第一章 三目人形 08 わん!
刺青を入れた筋骨隆々時々メタボの面々が一斉に腰を抜かしたのは、放置したら放置したでひっついてきた白亜木を満面の笑みで受け入れてもう一度すんすんしたおれが、なんか爆発しろって言いづらいなあ、アホ同士だからだろうなあ、と皆に思われた僅か十秒後だった。
「ああーっ、もぉ! ほんとに何もかもUSBすぎ!」
おれは万能杉に女三人を死んでも守るよう指図してから全力で駆け出した。
「困るとか言ってる場合じゃねぇーから! そんでお前もお前でさっきから捕まりすぎなんだよ! この、見かけ倒し女!」
「ご……、ごめんなさいっ……!?」
上方を見上げて唖然とする組員その一の顔面を――掴むだけで我慢して、埋火を引き剥がす。案外とあっさり手放したのは、一億四千万円の損失を嘆くよりも、自分の命の方が大事だったからだろう。だろうというか、それしかないが。
「解決! 解決! もうおしまい! くどいし寒いし腹減ったし、超眠たいし超寒い! 五月なのにマイナス五度て! アホかもうこの世界!」
「お、重いでしょ? 無理しなくて……」
「わん!」
チンピラって死語だろうか、ヤクザって放送禁止用語だろうかとおれが真剣に考える。暴力団――と言ってもなあ、耳にしたくない人は笑えないだろうし。大人悪ガキ――及第点。あんまり造語を作ったら、自分の首を絞めるだけだけれど、これはもう仕方がない。
数名の刺青筋肉が、焦って転んで顔面を強打。あちゃー痛そう。全長九メートルにも達するあいつが屋根からジャンプして――おれたちの頭上を通過――、颯爽と着地する。通せんぼ。かっこいい。どうせ誰も殺せない拳銃が沢山登場。当たっても効かないとか効いても治るとかじゃなくて当たらない。すり抜けちゃう。だってあいつ、ナントカ概念だもの。
「がるるるう!」
でもあいつからの攻撃は当たる。
鋭い牙で胃袋を切り裂かれた、皮膚だけ若い高級外車が、狼のものより長い口吻で大爆発。
でもあいつは無傷。
反☆則。
おれはとにかく暖を求めて、聞き慣れた阿鼻叫喚を背に、皆のもとへ駆け戻った。