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第三章 鬼謀 A‐05 アイドールって、なんですか?

「え? 厳密にはごはんもくじゃない?」


「はい。素手で捕まえた食材を素手で調理して、生のまま提出することしかできない概念を、食事を司る人類のお供と呼ぶことはできませんよね?」


「じゃあほんとは『メイドもく』だったってこと?」


「いえ、そういうことではなくて……!」


「ああ、なんだ、そういうこと」


 お刺身にお寿司におどんぶり。マリネに竜田揚げにサイコロステーキ。温かいスープに甘辛い煮つけ。――ゴールデンウィーク二日目、五月四日の夕食は、さっきごはんの姐御がちょっくら海へ潜って捕獲してきた、マグロ料理のフルコースだった。


 悲しいかな、一番うまそうに食っているのは熱造ねつぞうである。女子をもっと映したいのに。何故こんなにも白ご飯があるのかって? ふふん、それは元廃棄弁当なのだよ。中身を分別して冷凍してあるんだ。


 なに? そんなことはどうでもいいから早く探偵活動の結果を報告しろ? うむ。土木作業を終えたおれは男らしく、氷麻ひょうまちゃん一緒にお風呂はーいろ♪ と言ってみた。即ぶん殴られたよ。妹に。信じられるか? てぃら美のやつは、モミ毛やチョビナシチョビチョビと一緒に入れば? なんて言いやがった。ふざけるんじゃないよ。銭湯でも無理なのに。


『てぃら美ちゃん一緒にはーいろ♪』


『おっけー♪』


『じゃあちょっと下から脱いで?』


『んんー、脱げなぁい♪ 困ったなあ……?』


『まかせろ! ぎゅー! ふがふが』


 そして白い頬に返り血を浴びた、包丁スマイルのオルルーザ。


 なんだよお前、『フィンランド サンタ』って検索しようと思って、『フィンランド さ』まで入力したら、『フィンランド サウナ 男女』とかいう言葉が予測されたぞ!? むっつりのくせに! その証拠にお前は万能杉に不法憑依していない! それになんなのマグロって!? 今まで蛙とかだったじゃん! 食わせてもらっている手前、文句を言える筋合いは一切ないけれど、こうやって女子力の高さを見せつける攻撃が繰り出されるのなら――!


 ずっと今のままでいいか……。

 いやそれこそ望んでも手に入らないものか。


「で、なにがそういうことなんだ?」


「え。あんたも知らなかったの」


「……お前が作ったのどれ?」


「おふひー。んっ、わさびぬきのやつ。このへん」


 鮮度が第一なトロの部分からいただく。激うま。お前も食え。ほい。


「あむ。んー、甘くてとろっとろでおいしぃ……♪」


「うん。うまいな。で、どういうこと?」


「だからー」好物なのか竜田揚げをもう一度お皿によそいながら、「『複合型』ってことでしょ? 『厳密には単ごはんもくのアイドールじゃない』ってこと。猫目ねこもくとの――というよりは、最後のおそらく『道具もく』的な何かとの」


「あー……」


 そういうことか。

 共感をほとんど得られない点から、猫目ねこもくとの複合型じゃないと読み解いたお前は正しい。

 でも最後のは『道具目』じゃなくて――、


「『メカもく』? 時間じゃなくて?」


「『時短』を司る人類のお供?」


「はい。ごめんなさいみなさん、『単ごはんもくのアイドール』というのは、実はほとんど存在しないものですから、その……」


「広義の青色には緑色も含まれるとか、言語学的には鰐という単語に鮫という意味も含まれるみたいな感じね? 解るわ。どの道初めに説明しようとしたらくどいとか言われるものね?」


「そ、そうなのよ! ありがとぉ~、てぃら美ちゃん!」


「じゃああのペンギンちゃんも、『ごはん・メカ複合型のアイドール』ってことだな?」


 また例の顔になった、渋メンのアラフォー男子に構わず質問。

 身内に気を使ってなんかいられるか。


「んー、おそらくは」とオリザ姉が自信なさ気に言う。


「『三目複合型』って線は?」とてぃら美。


「それも一応ありますが、それだと自分の攻撃が全てのアイドールに1・5倍で刺さる反面、全てのアイドールの攻撃が、自分に1・5倍で刺さりますから」


「かにんちゃんの牙と、お前のRCSを食らっても、それほど負傷していたようには見えなかったな。あのあと普通に飛んで帰ったし」


「ええ、私もあの雪で大ダメージを受けたわけじゃありませんでしたし」


「たとえば猫目のアイドールが、ああいう形の機械に『不法憑依』してた可能性は?」


「あり得ます」


「んー。それじゃ、可能性が大きすぎて答えの出しようがないわね。あの牙もお箸も、単に刺さっただけで、ノーダメージだったのかもしれないし。あのしゃもじも赤いお箸――RCSも、『ごはん・メカもく複合技』なんでしょ?」


「はい」


「まあ、幸いこっちにはごはん、猫、メカの三もくが一応全部そろってるから、最悪数撃ちゃ当たるでしょ。たとえあいつが『実は単メカもくのアイドールだった』としても」


「そうだな」


 おれは全く話を理解できていないまま、適当に相槌を打った。いや、これも致し方ないのだ。白亜木てぃら美にはこの時点で、各目別相性表が頭の中で見えていたというのだから。7掛ける7の49通りだぜ? いつ、というか、どうやって計算したんだよ。


「あのー」とここで我らがアイドル、藤髪紅蓮眼の細流氷麻ちゃんが、遠慮がちに手を挙げた。「アイドールって、なんですか?」


 そういやお前は何も知らないんだっけ。


「そうだぜ!? ごはんとか猫とかメカとか言われても、マジでわけわかんねーよ!」


 お前は入って来なくていい。


「要するにジャンケンよ」てぃら美が言う。「ごはんがパーで、猫がチョキで、メカがグー」


『なるほど』


 ほんとに解ったのか、お前ら。

 おれは何か簡単な問題を出すように、白亜木はくあき先生へ耳打ちしてみた。

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