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第二章 USBジャントー 14 nEW JUNTO!

「開けりゃ判るわ。ただのりんごよ」


 早速ネタバレだった。成程楽しみも何もありゃしない。中身が何なのかが判って興を削がれなかった女子はいなかったようなので、考えなしに訊いちゃったおれが代表して蓋を開ける。


「りんご飴じゃねぇーか! 赤っ!」


「しかもこれ、姫りんごで作ったプチ・りんご飴よ! 私これ大好きなの!」


「甘いの苦手な人のために、砂糖でコーティングされていないものまであるわ!」


「ああ、いや、それは一応人数分集めただけ。だって男が四人で女が四人でしょ?」


「え? なに? 怖い、怖い」


 どう見ても今ここには、天真爛漫川てんしらまんかわ好乃いいの白亜木はくあきてぃら細流せせらきらいあ、埋火うずみびカルカ、そしておれの五名しかいない。

 まあこいつに霊的な何かが見えていたとしてもなんら不思議ではないが。


「この先一体誰と誰がくっつくのか!?」


「お前が陰でひとりひとり攻略して、前代未聞の綺麗なハーレムを作って終わりだろ」


「果たしてそうかな!?」


 そう言われると、自信がないが……。さっきみたいな、へたくそを皮肉った能力の説明に見せかけた巧妙なミスリードという可能性も大いにある。


「つまり昨日の『ダイエット三種の神器』も、生き残り術研究の一環だったってわけね?」


 埋火うずみびが両方をいただきながら、この部屋へ来て初めて発言。


「ええそうよ」


 天真爛漫川てんしらまんかわがまた別のものを取り出す。


「大昔はしゃもじに凸凹も猫もついていなかった。だからご飯をよそうたびにべちゃべちゃくっついちゃって、水を張ったお茶碗とかに浸しておかなきゃいけなかったの。それに嫌気がさしたただの主婦が、今のしゃもじを開発して、大金持ちになりました。『別にお金儲けをするつもりなんかなかったんですよ。ただ潔癖症のきらいがあっただけでして』。


 次にリモコン。これも大昔はタッチパネル式なんかじゃなかったの。こんな狭い表面いっぱいに、なにがなんだか判らないボタンだらけ。どれだけ掃除してもお便器の千倍汚いんですって!? 考えられないわ! ――ということで、またまたただの主婦が、握り易さをそのままに、決してタブレット状にしないで、今のリモコンを産み出しました。さっとひと拭き、99・999%除菌! 『別にお金儲けをするつもりなんかなかったんですよ。ただ潔癖症のきらいがあっただけでして』!


 壁のコンセント差すとこだってそう! 昔は『USBハブ』なんか、どんな家庭にもはなかったの! ――まあこれは別に、個人がお金持ちになった話じゃないけど……」


「ふうん」


 女の子が苦手だなんて、微塵も感じられない口調。多分世渡りのスキルが高過ぎるんだろうな。自分でも気が付かないくらいに。家ごと母親に捨てられた直後に救助されるような、極端すぎる星の元に産まれた女だ。そこから全てを読み解けないおれが悪いと言えば悪い。 


「それでも昨日のあれ、最後の『エアジョギング用衝撃吸収マット』はボツね。高い所から落とした生卵も割れない素材を使えば高価になるし、安価な素材で作成すれば、普通のトレーニング用マットを買った方が安くなる。好きなキャラクターの顔を踏みたいと思う人がいるとは思えないし、いくら踏みつける用とは言っても、嫌いなキャラクターが印刷されたグッズを欲しがる人が沢山いるとも思えない」


「え? あたしはあれが一番実用性がある気がしたけど。このご時世、女、子どもじゃなくても外なんか安直に出歩けないでしょ? 夜は特に。休日の昼間に運動なんかやったら死ぬぅ! な激務の社会人にも、静かに生きなきゃいけないアパート・マンション暮らしだけどダンスの練習をしたい! って児童や学生にも需要はあると思うの。正直あれが一番汗かいたし」


