第三章 鬼謀 B‐27 青春のジュラ樹デート
そりゃあ居た堪らなくなるような視線を、感じた気もするはずだ。
「だァ――ッもう!」なんて、昭和生まれにしか言えないと思ってた。
白亜木ジュラ樹はこんなとき、イメージ以上に俊敏に動ける男だった。
「ちょっ、まっ、その娘、高校生ですうぅっ!」
気合を入れれば入れる程、どうしてか毳々しさの増す、カラフルな成人女性用水着が矢のようにすぎてゆく。
いつでも現実世界では就職を境に丸くなって、同世代の誰よりも速く幸せの家庭を築くチャラ男ふたりが、調子に乗った眉毛のまま、おれたち三人に気がついた。
後ろからは見えないTシャツのデザインは、正面から見たホオジロザメの顎骨標本の中に、アンカーロープがS字に巻きついた錨――というもの。そこからチラチラとあからさまに、絶妙にクソエロい内側を圧迫しているのは、ジュラ樹の私物のJC用スクール水着(白)。
「お前またどうせ自分で大学生ですとか言ったんだろ!」
「お母さん許しませんよ! お母さん許しませんよ!?」
えっマジ、きみ女子高生だったの、すっげえ大人びてるなあと、残念がってみせる仕草の中にも紳士的な思い遣り。おいおい勘弁してくれよぉと安堵する表情にも、そつのない清涼感。
うちの男殺しポジ娘、埋火カルちゃんが、キリッとした目鼻立ちにヘラヘラした態度を潔く楽しげに組み合わせて隙がない。ずるい!
「、ッヒューッ、でもよかったわ! カルちゃんが無事で、本当によかった! ンゴッ」
「ええかげんにせぇ~よ」
「♪~」
杣山テテロティケ露剣郎は、一番高い所から威圧感を放ったまま、終始無言を貫いていた。
ジュラ樹のバカが考えなしに言ったんだ。
『あー、なんか、青春のプール掃除やりてー』と。
まさかそんなニッチな体験施設が地元にあるなんて思わないだろう、誰でも。
埋火カルカというよりは、そのママの顔が広いんだろうが、
『じゃあ行こっか。ロサ姉、車出してー』
まあ、キャンピングカーの内装に興味がありまくりだったおれたちにも責任はある。
ごしごし。
助手席には? カルカが座った。バイト代は? 出るわけない。ほかのみんなの恰好は? ペアルックをどうしてもやってみずにはいられなかった細流らいあ以外は、白亜木ジュラ樹がいつの日か、あえて女子に履かせてみるつもりだった体操服の短パン姿。
(あっ?)
無意味綴りを筆記体で噴射する、弓なりにのけぞった、ピンクのバシロサウルス。
千見錦ツァールピュイアがめっちゃ近い。
「えっ……と、なにかな?」
「えっ。い、いや、何というわけではないんだけど……!」
「?」
おれにはそういえば大事な要事があったので、ジュラ樹夫人その一を適当に放置した。
推理小説をラストから読むやつは、単なる勤勉家だろ。
自力では解読せずに、速読で解決ページに辿り着く愛読家と、一体何が違うんだ?
(ちゃんと噛んで味わいながら食べなさい!)
おれみたいな不真面目マンは、人工の“不明瞭”なんか、途中でどうでもよくなるからな。
「おい、五砂! いい加減、嫌になったろ!? どうして今おれたちは、わざわざ金を払ってまで、学校でいつでも好きなだけできるプールの清掃なんかやってんだろうな?」
まあ待て、そう身構えるな。衣装を提供したのも鶏もも肉を揚げたのも、衣類を貸し出したのも4tトラックを運転したのもおれじゃないが、遊びに誘ったのはおれだからな。
「当初の目的を忘れちゃって……すまん!」
男子を集めようとしてたんだっけ。で……? ああ、いきなり男子に声をかけるのはハードルが高いから、Todoの順序を並び替えて――
「でも事実として、女子が交際相手に求める『ザ・男子』の数って、やっぱり減ってるよな。かといって、本気を出す瞬間以外はずっと女の尻を追いかけまわしていたいOBが大量に校内へ蘇生してきても困るけど」
五砂時穂は口元に甲を当てて、上品に小さく笑った。
狼坂君って意外とよく喋るんだねなどとベタなことを言う。




