プロローグ
目を覚まして初めにいつも思うのは、まだ生きていやがったということだ。
こんな自分に何か意味があるのか。何かプラスの意味が。いっそ敗北を喫した時点で、淡い期待まで失ってしまえればいいのに。嗚呼、虫……。すばしこい……。毒、そして矮小。嗚呼、家族……。
面白くない、面白くない、面白くない、気に入らない――どうしてこんなにもくだらない、むかっ腹の立つ大嫌いなものが、みんなからちやほやされているのだろう? 答えをください、答えをください、答えをください、応えてください!
――大昔は、最大公約数的な娯楽しかなかった。スタジオにもパルプにも、物理的に限界があったから。今では世界に何ちゃんねるある? 何ページある? 本来誰にも理解されるはずのなかった趣味に、嗜好に、共感し賛同してもらえる歓びを、誰もが第一に摂取するようになった。
絶対の肯定を得た代わりに失ったものは何か? それは、批判された点を猛省してゆけば、いずれは必ず及第点へ到達できるという旧時代のレシピだ。好き嫌いを並べ立てる我儘が純粋な悪であった時代でしか、用を成さないお小言もある。
自由とはママを黒歴史にすることだ。
ともかく今日も腹が減った。まだ胃腸が弱ければ、これほどまでに情けない気持にはならなかっただろうに。走り込めば気力が痩せる。経験したそばから記憶は零れ落ちてゆく。筋肉を鍛えれば骨まで伸びるのか? 諦めるのは悪行に分類される行為じゃあなかったのかよ!
相手にもされなかったのはどうやら運がいい方らしい。失敗譚は鉄板だとよく聞くけれど、告白がどう真新しく失敗するというのだろう? 隅に追いやられた者同士で顔を見かわすと、火にくべることすらも後回しにされる、吹き溜まりの埃が鳴いた。
どうせ生涯独身だ。こんな身分で無駄に粘り強い同族を蔑視する。情欲をおさえる気がない連中とは一緒にしてくれるな。魂によるグループ分けが始まる。玲瓏なる其方よ! ただ子孫にせめて平凡を授けてやりたかったのだ……少なからず親を憎んでしまったものだから。
細い……あまりにも貧相な痩躯……。恋を捨て、情も求めず、愛かどうかもわからないまま、暖をとる必要に迫られて帰った閨竇で。幼い頃の自分を蹴り返して柳腰だとささめく。永遠に繁栄できる種族などあるものか。何が悪くともこれで精一杯だ。何が悪くとも。
こんなにも激昂できる力がまだ残っていたことに驚いた。食えないことも、奪われることも、ぶん殴られて歯が欠けたことも、こんなものを食わされることに比べればなんでもなかった。やめろと揺さぶる自分がいた。マッチもないのに山と積まれた絢爛たる熟成肉が死んだ。
しかし結局食うことになるのだ。誰もがこの場所は何なのかを知っている。もし食わなかったのであれば、この物語は始まらなかったし始まらない。最後のプライドが壊れて消えた。我々は全身に嘲笑を浴びながら、蠅のたかる腐肉と土まみれの枯草を、無表情で口に入れた。