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第二章 USBジャントー 12 吉抜き牛タン

 ストレスってのは本当に、水と同じなんだよな。適量なら克己心や反骨精神を奮い起こさせるための呼び水にも変わる。だからストレス自体は怖くない。ただ、巨大なビルさえ簡単に破壊できる大波だけを危険視することが危険なんだ。石というものは、大量の水をぶっかけられても平気だから、どうしても雨垂れを軽視しちゃうんだよ。それが一番危ないんだ。


(爆笑問題の)ハインリッヒの法則というものがあってだな。『あと少し』『まだ大丈夫』が通用するのは、人ひとりの人生において二百七十回だけ。もうこれは決まってることなんだ。目に見えないだけで、現実世界にもステータスバーはあるんだよ。ああ、これは絶対に知っておいた方がいい。人はたった二十九回『マジで危ねぇ!』を消費しただけで、死亡するようになっている。


 だからさ、ながらスマホってのも、ライフポイントを無暗に削ることになるからやめた方がいいんだ。やめるに越したことはないから、信じるも信じないもないだろうけど。


 まあ今に解るさ。

 あとは職種の問題だが……。


 どんな仕事も平等――ではない。なんてことは勿論解ってる。ただ、どんな仕事をやっても、それぞれがそれぞれに、社会の底辺という側面は平等に持っているもので――、当人にとって一番苦痛がない仕事を選ぶことができれば理想なのだが、それも基本的には下積み時代を乗り越えてこそ手に入れられるものであって――つまり今に対処するということを中心に論じれば、仕事を変えられなくとも工夫次第でストレスを緩和させることはできるし、どうしても辞められない場合でも、夢を見ることはできるという無難な結論に達する。


 ここでたばこ・ギャンブル・女遊びに手を出しちゃうと泥沼の悪循環に陥るのだが。

 辛いことからは逃げ出しちゃいけない――だけを信じるのも危ないことは確かだ。 


「今お父さんの話出たけどさー」丁度いいところで埋火うずみびが口を開いた。「あたしもお父さんいないんだよねー」


「えっ、そうなの?」


「いないっていうか、なんていうか……。あたしって、母親がヨーロッパのどっかでもらってきた種だから」


「ヨーロッパのどっかでもらってきた種!?」


 橋の下で拾ってきた子とかじゃなくて!?


「うん。その人そっくりの息子が欲しかったんだってー。そしたら案の定娘が産まれちゃってさ。何度男がよかったと聞かされたことか……。あれも一種の雨垂れだったのかしらね?」


 うわあ、耳が痛い。おれもそうならないよう、全力で気をつけなきゃいけないんだよな。

 いとけない息子を騙して、物心つくまで自発的に女装させ続けない自信がない。


「……『お父さん大好き』って言ってみ?」


「お父さん大好きっ♪」


「お前、結構ノリいいよな」


「うん。ねえ、ちゅーしよっか?」


「おう、しようしよう、今すぐしよう! 毛布そこ置いて、ほら、こっちおいで!」


「なにー、あんたもしたかったのー? エロ~い、んぅ! ちょっ、んん……っ♪ むは♥」


 何も髪も遠慮なく触る、素晴らしい指ざわり。ハグもしちゃう! ぎゅーぎゅぎゅ! 超いい匂い柔らかい、耳をはむ。ちゅうちゅう。頭皮の香りも吸いこみまくる。ふがふが。うへへ超気持ち良……ふたりして扉を見る! 天井も!


「……誰もやって来んね」


「……まあそれも現実だ」


「それでは右目の秘密を暴露します!」


「それは本気で気になるな! っていうか暗黙の了解系じゃなかったんだ」


「? 見たい?」


「見してよ」


 USBジャントーのシンボルマークがついた眼帯を外して、オシャレ前髪をかきあげる。


「……なんだっけ、オッドアイのハスキーみたい」


「うん。だからね? これだと女が寄ってくるのよ」


「ああー。それじゃあ、見せなくても寄ってきてるあいつに見せたら超やばいな」


「そうだ、それも相談しようと思ってたんだった! 実は私も女の子苦手でさー」


「は……? 嘘だろ? 一緒に風呂とか一緒に寝るとか散々やってなかったか?」


「ま、我慢するのは得意だからね」


「? じゃあもう解決してんじゃん」


「そういうことじゃないでしょー、だってあの子マジだよ? そしてあたしにはその気がない。どうする!? いつか殺人事件起きるぜ!?」


「テンシラマンえもんがなんとかしてくれんだろ」


「駄目よそれだと一番ドロドロになるじゃない!」


 この先何をどうしても、ドロドロになると思うがね。


「ああっ! 唐突にエロ遺伝子が、あたしのナカで暴れるわ!?」


「よし、任せろ! ボタン外して! それではオペを始めます!」


 ホックを外す練習までは黙認してもらえたけれど、下着に指を沈めた瞬間、笑顔のオリザに阻まれた。

 ちくしょう!

 あんたの所為でこの物語、完璧に健全すぎちゃうよ!


「カルカぁ~っ!」


「ゆうちゃ~んっ!」


 ゆうちゃんはやめろ。

 おれは高性能すぎるごはんもくの超古代新次元抽象的実在概念に抱えられ、光熱費削減のため部屋いっぱいに膨らんでもらっていた、猫目ねこもくの超古代新次元抽象的実在概念を出た。

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