別話 黄金の勇者のお話
[黄金の勇者]視点の話です。
黄金の勇者はどのように[勇者]となったのか。
どのような人物なのか。
勇者が戦争に参加するまでのお話です。
私は子供の頃から変わっていた。
私の名前はシエナ・マイラ。神聖教の中でも大司教を輩出し続ける名家、マイラ家の生まれだ。
生まれたときは、親の金色の髪と青色の目を受け継ぐ普通の女の子だったらしい。
変わり始めたのは考えることを始めた頃から。
なにかをすれば必ず誰よりも早く終わり。
何かを学べば大人すらも越える結論を導いた。
周りからは神童や天才などと言われた。家で信仰している宗教によって、神の子とも言われたことがある。
でも、私には分からない。ただ自分のできることをしただけなのだ。
頑張ったことなんて何一つない。
何がすごくて。
どこがいいことなのか。
一つ分かるとすれば、自分が何かをする度に、周りから人が消えていくこと。それだけだ。
7才の時、家の伝統で私は、神官になるために神学校へ通うことになった。
そこで魔法の適性を調べたところ、全ての属性に対し適性があったようだ。その中でも光属性の適性は特に高いらしく、今までにないほどだったらしい。周りは褒め称えたが、いつもと何かが違うわけではない。いつも通り気味が悪いような目を隠しながら、手を叩いていた。
訓練校でも自分の周りには人がよらなかった。尊敬の目、嫉妬の目そして恐怖の目を向けられるだけ。別にどうと言うことはない。
ただ、たまに目に映る級友同士が楽しそうに会話している光景は、なぜか、眩しく見えていた。
18才の時、教皇様の命により司教として抜擢された。最年少だったそうだ。神聖教が頂点であるこの国で司教というのは、地区の一つ、つまり国の一部を統括することを意味する。
父も母も喜んでいた。ただ、その目は私のことを見てはいなかった。
21才の時、魔王が現れた。教皇様が神託を受け勇者を信者の中から選び出すらしい。
教皇が神聖教に代々伝わる黄金の聖剣を掲げたとき、聖剣の光が選び出したのは、私だった。
聖剣[アスタロン]、この剣に選ばれた私は、その後すぐに聖騎士団に配属された。体を動かすのは苦手だったが、身体強化の魔法を使い男を追い抜かし、剣技は見て覚えた。
国中を周り、たまに表れる魔王の眷属である巨大な獣を切り裂き、魔法で焼いた。
そして、私は国に勇者として正式に認められる。
全身に魔法能力が上昇する金色の鎧を纏い。光り輝く聖剣を持つ私のことを人は[黄金の勇者]とよんだ。
聖剣を使いこなし始めた頃。私が日課の黙祷をしていると、気付いたときには私は白い部屋の中にいた。
そこにいたのは、美しい女神。[天の神]だった。
話を聞くと、どうやら王国でも勇者と言われている存在がいるらしい。王国がたたえている神、[人の神]が異世界から呼び出したらしい。
といっても正教国は[人の神]を神としては認めていないが。
[天の神]としてはその偽物の勇者を倒して欲しいということだが、正直人を殺す気にはなれない。どうやらこの神様、私たちが信仰している性格と微妙に違う。神々しさはあるが、どこか抜けているみたいだ。
ただ、私に対して親しげに話す神に、私は何か気持ちが動くのを感じた。初めての気持ちに少し驚いた。
勇者として認められた私には聖騎士団の内、一部が部隊として与えられるらしい。魔王討伐の際に自分の道中の護衛でもあるそうだ。
近くに人がいるのはあまり落ち着かないので嫌なのだが仕方ない。顔合わせは明日だ。少し話して終わりにしよう。
そして、顔合わせの日、私の部下になる人達がきた。女性が4人。男性が6人の計10人が私の部下になるそうだ。勇者の部隊として緊張していたようだった。
部隊として活動する最初の作戦。それは数多くの魔王の眷属が住む、「魔の森」の調査だった。
作戦は順調に進み、魔王の眷属との戦闘もあったが無事終わった。怪我を負った部下も数名いたが、作戦の遂行には支障はない程度だった。
しかし、問題が起きた。
部下が持っていた地図が、戦闘によってなくなってしまったのだ。これは私の失態だった。荷物を最小限にするため地図はその一枚のみ。私たちは今どこにいるかも分からなくなり広大な森をさまよった。
部下は皆私のことを許してくれた。口々に自分のせいでもあると言った。
少し、心が温かかった。
森から脱出をするため、私たちは三日森をさまよった。そして、ついに森の出口を見つけたのだ。
しかし、その時後ろから巨大な音が。そこにあったのは大量の魔王の眷属が木を押し倒しながらこちらに向かってくる光景だった。
森をさまよい歩いたことにより憔悴していた私たちは、逃走することに決めた。私たちは走った。しかし、間に合わない。魔王の眷属に押しつぶされてしまう。私は意を決し、剣を手に取って戦おうとした。
その時奇跡が起こった。魔王の眷属の中で仲間割れが始まったのだ。黒い猪の大群を、白い竜がかみ殺し、爪で切り裂く光景がそこには広がっていた。
その隙に、私たちは森から脱出することが出来た。この危機を乗り越え、私たちは無事、国にたどり着いた。
この作戦の後、部下がよく私に話しかけるようになった。時には町に私を連れて行き、ともに食事をしたり。女性の部下と服を買ったりすることをした。
何もかもが初めてだった。
これだけ親しげに話しかけてくる人が初めてだった。
町に行ったことも初めてだった。
教会で出された以外の食事を食べたのも初めてだった。
おしゃれというものをしたのも初めてだった。
初めて「楽しい」という気持ちを知った。
部下に言われた。私たちは部下と上司というだけではない。「友達」というものでもあるのだと。
世界に色が付いた気がした。
ただ、生きるだけの毎日が
生きたいと思える毎日になった。
[黄金の勇者]である私が守るものを。守らなければいけないものを知った。
明日は枢機卿の命により、部下のみによる見回りとなるが、終わった後は、
私から食事に誘うのも、いいのかもしれない。
黄金の勇者であるシエナは天才という部類の人間です。
なまじ高貴な家に生まれたことにより、嫉妬の目や恐怖の目に常にさらされながら生活することになり、心を閉ざします。
唯一心を開いたのは自分の部下だけでした。
その部下は・・・
次回は暗黒の勇者に戻ります