第三章 鬼謀 A‐02 大家族密着ドキュメント
わけもなくこのまま集団で凍死するのもなんなので、ひとまず屋内で暖を取りながら悲しみに暮れようと引き返すと、目を覚ました氷麻がまた、熱造を亡き者にしようとしていた。
「キャーッ!」
メイドごっこの絶叫で、ぱっちりと目を覚ました超絶ニセモミアゲが、咄嗟に転がって箒をかわす。どご、と枕が撥ね飛んで、着地した野良猫が猛然とタックル。飼い猫が背中を強打して、血走った目を見開きながら拳を振るう。箒が間で弄ばれる。髪の毛が一束、あんまりにも無慈悲に毟り取られる。
「あいだぁっ!?」
「僕はお前みたいな……! 大人になってもチャラチャラした不良が……!」
熱造が何やら大声で喚いた。
直後に氷麻もそれに倣った。
二匹の獣が狭い室内で大暴れ。
「白亜木さんは、僕が護るううぅぅぅっ!」
怖い、怖い。
細流フォビアのメイド見習い長にぎゅっとしがみつかれていたため、今回は格好良く喧嘩を止めることはできなかった。
前回も格好良く喧嘩を止められたわけではないが。
オリザ姉が革新の氷麻を、万能杉が保守の熱造を捕獲。
うちはいつから大家族密着ドキュメントをやるようになったんだ。
頼るまいと思っていたのだが、やはり、どうしても、冥土爛漫川の顔を見てしまった。
「大丈夫だよ、バイトはね、平気です全く問題ありません行かせますって言ったんだけど、『馬鹿か安静にしてろ』だって♪」
おれは半ば上の空で隠喩的回転寿司を海馬へ詰め込みながら、やっぱり親父とおふくろってこんな感じなんだろうなと、全力でエア歩きスマホした。