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まじない探偵ヒミコの裏帳簿  作者: 七海チェルシー
6/8

新宿の黒猫

俺は一体どうして、この場所にいるのだろう。

意味、わかんねえ。


山手線を降りたら、そんな思いがふと頭をよぎった。


すでに日付は変わっていた。

酔っぱらったサラリーマンと、これからクラブにでも出かけるのであろう若者が、ホームに溢れている。


新宿駅。


駅名標を横目に見ながら、東口へと向かった。


深夜の歌舞伎町なんて、日本で最も行きたくない場所だ。

極彩色のネオンがあちこちに揺れている。

冷たい風に、コートの前を合わせて耐えた。


…本気で恨むぞ、ヒミコ……


思えば、ほんの一時間ほど前のことだ。





「由良くん。新宿行ってきて」


「は?」


自室にいた俺に、ヒミコは突然訳のわからないことを口走った。


重要参考人として才和恵が警察に連行されてから、二日が経っていた。


俺もヒミコも未だ容疑者の一人には変わらなかったが、高梨の独断であっさりと帰宅を許可された。

もっとも他の容疑者は皆教団の信者なので、当然のことながらあの悪趣味極まりない城の中にいる。


ヒミコはあの降霊の儀の失敗のあと、才和恵の容疑を晴らすことではなく、明善ひかりの会をいかに潰すかについてを真剣に考え始めてしまった。


俺はなるべくヒミコと接触を断つように日々自室で過ごしていたが、いきなりドアを開けられては逃げるすべなど無い。


「何のために新宿なんかに…。黒猫なら、今日本にいないって言っただろ」


俺がそう言うと、ヒミコはにやりと笑った。

「ノワールのママから電話があってね」


まさか…


「黒猫が帰ってきたそうだよ。ほら、由良くん。寒いからね、これ着て行きなよ」


「おい、待て。今なのか!?何時だと思ってんだ」


ベッドに座っていた俺は慌てて腰を上げ、満面の笑みで黒いダウンコートを掲げるヒミコに近寄った。


「あたりまえだよ由良くん。今ならノワールにいるらしいから。逃すと次はいつどこに出没するかわからないだろう」


それはそうだが。

っていうか自分で行け。


俺が心の中でそう呟くと、ヒミコはエスパーのようにそれに答える。


「ボクはやだよ。黒猫は嫌いだ。でも奴の情報はほしい」


わがままだ。


「いい?明善をギャフンと言わせるネタをつかんできてね。あそこは絶対裏であくどいことやってるよ。そうそう、あと」


ヒミコが黒い微笑みを見せて言った。


「教団と才和グループに繋がりがないか、あるとすればどんな繋がりなのか。これも聞いておいてよね」


教団と才和グループとの繋がり?

