第一章 目的捜し夢探し 05 月刊女子アスリーツ 五月号
さて、濃厚だった四月十六日、月曜日も、まことに残念ながらそろそろ終わり。
大人になったらここでビールでも飲むのだろうか。
いや場所ではなく時間的に。
将来どれだけ頑張っても、下っ腹が出ない自信がなかった。
にりるやアーティカちゃんから来る、夜中故か若さ故か、直に会って喋るよりも更にテンションの高いラインに早よ寝ろと返しては、むかつく顔した出自不明キャラのスタンプで煽られ、また惰性で突っ込むといういつものやりとりにも飽きてきたところで俺は、やっちゃいけなかったり、逆にそうするべきだったりする、ながら勉強を切り上げた。
二酸化炭素を水に溶かした炭酸水が売れるんだから、酸素のすごさに着目して、酸素を水に溶かした酸素水という新商品を売れば儲かるかもしれないという目論見は、0・12秒で瓦解した。どうやらたとえそれを飲んだところで、深呼吸を一回するのと変わりがないらしい。
いいアイディアだと思ったのに。俺みたいなクソ雑魚に閃くことができるものは、いつでも頭の良い誰かが先に閃いていた。……酸素まで擬人化してるのか。日本人は本当に変態だな。
とまあ、前置きはこの辺にして。
俺はあからさまではない奥ゆかしいエロスなるフェチにあふれたあくまで『本』を抽斗から取り出した。昨日あいつが来て咄嗟に隠したあれだ。まあ隠すほどのものじゃないんだけど、見せるほどのものでもないっていうかね。
《月刊女子アスリーツ 五月号》。
《クラウチングスタートは和製英語なんだからね? ⑥》。
言い訳はすまい。これは至極当然な帰結。所謂『ないものねだり』というやつだ。
必要以上にぽちゃぽちゃしてはいない、弾力性に富んだ後ろからのむにむにお腹も、心配になるほどやせ細ってはいない、甘い脂肪に包まれていながらもしっかりと自己主張する背骨を内包した前からのあったか背中も、正直言って触り飽きたわ――という発言に殺意を覚える気持ちはよくわかる。俺だってスポーティな女子の見目麗しい上腕三頭筋を馬鹿にされたら荒ぶるさ。怒髪天を衝く勢いで。
そりゃあ体育会系の彼女ができたというのならどんな非難でも受け止める所存だけれども、本くらい良いじゃんか本くらい。え? 髪フェチじゃなかったのかって? おいおい、髪の毛か筋肉かなんて、この優柔不断マン代表の、ヒヨヒヨ日和っ子な俺に選べるわけがなかろう。
俺はまず女子アツの表紙を慎重にめくった。
ノックの音に驚いて振り向くと、扉が静かにかちゃりと開いて――、
「お兄ぃー、寝れーん。ご本読んでぇーっ」
どうやら明日もまた、寝坊するも遅刻しない、微妙な一日が始まるようだった。