第三章 鬼謀 B‐11 どこにでもいる高校1年生
柔和な微笑みが聞こえてきそうなほど、柔弱に着痩せしている杣山テテロティケ露剣郎は、眼鏡をかけさせればなんというか、まるでさくらちゃんが人生で三番目の初恋相手と実兄を、やっぱり汝のあるべき姿に戻してしまいたくなりかねない感じに、消え入りそうなのか、淡く発光しているのか、遠目には判別がつかなかった。
おれ自身、『実は女の子でした~』を最後の方でやられると、今は町の電気屋さんでブラウン管テレビがバカ売れしている昭和後期なのかよとガチギレしてしまうタイプなので、彼女の性別くらいはもう、このあたりで明かしてみようと思う。
よって白亜木てぃら美に次いでちびっこい串真美子夢芽留は、確実に男性だということになる。ただ最近は、授かった肉体に同じ性の心を宿す人だけが、大手を振って表を歩けるマジョリティ――というわけでもないので、あまり意味がなかったりもするのだけれど……。
夢芽留んに訊いてきてとお願いすれば、意気地なし。ああもう面倒だと体を先に動かせば、おれのコミュ力が妬まれる。ガールズの力を借りて強引に落とせば、杣山テテロティケ露剣郎に想いを寄せる、別グループの男女がショックを受けるし、オレだってモテたい勢が恨みを募らせて暴走しかねない。
そもそも出尽くしているんだよなあ……勧誘のパターンなんて。
内側を劣化コピーする、澱みきった窓ガラスの向こうに、在りし日の夕焼け空を思い出す。
嗚呼、おれは今猛烈に、ここまできてやっぱや~めたって言いたい!
「てぃら美さま、ちょっと。あの、どうするのがベストなのか教えてくれませんかね……?」
無言で差し出された掌に、おれは5000兆円といわず、財布を丸ごと全部渡した。
「そうね♪ 今日までは一応男子な氷麻ちゃんと夢芽留んを連れていって、お料理が得意かどうかを尋ねてみてはどうかしら? それで男子力をUPさせたい旨をにおわせるの。お喋りするお店が決まったらラインして。あとから偶然を装って合流してあげるから」
第一段階をクリアできたところで、例の味噌顔ティシューペに嗅ぎつけられたおれたちは、それから間もなく、業を煮やして痺れを切らして堪忍袋の緒が切れた、クラス一の竜章鳳姿、千見錦ツァールピュイアに怒鳴り込まれた。