ヒミコがなぜそんな所に目を向けているのかは解らなかったが、とにかく俺は寒空の下へと追い出された。





いつものように歌舞伎町を伏し目がちに抜ける。


明かりの少なくなった路地裏に、例の看板を見つけた。


『ノワール』


紫色のネオンと怪しい形のカタカナが、いかがわしさを醸し出している。


すごく入りたくない。


俺は今更、ドアの前でそんな思いにかられ、しばらく黒い扉に手をあてがったままの態勢で止まっていた。


しかし突然中からドアが開いた。

俺はいきなり引かれた扉に驚いて、前へとつんのめってしまった。


そしてなにか、温かいものに当たった。


「きゃあ、由良さんのえっち!!」


甲高い悲鳴(のような、喜んでいるような)を上げたのは、この寒いのにキャミソールのままの杏奈だった。


俺はすぐさま物凄い勢いで杏奈から離れると、一歩後ろに下がった。


「いやーん、由良さんって結構大胆」


いや、事故だ。これは事故だ。俺にとっての事故だ。

俺は心で呟きながら、杏奈に尋ねた。


「黒猫が帰ってきたって本当か?」


杏奈はそれを聞くと、手をぽんと叩いてから俺の腕をつかんだ。


「にゃんこさんなら、あっちにいますよ」


言われて俺は、杏奈をよけて薄暗い店内に入り、彼女が指した最奥のボックス席の方に歩き出した。

が、紫のカーテンで完全に覆われたそのシートに近づいた時、背後にいた杏奈が見た目からは想像もできないほどの強烈な握力で俺の腕を後ろに引き戻した。

勢いで俺は不覚にも、再び杏奈に飛び込んだ。


「っ…何だよ」


「誰も側に寄らせるなって、にゃんこさんが言ってたから」


……。


なんだそれ。


「じゃあ、いつになったら中に入れてくれるんだ?」


俺が厚手の緞帳を見つめながら杏奈に尋ねた。

しかし杏奈はただ首を振る。


「わかんない。何をしてるのかも、いつ出てくるのかも聞かなかったから」


自分の店の大きなボックスシートがまるまる一つ奪われているというのにそれでいいのだろうか。


あたりを見回せば今日は割と人の入りが良い。

カウンターではスキンヘッドのママが、忙しそうに行ったり来たりしている。


「由良さん、どうする?ここで待ってる?大サービスしちゃいますよ」


何のサービスをしてくれるつもりなのかわからないが、俺は少し逡巡してからそれを断った。


「いや、いい。帰るよ」


正直にいえば、眠いし寒いし、ヒミコのためなんかにいつまでも待ちぼうけを食わされるのも癪に障る。

黒猫とは会えなかったことにして、帰って寝よう。


そんな風に思ったのだが。


「なんだ、由良か?」


紫色の幕の向こう側から、男の声が聞こえた。


ちくしょう、タイミングの悪い。


俺は心の中で毒づいた。


「そうですよ、にゃんこさん。由良さんです」


杏奈が明るい声で告げる。

すると、緞帳の中からまた声が答えた。


「由良ならいいや、入れよ。杏奈、他の奴らは近づけるんじゃないぞ」


「はぁい」


黒猫にそう言われて、杏奈は素直にうなずいた。


「よかったですね由良さん。にゃんこさんとのお話が終わったら、何か一杯飲んでって下さいね」


そう言い残して、忙しそうなフロアへと戻って行った。


仕方なく俺は、言われた通りカーテンをめくってそっと中に入った。


そこには…………


何だか有り得ない空間が広がっていた。


緞帳を一枚隔てた向こうあったのは、暗闇の中に煌めく星々の影と、オーロラの様な幻想的なイルミネーションだった。


………。


宇宙か?

店の中に宇宙が現れた?


