第三章 鬼謀 A‐07 他の女を愛撫
みんなには内緒というわけではないけれど、黙って自室へ連れ込んで、ベッドの上にそっとおろす――ことに失敗。
イヤイヤとひっつかれた。
嫌なのかそうなのか、お前はほんとに甘えんぼさんだなあ。
反則の上目遣い攻撃をくらったので、遠慮なく押し倒す。そして超頬ずり! うへへ超いい匂い! ぺろ。背中を撫でて、お腹を触って、もう一度頭を撫でてもう飽きた。
はいおしまい。とんとんしてあげるから寝ましょうね? とんとん♪ ねーんね♪
「うわ、寒っ! なにやってんの!?」
「明日の用意だ!」
「わけわからん!」
夜の十時におれの部屋へやってきた女子は、赤い十字のついた箱を持っていた。
「いやー、優しいなあてぃら美ちゃんは。おれの怪我を心配して来てくれるだなんて。どうもありがとう」
「他の女を愛撫しながら言われても……」
他の女を愛撫て。
くだんの他の女に今夜も膨らんでもらう。このかにん空間へむにっと入るのは何度やっても楽しい。オリザ空間へ入るときはスッであんまりだけど。朱い子もむいっと変顔になってからぽよっ。子ども笑顔。楽しんでくれて何よりだよ。
疲労の所為か心底面倒だったので、ためしに布団から脚を出すと、意外にもご主人様気分が味わえた。そして引きずり出される。ずるぅ。
「膝も擦りむいてんでしょー」
「あー」
でも靴下をくんくんしたら丁寧に鼻を踏まれた。
「まったくもう、大陸と新大陸に挟まれてる日本列島に、迎撃された戦闘機が降ってくるなんて、日常茶飯なんだから、気をつけなさいよ?」
「ごめんなさい、今度から気をつけます」
「気をつけようがないでしょ!」
どうしろと言うんだ。
「あひゃは!? く、くすぐったい!」
代謝が良くて、敏感……。
待て待て、おれはそんな妄想はしていないぞ。
ふたりを同時に腕枕した映像がちょっと浮かんだだけだ。
そりゃあ浮かぶさ。
ああっ、こいつをはさんで川の字になるシーンも見える!
ついにおれは不法憑依してもらう道を選んでしまうのか!?
「はいおしまい。ぺち」
「……そういやお前、まだここにいるけど、非常事態だからとはいえ、流石に帰らないとまずくないか?」
「オリザ姉に狼坂有限がいてはいけない――なんて言う親がいるわけないでしょ?」
なんだその理屈。
三日も四日も帰ってこない理由の説明には全くなってないだろ。
「そんなに帰ってほしいの?」
いや、親の立場になって考えると、心配しない方がおかしいというか。
「妙に真面目なのね。肉食系男子は本当に絶滅してしまったんだわ。あーあ」
ふん、なんとでも言え。おれがそんな安い挑発に乗るかよ。
「ねえ……、あのさ、やっぱり放っとかない?」
「お前、そんなんじゃ友だちできんぞ」
「お父さんかよ!」
「よく考えてみろ、他の女子の異常具合を。――な? 外見と家庭環境だけが異常なあいつと親密になり損ねてどうする」
「あの娘、絶対彼氏いるよ?」
「……とにかく明日行ってみるってことはもう決まったんだから。中止にしたら細流ひとりで特攻するんだし。姉ちゃんもやる気満々だし。本人に放っといて、構わないでって言われたら、はいわかりましたって帰ってくるよ」
「必ず帰ってきてね?」
「お前も好乃の言うことちゃんと聞いて、良い子でいるんだぞ」
「娘かよ!」
そうだな、きっと、娘ができても、手に入れた幸せと奪われる悲しみの両方がやってきて、プラマイゼロ――ならまだ幸せな方なんだろうな。
「よその家の揉め事に首突っ込んでさ、こじれないわけないじゃん」
まだ言ってる……。
「放っといて、構わないでって言われたら、絶対説得するくせに」
細流らいあがな。
「そもそもどうしてあんたが行くの? 『細流が~』『姉ちゃんが~』ばっかり。自分を抑えられないほどの激烈な欲求があるわけでもないのに、なんとなく命を賭けるなんて、純粋な悪行よ。それとももうふたりは、心が繋がり合った恋人同士なわけ?」
「んー、じゃあ行かない。万能杉に代わってもらう。で、氷麻には帰ってもらって、好乃にはバイトへ行ってもらう。そしたらここにお前とふたりっきりだ。誰の邪魔も入らない」
「そういう卑怯な男は嫌いよ。ツッコミ不在でWボケを延々続ける話の何が面白いの?」
「てめえ……っ!」
「きゃあっ! こら、やめろ、この、お腹フェチ!」
絶対やめんよ。胸とかおしりとか触ったら、『あーあ、やっちゃった。ハイハイ。もうそういうのいいから』って全員が白けるけど、お腹を揉むと、『?』と『んひー、お腹最高!』のふたつに綺麗に分かれるから。んひー、お腹最高!
「嫌な時代……」
そう言いながらも、白亜木はおれの膝の上から逃げ出そうとしなかった。
「……ねえ、私とあの娘、どっちにするの?」
飽きたのに飽きてないふりをし続けようと思ったそのときである。
「あっはは」
「ねえ……?」
そっと手を掴まれる。