第三章 鬼謀 B‐36 かじるじょし
おれの中の眼鏡美女、細流らいあが屋台のチョコバナナを、見ているだけで買って食べない。
「うわ、これ、本物? 初めて見たぁー。でも私、甘いの嫌いなのよね? チョコレートとか、一番嫌い♪」
どうでもいいけどお前はほんとに何もかもあいつと正反対だな。
じゃあ何食うんだ。
「そうね……日本酒とか、飲みたいわ?」
「駄目に決まってんだろ! 未成年!」
絵面が痛くならないように、一旦斜め上の虚空へ、突っ込んでみせたおれだった。
お前はほんと、芯の部分は、赤いあいつと一緒だよな……。
「だってビールとか臭そうじゃない?」
突っ込みが間に合わなくて正解だった。
買ったばかりのチョコバナナを、ぴゅあぴゅあの口元へ近づけて愉しむ。
「想像してごらんなさいよ? 懐かしのメールが入って、何かと思って玄関開けたら、失恋の痛みをお酒で癒そうとしたところまでは覚えてるスーツ姿の旧友が、ろれつの回ってない赤ら顔で、ヘラヘラぼんやり笑ってる。それから『男に産まれたかった……』って泣く」
おれはまあ実際、結構、紳士ぶっちゃうだろうな。
「通報しろよ! メンヘラが来たぞーっ! と私は貴方の背中をばんばん大きな声で叩きます」
ヘラヘラするのがメンヘラだと思ってたり、
日本酒だと息が臭くならないと思ってたり。
ここまでの発言が単なるボケで、微塵も本気じゃなかったり。
「あら、牛じゃないわよ、それ、豚よ」
「ジャンボってところが気に入った」
ねるじょしの次は、かじるじょしが来るのか?
なんかのテレビのインタビュアーが来た。
『!?』
どうもおじさん、おばさん連中は、未だに男女二元論でしか、現代を捉えられていないようだ。『三角関係で殺し合いに発展しないのはおかしい』みたいな非難を笑顔に込められても……。自分は性的指向が男性じゃない自称ポリアモリストで、こっちの眼鏡はガチレズで、こっちの乙女ちゃんはキモオタ☆ラブ美で~すとか、全国ネットで言えるかよ。
「えっ、友だちで~す……!」
「うん、ただの友だち……!」
なんか既視感。
っていうか勝手に撮るなよ。
充電させてあげられないけど。




