第三章 鬼謀 B‐08 梅雨紫陽花のグラデーション
日付は変わって8日の火曜日。
おれは三期アニメよりも先に終わらないコンテンツ化が決定した、『ぼくのかんがえたさいきょうのひげぶ』に日本中で感動しながら、我が校が誇る屋根付き屋上の味をしめていた。
「いや全然知らない。眉毛が濃いめってことぐらいしか知らない」
「僕もそんなに知らないよ、何度か喋ったことがあるだけで……」
バドミントンまで苦手なやつも珍しい。下手すぎる五砂というよりは、プロに勝ったわけでもないのに良い気になってる白亜木を見かねて、細流妹が髪を束ねた。
そう、あいつは意外と結構ちょっと格好いいんだ。手脚も長いしな。センスも、無難だが痛々しさとは無縁だし――、
「えっなんで?」
「ガツガツしていない原因には、『まったく興味がない』が、含まれないでもないから。やっぱり『女子に興味ない男子』だけは誘えないよ。いくらうちの女子連中が喜ぶとは言っても。逆なら別にいいんだけどな」
「……?」
当初の目的を思い出せ。馬よりも知性が優れていると豪語するのなら、千キロ先に吊るされている人参の方が、目前のそれよりも格段に訴求力が低いなどと、ぼやいてはならない。
「串真美子、お前はどうなんだ? そのー、やっぱり普通に、気の合う男子同士でワイワイ遊ぶのが一番か? 女子と遊ぶのは緊張するとか、そうじゃなくても、お喋りな女子連中の傍にいるのは疲れるとか、なんであれ1対1がいいとか」
「ううん、どうだろ……昔はいろいろ思ってたけど、ほら、この前の隕石で――」
みろみろと流れるような臍や腰。ああ……。
映えないわけない梅雨紫陽花のグラデーション。
「――今は生き残った親戚同士で身を寄せ合ってるから、いろいろと慣れたかな」
揺れに揺れるインディゴポニテ。なるほどな。
案外と、豊艶という意味のBuxomよりも目を奪われる光る脇。
「あの、狼坂君は何……が、したいっていうか、彼女がいる上で彼氏が欲しいの?」
「うむ? まあ、端的に言えばそうなるな。自分は着用しないからという理由で、娘に自立するまで下着を与えないのは虐待だ。愛する女には一等優れた男を施してやりたくなるのが男の性ってものさ? お義父さん、息子さんを、私の家内と妻と嫁の抱き枕用にください……!」
「えっそういう意味……、てかそれって有難迷惑なんじゃ……? 彼女さんは狼坂君のことが好きなんでしょ?」
「ハハッ、おれに惚れる珍妙な女子なんか、この世にはおらんさ」
「? ?」
考え抜いた結果、おれは黙って歩いて行って、細流らいあのラケットへ手を伸ばした。
「ちょっとかわって」
「あ、うん……」
ネットの向こうから鬼睨まれていた。
こいつは合わせてもいい瞳。
「更衣室まで付き添ってやろうか」
「あっじゃあそうしてくれる!? タスカルワーっ!」
改めてリアルで、セラガリヒロインズ級に掌が小さい。
たとえおれの目が届かない場所ででも、再び裸の付き合いをしてくれたら妄想がはかどったのだが、細流は姉妹そろって意外と、汗に関する潔癖ではなかった。ハンカチで首元をさっと拭くだけ。しかもふたりで使いまわし。制汗スプレーも仲良く分け合う。しっかりともっさりした、さらふんわりに仕上がるのを、夢芽留んとシャトルを打ち合いながら待つ。