第三章 鬼謀 B‐16 見せパン コミケ エロ
「――で、今からなにすんの?」
適当な飲食店で駄弁る的な、白米のクッションでバウンドさせる行為抜きで、”ちらみンち”というメインの肉を、いきなり腹へ詰め込んだわけである。白亜木てぃら美の詰め寄り顔には、空腹による苛立ちも上乗せされているように見受けられた。
「まあ待て。もうそろそろ来るから」
「あん? 来る? なにが?」
でもちょっと待てよ、計画の上では今、こいつの部屋に居る予定だったから――、
「いや、違うのか」
「? だから、」
「楽しいことだよ、超楽しいこと。それよりお前の私服って、もしかしてここにもある?」
「うん、あるよ? 見る? んふ♪」
ワードローブの中身は、九割方妹の私物だった。そしてそれらも更に九割方……よし。オッケー。こいつらがもしああいうタイプだったら、完全に破綻するところだった。
おそろいのダメ着を迷いなく選んで早着替え。ツインテールホールから、まさかのエクスブレイカーが発火する。カルシウム。
兎に角。
兄貴をビーズクッション代わりにして、白い歯をにっと見せる。ジャキジャキ。
「仲良いなあ」
「世界一おぞましい犬耳ね」
「犬耳じゃねぇーわ! この、犬眼鏡!?」
「羨ましいわ、白亜木さんって、素晴らしく格好良いお兄様をお持ちだったみたいで?」
「どぉこが! ばかか! こいつすンげぇピザだぜ!? ボイーン♪」
「そうそう、俺はすンげぇピザのキモオタ……、っておい! おいい!」
「ギャハハ! こっ、こちょばすな、ギャヒ!?」
「俺は顔面が豚まんなだけだから! 手足とか激細スリムだからぁ!」
「虚しすぎる自己申告www」
着いたみたいと、埋火カルカがスマホの次におれを見た。
キャンプでたとえると、今はまだ、火起こし器に炭すら入っていない段階なので、みんなの些末な不安感なんか放置してさっさと準備にとりかかる。意外とせっかちな埋火カルカと同時にドアを開け、我勝ちに早足で階段を下りる。
寒くなさそうなバニーガールもついてきた。
「わかってるわよ、もうわかった。あれでしょ? カルちゃんがこないだまで着せられてた服を――え?」
五砂時穂が十二の御衣。
赤い薔薇。
発光していなければ認めないとは、あんまりにも暴論だが、パブロフの犬で生肉が見えた。
ファスナーが仕事をしていれば着ている意味がかなりある、ショート丈のダウンジャケット。『6+6』ではなく『6赤逆十字6』の三文字が、歪にうねるチューブトップ。目に毒なのか優しいのかまったく判らない、逆デルタ――いや、最早“紐”のミントグリーン。
中世のヨーロッパが舞台の大ヒット二番煎じを法の中で巧妙に剽窃した、ソシャゲキャラのコスかなんかか? 見せパン コミケ エロ と、入力した覚えはないのに?
「いや、だれ!?」
「えっ?」「えっ?」
運転免許証を当然取得している“カルちゃん”の実姉と見なすには、暗がりでも若すぎると思ったが……。細い眉が不審そうに、おそらくこっちも動いてる。不愛想な目つきを他人とは思えない。実年齢以上に肝が据わっているのか、ただ感情の起伏に乏しいだけなのか……。
十指を縛ったシルバーアクセが、ジャジャラと無言でスマホをイジる。
仏頂面に見えなくもない。
「いやいや、せめて前は閉めようよ!? 見てるこっちが寒いわ! なにこのエロ水着!?」
埋火カルちゃんは行動力のある凡才に優しい。
くすぶっている奇才に勇気を分け与えるヒーローが、無責任に大好きなおれとは正反対に。
「ヰェ~~~イw」
「ヰイ~~~っ」
『!?』
「つかシュー、何その包帯。ついにまぢのトイレットペーパーになってんじゃん。ウケるw」
「あw んぐっ。えっ、とこれは、」
「おい味噌顔ティシューペ! テメェコラ、ここは手前ぇの家なのか!? お? ほどくな」
巻き舌と眼飛ばしにも迷いがない。
(ここだけ切り取ればハロヰンみが半端ない)
前輪に踏まれた小石が耳朶を打つ。
今度こそ本当に到着したのは、シンプルで無骨な――ホワイトベースと言ったらまた意味が違ってくるが――、4tトラックのキャンピングカーだった。
ストレートのショートヘアは、黒7割、ショッキングピンク3割な、縦縞のツートーン。平均へ寄せてあげる優しみが見て取られるヒールなしのパンプス――と同色のタイトスカートは、動きやすいように裾上げされていたけれど、生脚は男子に厳しく黒タイツで覆われていた。
「よう、カルカ! 言われたもん、ちゃんと全部持ってきたぜ!」
「えっ、誰?」
は? 誰ってお前、
「ああ、この身体……。いやあ、ちょっと『不法憑依』? とかいうのをされちゃってな、」
『え』
取り除けなかったという見方もできるのは、桜でんぶを髣髴とさせる蛍光ピンク。
氷麻ちゃんもイチゴのシロップを加えられる前は、純粋なブルーハワイ髪だった。
つまり、まさか、お前は――!




