点で、私もあなたも同程度の長期記憶力を持ってるって証明されてる。それで充分じゃなくって?」


「だから数学は解を丸写ししてもいいと?」


「は?」


 服を脱いでお風呂に入ってもいいのと質問した中学生でも見るような顔をされた。

 勉強界の闇は深い。

 まあ写していいのなら全く文句はないさ。ああ、うん。わかってるよ。問題が解ける理屈が今解ってりゃいいんだろ? そりゃあ今は解るさ。今はな。


「数学は解を丸々書けなきゃ不正解なんだから、こうやって何度も書いておけばいいの。でも他のは駄目よ? 地歴公民を丸ごと写したりしてたら青春終わるわ。あなたもう飽きちゃった大好きな漫画、1コマずつ描き写して憶えたわけじゃあないでしょう?」


 はいはい。

 肘で触っても無反応だったので、調子に乗って太ももを揉んだら受け入れられた。する。


「ちょっ……! そこはほんとにだ……! やっ……、あほ……!」


 かにんちゃんが癒し担当で、オリザ姉がお料理担当。好乃が生活費の稼ぎ方担当。カルカは絶対理容師が似合うぜ? 是非そっちの道を勧めよう。本人が嫌だと言わなければ。で、こいつが勉強を担当だろ? ああ、こいつには教員免許を取らせよう。兄貴は建築会社の社長で、その親父はダチョウファームの従業員。で、ただ今食堂を建設中……。


 なんかもう町じゃん。ここ。飯と女とか言っちゃって。じゃあおれの目標もう達成? 夢叶っちゃったの? なんの努力もしていないのに? まさか……ああ、じゃあこれを維持することが努力で、かつ目標になるわけだ。なるほどね。やりま、しょう。


 漢字の勉強はしちゃだめとか言われた。一番好きなのに。なんでも漢字は量が多すぎる癖に少ししか出題されないから、その努力時間を全部読書に費やした方が総合点を上げられるのだとか。読書は一番苦手なのに。


 というより、勉強とはそもそも、何度も言うように、母国語のように聞き、喋り、大好きな漫画のように黙読し、朗読するものであるというのが基本であるらしかった。

 つまり勉強時間の九割方は、いかにも学んでいますアピールを微塵もせず、疲労感も達成感もほとんど覚えないように、教科書、参考書を読みふけるべし。ということなのだった。


 読書は一番苦手なのに!

 圧倒的ストレス!

 おれは仕方なく太ももで我慢した。


「っ、こぉら。おいさかくん? そういうことは、もう少し大きくなってから?」

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