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第二章 USBジャントー 01 アモーレ!


 ひょんな天真爛漫川(てんしらまんかわ)好乃(いいの)による全くミスらないリードから、なんでも爆弾だと思ってしまう理由が耳に染みて解った五月二日、水曜日の夕方、無事に自宅まで辿り着くことができたおれは、随分と趣が変わったその姿を見て唖然とした。


 せっかく今日はバイトが休みだというのに。

 USB時代は本当に過酷だなあ。


「大丈夫ですかぁ~っ、万能杉ばんのうすぎさ~ん!」


 発光するかにんちゃんを頼りに、自前の真っ赤な特大しゃもじで、オリザ姉がざくざく掘削。


(ハイテクなのかアナログなのか……)


 万能杉ばんのうすぎが発掘されて、即座にお礼。大丈夫です、問題ありません、この通り。オリザ姉がよかったと胸を押さえる。谷間の辺りを上からこう。

 そうだな。白亜木はくあき、――オリザ姉、埋火うずみび、――細流せせらき、――天真爛漫川(てんしらまんかわ)って感じかな。ちなみに背の順に並べると、細流せせらき埋火うずみび、オリザ姉、――天真爛漫川(てんしらまんかわ)白亜木はくあきとなる。でも脚の長さでは埋火うずみびカルカが一位だ。


 大体予想通りだろうから、言うまでもなかったか。

 しかしどうしてうちだけに?


「うわ、雪じゃん。すげー雪。なんでこんな積もってんの?」


「わからん。おれも今帰ってきたとこだから」


「ああ、ちゃんとあったんだ、それ」


「うん」


 盗みたかったら、違法駐輪してる方を狙うだろうしな。

 おれは愛自転車から降りた。


「姉ちゃん、何があったー?」


「! おかえりなさ~い!」こちらに気付いた彼女が手を振る。「それがねー、よくわからないんだけどー、今突然降ってきてー! ああっ、一旦お休みになられた方が……!」


「違うんですリーシアさん!」万能杉ばんのうすぎが両肩を掴んで、おれたちを一瞥。またオリザ姉に向き直る。「この雪の中、最後の仕上げをやろうというのではなくて、もう完成しているからこそ、掘り返さなければならんのです!」


「はあ……。でもあれ・・って、そんなに大事なものでしょうか……?」


「はいっ! ものすごく! 今直ぐにも必要なほど!」


「そ、そうですか……? それなら……」


 おれは隣の白亜木はくあきてぃらと目を合わせた。まあオリザ姉としては、何よりも先に屋根から雪を下ろす作業を手伝ってほしいということなのだろうが。


「そのマフラー、すげーあったかそうだな」


「ちょーあったかいよ? むふw」


「ちょー似合ってる。ふくら雀みたいで可愛い」


「えー、そんなに? えへ……?」


(そういや昨日はどうやって、こいつの頭皮をすんすんしたんだっけ?)


「自転車だとマフラーできないのよね? かわいそーって、冷たっ! なんであんた手袋してないの? それとも持ってない? これじゃ駄目よあっ昨日の軍手は!? 昨日の軍手!」


「軍手じゃ風通るから意味ない」


「うわ、雪じゃん! すっごい雪! どうしてこんなに積もってるのここにだけ!?」


 細流たちもやってきて、ふくら雀美が即舌打ち。

 目つきまでもが宿敵を見つけた狐になる。


氷麻(ひょうま)は?」


「来ないって」


「そうか」


「女の子怖いって」


「女の子怖い!?」


 何故だ!? こんなにも可愛いのに!

 隣の女の子を見る。

 はっと気が付いて、おれの手から離した小さなそれを慌ててポケットに仕舞う動作が、


「私の所為~……?」


「いや、お前だけが悪いってことは絶対にない。しいて言うなら隕石の所為だ」


「ふーん……。やっぱり? そうだよね?」


「うん」


 いや、こいつが可愛いということは細流せせらき氷麻ひょうまも知っていた。そうか、可愛い子に振られたから、可愛い子が苦手になったんだ!

 ……当たり前。


「でも母ちゃんがついてんだろ?」


「まあね、べったりと」


「じゃあなんとかなんだろ」


「ええ。お母さんは女の子じゃなくてお母さん。だから怖くない。今でも一緒のお布団で寝てるわ」


「い、今でも一緒のお布団で……!?」


「げぇーっ!」


 おれもこいつらが来る前はオリザ姉に添い寝してもらってたけど。

 あれは半分憑りつかれてるようなもんだったからノーカウント。


「……なあ、どうやったら男を好きになられると思う?」


「は!? いきなりなに!? なられなくていい! 絶対にやめて!」


 大変な剣幕で見上げられる。そんなに嫌か。何故だ。女子っていうものは、男同士の愛の物語が好きなんじゃなかったか?


「いやさ、将来息子が産まれたときに備えて、男子を好きになる練習をしようと思ってたんだよ。あいつに協力してもらって。だってお前も将来旦那と息子が両想いだったら嬉しいだろ?」


「えー? まあ、そりゃそうだけど……。血を分けた実子は別じゃない?」


「いやあ、そうかなあ。おれ、男と関わると頭痛がするんだよね。相撲は論外。柔道とか空手とかレスリングとかはもってのほかで、球技の距離感でも信じられないし――ほら、平気で抱き合ったりしてるじゃんか。正直教室内の距離感でもキツいんだ。防御力がゼロな者をどこかの世界で”無M”と呼ぶのなら、男友達と一緒に遊んで自然に息が苦しくなるおれは”無G”だ。うん。時代に逆行して今風にカムアウトさせてもらったけど、やっぱりやばいな。息子だけをネグレクトコースだこれ。違うか?」


「そこまで重症なら変に無理しなくても、奥さんに任せとけばいいんじゃない?」


「息子が実は男を好きだけどどうしても言いだせない男だったらどうする!?」


「それほど心配ならネグレクトすることはないと思うけど……?」と細流せせらき


梃子丸てこまるちんがいるじゃん。梃子丸てこまるちんが」


「うーん、できれば同い年以下の男で練習したいんだけどな……」


「まあ、そういうわけなら、もう一度誘ってみるわ。元気になったらね」


「おおっ! よろしく頼むぜ、細流せせらきらいあ!」


「何故にフルネーム……?」


「初めは女装してくれたらなお助かるって言っといて」


「んー、多分それ、願わなくても叶う系」


「マジで!?」


 いや、それでも、泣き虫、女の子恐怖症、マザコンの全てを克服した超絶イケメン改に生まれ変わって、おれの前に立ちはだかるに違いない。絶対に気は抜けない! 負けないぞ!


「あ……、あのー」


 そうだ全男子を去勢できなくとも、全女子をワンちゃんにできなくとも、全男子を女装させればいいんだと閃いたときだった。

 

「た……、た……! ただいま……?」


 これは愛……。

 アモーレ!

 おれは紳士的にスタンドを立て、ギャップ萌えの妃殿下へ近づいて、


「おかえ……、く、くそっ、ハグさせろ……!」


 勤労のヒゲアリヒゲナシヒゲヒゲに捕まった。

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