呆けたようにその場に立ち尽くすと、すぐ真下から声が聞こえた。

「何ぼーっとしてんだ。用があるんじゃないのか?」

黒猫の声だった。


反射的に下を向くと、ソファがあるにも関わらず床に直接腰を降ろしている男がいた。

ソバージュのかかった真っ黒な髪と、ジョン・レノンのような丸いサングラス。

年齢の読めない外見と、エスニックで国籍不明な雰囲気。

『新宿の黒猫』その人だ。


とりあえず、どこから突っ込めばいいのだろうか。


何で地べたに座ってんだよ。

暗い中でサングラスって。

この宇宙空間は何だ。


俺が言葉を選び出す前に、黒猫は宇宙空間についての説明を始めた。


「スゲーだろう。これ、プラネタリウムなんだぜ」


プラネタリウム…


ふと下のテーブルを見ると、たしかに映写機のような小型の機械が置いてあり、それが柔らかい光を放出していた。


しかし、なんでわざわざこんなところでそんなものを映写しなければならないんだ。


俺の心中を忖度なぞするはずもなく、黒猫は続ける。


「報酬として貰ったんだ。マキノから」


「マキノさんから?」


情報屋の口から出たその名前を、俺は繰り返した。


「ああ。ついさっきまでマキノに会っていたんだ。んで、コイツを試してみたくてここに来た」


ノワールに来た理由がそれかよ。


プラネタリウムを試すために、営業中の店を使うな。


「そういや、マキノから聞いたぞ。何か面白い殺人事件に関わっているらしいじゃないか」

ワイングラスを傾けながら黒猫が呟いた。

「面白いことは一切ないが、殺人事件に関わっているのは確かだ」

言いながら俺はソファに腰を降ろした。

ゆっくりするつもりもないが、全く何もしないのも気が引ける。

とりあえず聞けることは聞いておこう。


「明善ひかりの会…だろう。知ってるぜ」

黒猫は依然として床に座ったまま、俺を見上げながら小さく笑って続けた。

「世界で最も俗っぽい宗教団体」

「ああ、全くその通りだ」

宿舎の部屋名を思い出して、俺は肩が重くなるのを感じた。

足もとが窮屈になったのか、黒猫は長い右足を正面のソファに乗せた。

「で、お前は何が知りたいんだ?」

言われて、俺はヒミコからの言付けを思い出した。


「明善ひかりの会が、何か裏であくどい事をしていないか…」

「ああ。してるしてる」

俺が最後まで言い切る前に、小さな笑いと一緒に黒猫の声が返ってきた。


「あの教団の宿舎にいる人間のほとんどは、人質なのさ」

「は?」

唐突な黒猫の発言に、俺は言葉を失った。


人質?

