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第二章 USBジャントー 07 女湯小学生

 おれの男嫌いが加速して、埋火カルカが男をやめたときの話。


 隕石が降ってきて世界がUSBに染まる以前、地上はハッピー一色で生きる人間しかいないユートピアだったかというとそんなことは決してなく、みんなも知っての通り、ご長寿アニメの中でのみ、家族が笑顔で食卓を囲み、大ヒット漫画の中でのみ、兄と弟が情熱的に愛し合う、地獄も真っ青のディストピアだった。


 世間体は大事。自尊心も虚栄心も人並みに満たしたい。自分の意見は決して曲げたくないし、感情も本音も絶対に偽りたくない。不幸なのは全部政府の所為なんだからなんとかしてくれ。――こういった思想を抱いて生きるよう助長された国民の大半が、簡単に操られて競い合って、堪忍袋の緒が切れて、莫大なお金が動く大珍事件を世に産んだ。


 あいつは『ちょっと千切って代価に払ったら』とか言っていたけれど、実際それは麻酔なしで盲腸を切除するようなものであって、普通の人はまあやらない。というかできない。だから大勢の人間が、どうせ同じだけ苦しいならと、虐げられる道の方へと自ら流れてゆくのである。


 いや待てそれでも苦痛を最小限に抑える方法はないものか?

 内省の激痛を呼吸でもするように平然と耐え抜くことができる頭の良い人間が増えたら、上の人が困って、ゆくゆくはおれが消されちゃうから、あんまり大きな声では言えないのだが、要するに旧時代人から新時代人へ進化する方法というものがあってだな。


 第一に自分は頭が悪いと自覚すること。どう考えても自分は頭が良いとしか思えないのは、どう考えても頭が悪い。

 第二に人間関係。即ち能動トーク力と受動トーク力の両方を会得し、状況に応じて適宜使い分けること。”話術”を磨いた人間だけが、これからの新時代、延命の許可証を獲得できることになる。聞き上手止まりのお笑い芸人はテレビの中に要らないし、話し上手止まりの旦那様は家の中に要らない。何を血迷ったのか、お冷やと同じ種類のおいしさが求められるあとがきページでも、本編と同じ濃度のおいしさを提供しようと一生懸命頑張っちゃって、コップの中にもカリー&ライスをギッチギチに詰め込む二匹目のドジョウはもっと要らない。


 第三以降は勅使河原腕力に説明してもらうことにして、小二の春。おばが久しぶりに銭湯へ行こうと言いだした。パートに家事にと激務の続く、単身赴任で自宅にいない平社員の夫人にとっての娯楽といえば、ネットでの買い物とテレビを除けば、風呂くらいしかなかったのだ。


 いや、どんなに記憶力のない人でも、風呂場やプールの脱衣所で見た裸に関する記憶に関しては例外的に思い出せるはずだ。おれはまだ女湯に入れるかもしれないと期待した。到着して怖くなった。人は誰だって人生で一番年をとった年齢で生きている。おれのプライドも大人だった。まさか小学生にもなってお母さんと一緒にお風呂入ってる子はいないでしょうねえと、行間を読むよう言外の意味を込めて授業中に笑っていた、先生の眼差しも思い出した。


 男湯を志望したら物騒な世の中だから駄目だと却下された。フルーツゼリーとカブトムシの餌を間違えて食べてしまったような気持ちになった。男子小学生に欲情する成人男性が存在していることを聞かされたおれは、オートミールにミールワームと納豆と牛乳を加えたものをおいしそうに食べる地域の人を目の当たりにした気分になった。

 そんな地域はないけれど。


 好色満漢川大先生によると、ボーッとしてても死ぬまでにいつかは万人に訪れるとイメージ付けられた、絶対的なモテ期というものは実は存在しないらしく、それはあくまで相対的に、自己ではなく他者を観察した際に、気が付くとそこにある概念なのだそうだ。

 成人式のあとに開かれる同窓会では、あいつがおそらく一番男子にモテることになるように、小学校低学年のころは、あの細流せせらきらいあが一番、同い年の男子からモテていた。


 同小だったのかよと思っただろ? ああ。おれ、埋火うずみび細流せせらききょうだいが同小で、天真爛漫川てんしらまんかわが同中、白亜木はくあきてぃらとは言わずもがな、先月会ったばかりだ。

 今になって考えればよくわかる。細流妹はあのころから、男子なおれと同様に、男子なんか眼中になかったんだ。

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