第三章 鬼謀 B‐02 早朝レーシング!
まあ待て、そう警戒するな。おれは酢豚パイナップル級に甘酸っぱいネテオニー思春期よりも、幼児退行して歌ってる瞬間を目撃された四秒後の、活溌溌地の方が好きなんだよ。
「? ?」
彼氏の有無も、明日の予定も、貪欲なおれは訊ねない。五秒さんとヘラヘラ茶化してみれば、おれがおもしろ認定されるための引き立て役を、強制的に任命することになってしまうだけ。
「端的に言えば、おれのお悩み相談だ」
「え? はあ……、え?」
クラスでのあだ名は『ミステリーハンター』。全ての肥満者が大食いのチャンピオンではないのと一緒だ。まあ、大概のガリガリは冷気に弱いが……。長身のために体積が、ぽっちゃりちゃんと等しくなっているからかとも考えたが、反対にポニーテールが死ぬほど似合わない、ショートレッグの白白木でか美ちゃんをおれはよく知っていた。
絶対に生き残っているはずがないと勝手に信じていたのは浅学非才なおれだけで、あいつは実のところ、まるきり絶滅などしてなどいなかった。太古の昔から姿かたちをほとんど変えることなく、今日までしっかりと生き延びていた。
『陸上のユニフォーム』という大きな定義の森の中で、『レーシングブルマ』と名前を変えて!
昭和が産んだ哀しき獣、アヘ顔Wピースボーイズを毛嫌いしていたみんなも、おれと一緒に地団太踏もう。陸上部の女子が履いている物体は、れっきとしたブルマだったのだから。
とはいえ彼女、五砂時穂は、陸上部の部員ではまったくない。男女共に緑系統のブレザーなこの、私立月虹高校で、空柄のセーラー水着姿になって授業に臨んだら、叱られた過去を持つだけだ。
「――と、いうわけなんだ」
「はあ……」
「今すぐ出てけとおれが怒鳴れば、おれは誰からも嫉妬されることはなくなるわけだが――、その場合、思い遣りが足りないと非難されるだろう。社会人ならまだよかったんだけどな」
閉ざされた逃げられない教室の中では、仲良しグループの中で楽しそうにしている光景を、どうしても見せつけてしまうことになる。
あるいは本当に、クラスがそれぞれ別々だったなら。
しかし同じだったからこそ、距離が近づいたりもしたのであって。
「まあとにかく、仲良しグループ内でしか遊ばない排他主義者に、反抗したかっただけだから。嫌なら断ってくれて全然OK。でもそれはここからの話で、おれが話しかけもしない方がよかったかどうかは話が別だ。いや、男子も誘うよ? ただおれは、」
「えっちょっと待って、断るも何も、何も誘われてない――ってこともないのかもしれないけど、なにするの?」
「いやだから、適当に遊ぶんだよ。飯食ったり駄弁ったり」
「いつ? どこで?」
「おれは火曜だけバイトが休みだから火曜。つまり明日だな。一番早くて。どこに集まるかは――全然決めてない。寒がりが多いから、屋内なのは間違いないけど」
「それは暑そうだ」
ちなみにおれは『ソイソース』。
教室の扉が二枚とも、ガラリとぴったり中央で止まった。
震える両の手に青筋が浮き上がる。
「こらお前ら、怪我するからやめろ!」
「あらぁ~、有限ちゃん♪ 今日は珍しく早いのね……? って! どうして増やそうとしているわけ!? これ以上、専属の母体を!」
専属の母体て。
「埋火カルカ、お前はそっちへ」
「ウス!」
『え!? え!? 逆じゃない!?』
マーストリヒト木・トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー美に、頑張ってみんなとお喋りしておくよう言いつけて、
「いや~っ! 嫌っ、嫌っ、嫌っ」
「えっなんでっ私っ……? あの、狼坂君……? あっ、違うの、さっきのは喧嘩じゃないの! 挨拶代わりっていうか今日はなんとなく頭が痛かったっていうか、朝っぱらから運と虫の居所が悪かったっていうか、いえでも言い訳は見苦しいわね細流らいあ、結構歩くわね……、これは身の危険を覚えて然るべき状況なんじゃないのかしら……あの! 私は今から何か、お仕置きをされるんでしょうかっ!? ごめんなさいぃ、今度からゎ仲良く、」
「いや、ちょっと協力というか、助力をしてもらおうと思って」
「女力う……? ずび」
男女間の友情は絶対にありえないが、無G百合間の友情はありえる。
むしろ一番気が置けない。




