第二章 USBジャントー 06 M字バングの進化系
ひとまず風呂場を掃除してから、お茶とコップとああもう全部、袋につめて自室へ戻ると、赤、栗、紺、灰の四人がテレビの前で横一列に並んで、はぁはぁ言いながら、汗みずくになりながら、ものすごく慎重に――、
ぴょこぴょこしていた。
「……なにやってんだ」
足踏みマラソン? その場ジョギング? なんでもいいけど匂いがもう、女四つで新しい単語が誕生するほど雌々しい。筋肉二町好乃が振り向く。
「名付けて『浮遊ダイエット』よ!」
「お前ほんと名付けんの好きだよな」
「んふふ、あのね? これは普通のエアジョギングとは違って、素粒子の力をしっかりと、」
「ちょっと待って、これ。コップあるから。茶入れて、あのふたりに」
「は~い♪」
荷物を机の上に置き、三百万スコヴィルのキャロライナ・リーパー美のもとへ。世の中には運動すればするほど筋肉がつくやつと、その逆に筋肉が落ちるやつの両方がいるんだぜ?
「はぁーっ、ふーっお、あーっ、しゅぬ……!」
「人一倍代謝が良いんじゃなかったのか」
おれは秒で空になったパックを右美の手から回収した。
「はいもう終わり~、みんな風呂入って寝るー」
「えー、やだー! まだこのあとみんなで勉強するのー!」
「おやつは~、魚肉ソーセージ~♪」
『!?』
「風呂場に~、置いてきた~♪」
「あらやだもうこんな時間だわ、五月三日木曜日になっているじゃない。みなさん今日はよく頑張りましたね? 最後にもう一度お風呂に入って入念に肉体をうへへ――揉みほぐしてからんふふ――ここがいいの……? 一緒に寝ましょう、今日もまたあのスイートルームで!」
『屋根裏~っ♪』
「ああー、飴とお茶とそれからコップも一個持って行け。水飲めないやつもいるだろ? のど渇いてなくても小まめに水分補給な。あとちゃんと換気も。そうだなお世話係は埋火、お前に任せた! 大変だろうけどよろしくな。言うこと聴かなかったらケツ引っ叩いていいから」
「は、はい……っ!」
「女子バレー部の顧問かよ!」
「お手元の携帯端末で、選手のプレーを即座に分析するのかよ!」
「私、死んでも水分補給しません! ああっ、でも、口移しでなら喜んでウェヒヒ……!?」
黙って窓を全開に……、
「アホーッ!」
「寒~い!」
「鬼畜っ!」
「ドS!」
室温マイナス四十度。ああ、今日は冷え込むなあ……。おれは四人の名残をごっそり奪っていった大気を窓枠で二度切断して、従来の形状のまま表面がタッチパネルになった、USB端子で充電可能なリモコンを手に取った。エアコンを操作し、かにんちゃんを愛玩。
黄金のミニクラウンを黄緑の頭に乗せた、燕前髪の小学生。
画面の中では人気アイドルグループ《Red eyece》のセンター、花松音那ちゃんが、自慢のソフトクリームツインテを後頭部でふわふわさせながら、『真冬のネモフィラメロンミックス』を歌っていた。