第一章 三目人形 09 カニンチェン
暗躍のタペータムに拒絶され、銀緑色の星がふたつ、淀んだ街に煌めいた。
「ひぃ~……、死、死ぬ……!?」
後ろから抱きしめられながら、炎の触覚をぎゅう。
鰐眼が更につり上がる。
「やめろっ、ああ、もう、触んな!」
「ガ、ガチで死にます、細流らいあ!」
「大丈夫だよ、あの子は味方だから」
「味方でもあの巨大さは無理なのよぉ~~~っ!」
「サイノじゃなくてメガロかよ!」
「鮫歯愛好家、だけにね?」
「うぜぇ!」
イヤイヤして振りほどき、自慢の龍の髯を入念に手入れし直して、おれの脚を蹴りにきた。
「説明!」
今からこいつら全員を自宅へ誘導――したかったが、できそうもない上にできたところで翌日全てを失う予感がしたので、おれは天真爛漫川を見た。
「そうだね♪ うひひ、みんな今夜は、じゅるっ、えーと。うちでうへへ、お泊りってことでんふふ……! こほん。決まりよね? ゴッホォッ!?」
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、だいじょう……ぶ♪ はぁっ、はぁ……っ! ちょっと刺戟が強すぎるかもしれないけれどこの好機を逃す手はないわ逃したら次はない絶対に死んでも逃さないじゃあみんな!? このままここにいたら凍死してしまうから私のうちへ行きましょう……?」
「怖いわ! というか私は初めから行く予定だった――じゃなくて!」その格好のままおれを見上げる。「あの犬のこと! もう!」
「ああ、あいつは、ロングコートカニンチェンダックスのかにんちゃんさ? 超脚短いだろ? でもそこが可愛い」
こちらがにっと笑うと、かにんちゃんも口元でにへっと笑った。
舌がぺろ。
「わー、かわいー♪ って! どこが兎サイズなのよ! 超巨大! ジャイアントダックス! あと別にドイツ語の発音に忠実でなくていいから! っていうかただの犬なわけないでしょ、あんな実弾が通用しないようなやつ!」
「わん!」
「はひゃ!?」
天真爛漫川がついに念願の生きた抱き枕をゲット。頬に潰されなかった瞳から、助けて光線を放たれて、フライング『白亜木がまさか一番人気になるとは思いませんでした』。
こいつだけはうちに引きとろうかと最後まで迷ったのだが、そうすれば、疲労困憊のお嬢様ひとりに眼鏡どもの世話を押しつけることになるので、おれは断腸の思いで諦めた。また明日学校で会おう。
「てぃら美ぃ~っ!」
「ゆうげ~んっ!」
普通なら帰るところを辛抱強く待ち続けたお姉さんが儲かって、パンツを乗せたの瀕死の軽があとを追う。おれはひとりかにんちゃんの中へ入った。ぼよん。ゆっくりと上昇。夜景綺麗だけど、ガチで怖えぇ~っ!