「むー、そうねえ……。まあ実際、『人気キャラクターを踏むこと』には、私が考えてるほど抵抗はないと思うのよ。踏みたくなきゃ二個買えばいいだけだしね。だから一番の問題は、『印刷されたイラストの摩耗』。すぐにかすれて見えなくなるようじゃ、やっぱり買いたいとは思えないわよね」


「あー……。それじゃマット本体にはもれなく、『マットと擦れ合ってしまうことがほとんどない専用のビニールシート』をいくつか無料でつけるとかは? 『別にお金儲けをするつもりなんかなかったんですよ。ただ潔癖症のきらいがあっただけでして』?」


「な……、素晴らしいわカルカちゃん!」


「それにもともと『超低速で素粒子の波に逆らって上方へ浮き上がることによる脂肪の燃焼・筋肉の鍛錬』用ダイエット用品なんだから、摩耗することもほとんどなかったんじゃ……?」


「た、確かにそうかも!」


「で、その防護シートもできる限り安価で別売りするの。マットの売り上げから差し引かなくてもビニールなんてそんなにコストかからないでしょうし、何より顧客は『サイズがぴったりなシートを提供してくれている』って事実だけで満足するはずよ。更に同時に『でも買わないけどね』と思える余地を提供することによって、お客様を持ちあげることに成功し、結果的に我が結社が好意を勝ち取ることに成功する!」


「なるほど! 普通の人はきっと、さっきの私みたいに、『萌えキャラを踏むことには絶対抵抗があるだろう』で止まってしまうんだわ! ――かと言って楽観視はできないけれど。いえ、商品販売のHPに実演動画を公開したいのでと断って、マットの仕様動画を募集――」


「そうね、それなら最悪私たちでも充分やれるし、もしも沢山応募があれば、それだけで商品が世に広がる!」


「上流階級の方向けに、極端に高価な、スペースシャトルにも使われている素材でしつらえたものも作成! でも萌えキャラ! このギャップ! 看板にも必ず変わる!」


「『人がマラソンで痩せるのは、前方だけでなく、上方へ浮かび上がることでもエネルギーを消費するからだった!』『人がマラソンを続けられないのは、屋内でテレビを見ながら走るためには高価で場所を取る上に決して静かではないルームランナーを購入しなければならないという固定観念でがんじがらめになっていたからだった!』」


「そこでこの、『超低速浮遊ダイエット用キャラクター衝撃吸収マット』~!」


「サイズはSから5Lまで! 材質はあのNASAもJAXAも愛用する高級シリコーンから、音も衝撃も一切吸収しない、ビニールシートまで選べます!」


 あれ・・も心の底からのものではなく、『大好きになりたい』という気持ちの発露だったのだ。

 いや、おれのように生まれつき同性が無理――だったのかもしれないが、十余年に渡る母親からの洗脳で、更に苦手になってしまったことは間違いがない。埋火カルカもまた、人一倍嘘をつくのが上手なくせして、あっさりネタバレしなけりゃ気が済まない性分の女だったのだ。


「そうだ『浮遊ダイエットコンテストをHPで開催する会社』を作ってしまえばいいんだわ! そういう概念を世界に誕生させればいい! そうすれば目立ちたがり屋が必ずやってくるし、その結果、弥が上にもマットを販売することができる! その際には恥じらい顔やおっぱいが一面にプリントされたものではなく、端っこの方でSDキャラが踊ってるものでしか参加できないことにして……となると基本的にはこっちをメインで販売した方がいいわね……マットの形状を兎や猫の顔にすれば耳の部分にキャラを印刷できるしそうすれば専用のビニールも……」


「いつか『超低速浮遊ダイエッター』なんか誕生しちゃったりしてね? ふふ」


 おそらく今も、笑顔の裏で、『母さんみたいだなこいつ』と、渋面で思ってるんだろうな。

 おれが今、今朝の唇を思い出しているように。


「はいじゃあとりま、全員、にゅうジャントーということでね」ノートにメモをガリガリ書き終えたリーダーが顔を上げる。「各自抱負を語ってもらいましょうか」

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