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第三章 鬼謀 B‐12 千見錦ツァールピュイア

 超絶特大のメイフライだけが、ガンガンと頭頂葉でヘヴィーローテする。


 つかつかと。

 かつかつと。


 全日制とは名ばかりな、落莫らくばくたる人参抜きのひじきが、ハイブリッド個体であるキンギンケイさながらの、綾羅錦繍りょうらきんしゅうに包み込まれた。


 少しかがんでするする・・・・と――? キンイロキンケイに隠喩できるつややかな長髪の間隙かんげきから、架空のというか純日本産のロシア系エウリュアレに、恐ろしく冷たい睥睨へいげいを寄越される。


(今度は育ちが良すぎたんだ)


 一日分の清楚が染みついている、可憐なソックスを投げつけられた味噌顔みそかおティシューペは、スカンクに反撃された子犬のモノマネができるチャンスに気がつく素振すら見せず、宝くじが毎秒当たるひなびた賽銭箱のように、世界一無駄に二重瞼なギョロ目を自ら進んで乾燥させた。

 面白痴漢撃退術は、視聴率にしか貢献しない。


『!!』


 甲状腺が息苦しくなると同時に、胃の左端で第二の心臓が胎動する。

 見つかってはいけない生物学用語上の“ミッシングリンク”がそこにはあった。

 さっきの靴下はことのついでで、ちょっとした様子見に過ぎなかったのだ。


「こんの……、ゴキブリがあぁっ!」


「ホッ、ホッヘッハン!?」


 コンプライアンスもクソもなかった時代の警策と化した上履きで、プチプチを一斉に叩き潰された欲張栗鼠顔ティシューペが、猫パンチでほんの僅かに座標をずらされたボクサー犬の、伸縮性に富む頬のように、硬直した軸足を中心にして黄色い膿を撒き散らす。

 きたねえ。


「もう耐えられない! もう嫌ッ! どうして私があんたみたいな“ゴキブリドブネズミ”と同じ豚小屋へ詰め込まれなきゃいけないわけ!?  五月蝿い! キモい! 汚い! 臭い! せめて授業中くらいは静かにしてよ!? 最悪! 最、悪ッ!」


「んだっ……、んんだッ!? いみゃアじゅごう中だねぇだっっがァ! ダラァァッ!?」


 癇癪に机がひっくり返される。遅ればせながら『一応男子ーズ』総出で押さえつけたため、怒りの拳で仕方なく揉んでしまう味噌顔みそかおティシューぺの陰謀は、誤変換されずに終わった。


「おまえコッ! ッザけん――、」


「ああっ!」


 プリーツの両脇をチャイナドレスのように、前かがみで裂いた千見錦せんみにしきツァールピュイアが、だしぬけに大声で青くなった。涙目からさめざめと、真っ赤になって決壊する。

 こんなとき、誰よりもはやく駆け寄って「どうしたの?」と優しく労わってあげられるのが埋火うずみびカルカだ。

 隕石に奪われる以前、親がお金持ちだった頃には、毎日新しいそれをおろしていたらしい。


「……、千見錦せんみにしきも誘おうか?」


「私の家は東京ドーム20個分の面積を誇る、潮干狩用のオープンセットじゃないのよ!?」


 平和なままならきっと、進学校の特進クラスへでも、ひとり入っていたんだろうなあ。

 味噌顔みそかおティシューペが糖へ分解できなかった千見錦せんみにしきツァールピュイアの水玉柄は拾わない。

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