第三章 鬼謀 B‐35 おれの抑揚
世間話というか、こんなところでまた突然の雑談になるが、人間のプライドというものは、扱いが実に面倒くさい。
このおれを筆頭に、誰もが誰よりも低いんだぜと、誇りに思っているから尚。
締め切りもページ制限もないのに、たとえばこういった緊張がピークに達する山場の直前で、テンプレート通りに情景描写等を適宜、自切してしまうのは何故か?
それは、自作がアニメ化された際にオールカットされたら、自虐ができる、おいしいと思う反面、送り手の率直な意見として、嘘偽りない本音として、切なさを味わわされるからだ。
アニメ化を視野に入れる――こと単体を批判するつもりはないけれど……事実として。誰も彼もおれもきみも、『適当に遊びで息抜きの代わりに趣味で作ったらヒットしちゃいました~、てへぺろ♪』系作品が一番、見ていて、聞いて、読んでみて、少なくとも疲れないことを知っている。
なろう産ラノベごときを死に物狂いで制作されたら正直重い。
愛してあげなきゃいけない人より、愛してくれる人が好き♪
何が悪いのか?
パクリを非難していた正義の自分を都合よく無かったことにしておきながら、未だに純粋な正義を自負していることだ。
結局抑揚のつけ方まで先輩と一緒なら、斬新ではなく既出を目指していたのと同じこと。
たとえば安雄とはる夫の苗字。しずかちゃんのママの顔。パパは料理が得意なのか下手なのか、スポーツが万能なのか音痴なのか。
純粋な受け手であったころは、曖昧な設定や些細な矛盾が、気になって気になって仕方がなかった。手抜きだ、それは怠慢だと、忠告せずにはいられなかった。
大きくなって――、効率を重視すれば、要点をビシッと際立たせるためには、送り手としてあの判断は正しかったのだと解っても。あの気持ちはなんとなく、失わずにいたいと思う。
理想を言わせてもらえれば。
全キャラの誕生日及び血液型を詳らかにすると、作者の性別に予想がついてしまう。そこでひとつ謎が減る。そいつは悪だ。同時に、あらかじめ全てを開示してあったら、不思議だと思えるきっかけを見つけることができず、暗記する動機を掴めない。
憧憬なんか実在しない。
人は同調と自己愛と優越感で好意を抱く。
おれだってガチガチなガキのころは、トンデモ科学を心底馬鹿にしていた。
ではいざ語り部になって、ガチガチのガキガキに絶対に馬鹿にされないことを第一目的に、ガチガチな科学で自作を縛ったとしよう。
頭良いアピールはいいからと、そっぽを向かれてお終いなんだ。
事件に次ぐ事件――。
実際に体験するとなると、神経がくたびれて当然だと思うがな。
誰でも結局、事前準備なしで異世界へ飛ばされたら、不平不満しか口から出ないように。




