第三章 鬼謀 B‐18 桜色のストリーク
ネット情報のみからの判断だけれど、とりあえず、いつものように、現在マスコミが報道している潜伏場所を、警察が捜査してはいないことはわかった。
「えっ、マジ? オレ……? んなっはっ、やっぱな! おい、狼坂、聞いたか今の」
しかし、『宇菜菊宇菜也』……。どうして最近の犯罪者の実名は、同姓同名の一般市民に対する配慮が行き届きすぎている、マンガの悪役染みているのだろう?
こんな地点から、神の実在というか、自身が創られたお話の中のいち登場人物に過ぎない説を、信じてしまいそうになる自分がいた。だってこの配慮は、人為的であるという意味で不自然じゃないか。
「狼坂! オレにくれるんだってよ、お前じゃなくてオレに!」
「あ、お? なんだって?」
近い、近い。もうちょい離れろ。
「やっぱあいつオレに気があるのかな~♪ つかオレら傍から見ても馬が合ってたっしょ?」
「はぁ?」
矩形なる現・ジュラ樹部屋を、真ん中で仕切ったカーテンの向こうから、ひとまず出てきたランドリーバスケットへ、脇から咲いた裸の腕が、ベッ、とシュートして引っ込んだ。
「……?」
「……、おいおい!」
お姉さまから指導を受ける身体を置き去りにして、反射的にろくろ首化した“眼鏡”の横顔の蝶番周辺が、鼻先でスッと我に返って、何もかもが漫画的表現でなくなる。
「タオルじゃんこれぇw! ちょw 何が『いいもの』だよ、お前これ、誰のどこをどう拭いたかわかんない、使用済みの濡れタオルじゃ~~~んw これえww おいお~い!」
変なことすんなよと向こうから厳令。くれるって言ったじゃんと、味噌アヘ顔濡れタオルペが、美人ちゃんの席を通過する道筋で振り返る時のように、大袈裟な身振りへ吸入を紛れさせた。
念には念を入れるあいつの性格も加えて考察すると……、どこをどうかは与り知らないが、間違いなく男子である串真美子夢芽留んのボディしか拭いていなかった。
心臓に悪すぎる突然の解禁。
基本的にぬかりない細妹に解除された、おれのスマホも連写する。
「くさいって言うな! 汚いって言ってもいいけど、くさいって言うなあああっ!!」
地肌の面積が地味に広いてんこつへ、突っ込み用の特大ハリセンが軽快に叩き込まれた。
「いって……w いっ? ッてねぇぇ~っ……し!?!?」
桜色の先端に釘付けになって、半ギレ状態をどこへ着陸させるべきか逡巡するティシュ。
一生に一度は履いてみたかった夢がついに叶った、見せ『ほぼ紐パン』イチ姿のカルちゃんが、狂恣な“フフッってなった”を噛み殺しながら、器用に女性専用車両へバックした。
おめかしして回転してみたベージュのスカートが後を追う。
いや、ボケが怖いよ。
ボケが怖い!
「いってえっ、なんだよアイツ……、んッだよ……? へ、へっ!? へェ……ッ!」
どういう線引きなのか、洟はきちんと上品にティッシュでかむ味噌顔ティシューペだった。
「……意外と、貧乳だったよなっ、ズッ」
そりゃ赤いオバQカップに目が慣れてしまったらなと口を滑らせてしまったおれも、額から角を生やした青い“その妹ニーソックス”の形相で、丸めた布の切れ端を投げつけられた。
「ヒィッ!」
新しいパーソナルスペースに慣れていないためだろう、懸命に取り繕いながら戻ってきた、千見錦ツァールピュイアが、ため息つく暇もなく悲鳴をあげる。
まあ……、ジュラ樹に至っては、逆の逆の逆の逆に、ブラジャーを装着しているしな?
人畜無害なはずの無言で。
でもおれたちだって本意ではないんだぜ?
どうせまたほら、おれみたいな適当な位置にいるやつに制止されて、丁度いいミイラの包帯で首とかがゲゲェと締まっちゃうのに、どうして自分より確実に腕力の弱そうなやつに対してオラつかずにはいられないんだ。
消去法で細流らいあがラッキーピュイアに恵まれる。
「うるせーぞ、味噌顔ティシューペ! じっとしてろww」
「静かにしなさいっ! くふふw、」
打ち返された汚れたタオルが味噌顔の顔面へ華麗にヒット。エンド甲高いはしゃぎ声でラン。しかし杣山や百千鳥までそろっているあちら側へ、復讐の凸をする勇気はないらしかった。
防犯カラーボール炸裂シスターズを結成させてしまったのは――ある意味成功だったが、
「まっ、とりま食えや? ちゃけばそれな卍ンゴ?」
「ど。どもッス」
「んんめぇ、アガる~っ♪ これから俺達これまでになく、MAXパーリーピーポーMAX!」
「…………うめっ」
「家の唐揚げにはレモンなんか一切れもついてなくて逆に映える~♪ キャベツ甘いで候!」
「マジうまいスね」
男子のスペースがいよいよ不必要に暑苦しい。
脱いでてよかったとは全く思わないけれども。