第三章 鬼謀 B‐33 食べまTV
ベストの屋外――というものがなくなったからだ。
動物の観賞なんかしている場合ではなくなったが、かといって即座に全てを殺処分するのは、あまりにも狂気すぎるし知能が猿すぎる。
しかし思い切ってそうしないのであれば、今まで通りに給餌等を続けなければならない。
当たり前の話だが。
都会のビルで酪農を――という流れは、あの最悪の節目以前からあった。
発電所、動物園、植物園、農場、漁場、天然温泉――これらの施設が、とにかくひとところに寄り集まった。熱だけでは足りない種族は死ぬほど多い。この『ZOOファーム牧場』が、高級ホテル然としていられるのは、ひとえに希少動物様のお陰であったり。
インコやハムスターのケージ的な、ただの鉄柵で仕切られている場所はひとつもない。水族館や子犬販売のスペースのように部屋ごと区切られ、ガラス一枚で繋がっている。その上で“えひめAI”が隈なく散布されているらしいので、汚臭というものはまったくない。
いま聞いたから知ってるよ、と思うかもしれんが、その――裏で、つまり近場で絞めても、漂ってはこないということだ。
ライオンに馬肉、ワニに鶏一羽丸ごと――こういった、給餌シーンをヒトが見ていられるようにするためだけの“奢侈”は消えた。体裁――こんなものは二の次、三の次になったのだ。死肉で構わない者には死肉を。臓物で充分な者には臓物を……。
それでも処理しきれない畜獣の骨や内臓を、どこで焼却しているのかまでは知らない。粉砕して魚の餌にしているのかもしれないし、発酵させて堆肥に変えているのかもしれない。凍りついた無人の、元限界集落へ積み上げているのかもしれない。
話は戻る。
一旦いろいろ見てまわりたい勢をどうしてか引き連れるカルちゃんが、たこ焼きを大人買い。分けてもらった細流らいあが、個人的に見ていて切ない。関西人は本当に口腔内を火傷しないのだろうか。千見錦ツァールピュイアがソースもぬぐわずにマジ食いする。
大金持ちの成人だったら、ステーキをたらふく食う。せっかくこんなに集まったんだから、焼き肉店へ入らない手はないだろう。財布の中身へ思いを巡らす。
(牛丼か、焼きそばパンか、ベーコンとポテサラとトマトのサンドイッチの気分)
(寿司は冷たい)
(うどんもいいな)
「そういやてぃら美ちゃんさあ」
「はいっ、なんでしょうかっ?」
「親父と兄貴がここで働いてるんだっけ?」
「うんそうだよ?」
「そこって牛肉系?」
「ううん、なまずの蒲焼き系」
「えっじゃあこれもう、ちょっとにおいしてんじゃないもう?」
「丼にしてワサビで、あっつあつの緑茶漬け!」
「ああ好き! オフィスビル内での室内栽培米が、もう口の中でほのかに甘いです!」
「はい! あたしもそれ、食べまTV!」
「ちょっと誰か女子、こいつのお腹触って」
「う~ん、双子。四ヶ月!」
今更、取ってつけた感が半端ないが、杣山にも水を向けてみる。
「塩バターラーメン」
「シメにパフェ!」
「まあ、選びきれないときは、全部おなかに詰めればいいよ♪」
宣誓のFEMENがフラッシュバックする。
お前本当に妊娠してたりしないだろうな。
ちょっと目を離した隙に、ソフトクリームを齧る女だ。