余りに穏やかでないその単語は、俺の想像を超えていた。

せいぜい、横領くらいだと思っていたのに。


「端的に言うと、ヤクザとつるんでいるんだ」

黒猫はグラスを傾けつつ言った。

「貸した金が返ってこないと、その家族を人質に取る」


……。


思い切り大犯罪じゃないか。


「それだけじゃ終わらない。完済したとしても人質は返されない。被害者は永遠に家族の安否を気遣いながら、金を払い続ける」

「な、なんだそれは。そんなこと…」

「できるわけがないと思うだろう。それが、できちまってるんだな、あの教団では」

首だけをこちらに向けて、黒猫が笑った。


「でも、もし本当に人質として教団にいるなら、誰か脱走したり、変な噂が立ったり、何かするだろう」

だいたい、人質をバストイレ完備の個室に入れたり、みんなでスポーツ大会したりは絶対にしないと思うが。


黒猫がこちらに視線だけよこしながら言った。

「あそこにはな、お前のとこの女狐みたいな、妖怪じみた力を持った奴がいるのさ」

黒猫はヒミコが嫌いだ。お互い、同族嫌悪だと思う。

「そいつに諭されると、明善ひかりの会に入信したくなってしまう」

ああ、なるほど。

「つまり、人質になっている側には、人質である自覚は無い、ということか」

「その通りだ。本人たちは単純に、宗教に入信するのだと思っているわけだから、親兄弟が泣きわめいて反対しようとも、単に理解がないと解釈するわけさ」

うまくできているもんだ。


「彼らは最高に豪華な宿舎で、何不自由なく、楽しい人質生活を送れるんだ。裏で家族が必死に救出を試みている間にな」

「だが、部屋には電話もあったぞ。外部と連絡を取られたらまずいだろう」

「外線は繋がっていないのだろう。外界と遮断されることが悟りへの道だ、とでも諭せばいい」

確かに、電話は内線で繋がっていると聞いたが、外線がかけられるかは確認しなかった。


「それでも、途中で気付いたり、還俗したいと思うやつが出るんじゃないか?」

俺の質問に、黒猫はプラネタリウムの動きを見ながら、静かに答えた。

「そうなれば、ヤクザが綺麗に片付ける。一度教団に入った奴で、無事に還俗した人間はいない」

「…なるほどな。それにしても、見学者を積極的に募集しているようだったが、それはまずくないのか。外部の人間とコンタクトを取ることになるだろう」

「そこもうまくできているんだ。見学に来た人間を例の方法で入信させて、奴らはそいつの親兄弟に対し身代金を強請るのさ。

 この場合は借金のかたではなく、誘拐だな。獲物が門をたたくのを待っているだけでいい楽な誘拐」


なんて恐ろしいことを考えるのだろう。

俺は少し身震いした。


床に座っているのが疲れたのか、黒猫はゆっくりと立ち上がると、俺の隣に腰を下ろした。

「マキノから聞かなかったか。少し前に教団をバッシングする噂が立った」

そういえば、聞いた気がする。

一度入信したら二度と戻れないと。

…まさかこんな裏があるとは考えもしなかったが。


「噂っていうのは、根源さえ完璧に叩き潰せば、全滅させるのも訳はないんだぜ」

つまり、ヤクザの方々が『根源』を綺麗に片付けたということか。

考えるだけで末恐ろしい。


少しの沈黙の後、黒猫が口を開いた。

「聞きたいことはそれだけか?」

言われて俺は、ヒミコが言っていたよくわからない質問を思い出した。


「明善ひかりの会と才和グループに、何か共通点はないか?」

意外な問いだったらしく、珍しく黒猫が眉根を寄せた。

「才和グループと?」

「ああ、俺もよくわからないんだが、ヒミコが聞けと言っていたから」

それを聞いて黒猫は、さらに目を細めた。

「女狐の役に立つつもりはないが、まあいいや」

呟いた後に、ソファの背もたれに深くもたれ掛かって、サングラスの奥の目を閉じた。

自分の記憶の中の情報を辿っているのだ。


黒猫の知識は、すべて彼の頭の中にだけ保存されている。

彼はコンピューターもノートも、あらゆる記憶媒体を一切使用しない。

本人は、自分の脳以外に記憶させるには危険すぎる情報ばかりだから使わないんだと言っていたが、どう考えても普通の人間はそんな量の情報を正確に記憶することなどできないだろう。

ヒミコを化け物扱いするこの男も、十分化け物だ。


「ああ、一応関係があるな」

矢庭に目を開いた黒猫が、やや驚きを含んだような声で言った。

「今まで全然気がつかなかったが」

黒猫は首をこちらに捻ってにやりと笑った。

「どんな関係だ」

俺が催促すると、黒猫はゆっくりと答えた。

「明善の教祖は元才和グループの社員だった」

「社員?」

「ああ、正確には統括部長」

「なんでそんなに詳しい役職までわかるんだ」

才和グループの社員の名前を一人一人記憶しているんだとしたら、はっきり言ってヒミコよりも化け物だ。

「なんてことはない。教祖はそこで小さな汚職事件を起こしているのさ」

「汚職事件って…もしかして横領か」

「そのとおり」

降霊の儀でヒミコが騒いでいたシーンが、フラッシュバックした。

「まさか、それで教祖は才和グループをクビになったのか」

黒猫は笑みを浮かべたまま静かに頷いた。

ヒミコの“横領が大好きでクビになった”という適当な発言は正しかったのか。


「特に他の繋がりは見当たらないが、そんなもんでいいのか」

黒猫がグラスに残ったワインを飲みほしながら言った。

「ああ、十分だ。助かった」

答えながら俺はゆっくりとソファから立ち上がる。


なぜか急激に眠くなった。

よく考えれば、今は真夜中だ。

眠気がおとずれても何の不思議もない。


…さっさと帰ろう。


「邪魔して悪かったな」

そう言って妖しい紫のカーテンに手をかけた俺に、黒猫が憮然としたような声を上げた。

「おい」

眠気と薄暗い雰囲気に呑まれてぼうっとした頭に、低い声が響く。

「お前、大切なこと忘れてるぞ」

「大切なこと?」

意外な思いで振り返ると、ソバージュの髪をかきあげながら黒猫が言った。

「俺の情報をタダで持って行く気か」

「…あ」


一体俺はどうしたのか。

報酬のことを全く考えていなかった。


いつもはヒミコが適当に現金を渡してくるから、それを単純に払っていたのだが、今回は余りにいきなりだったので彼女も気を回せなかったようだ。

どうしたものか。


「カード払いは受け付けていないぞ」

眉根を寄せた黒猫が、それでもどこか楽しげなトーンで言った。

黒猫への報酬は、何がいくらという風には決まっていない。

はっきり言って、その時の黒猫の気分である。

時には(ヒミコのように)法外な額を要求してくる場合もあるし、今回のマキノのプラネタリウムのように、黒猫が気に入る物であれば金品でなくても情報と交換してくれることもある。

大体、本来報酬は先払いなのだが、彼は元来適当なので、あまり気にしないらしい。


ダウンジャケットのポケットを念のため探ってみるも、帰りのタクシー代プラスアルファくらいの額しか発見できなかった。

いくらなんでもこれでは無理だろう。


「すまない、なぜかすっかり忘れていた」

正直に俺が告白すると、黒猫はいったん首を捻ったあと、何か面白いことを思いついたように口の端で笑った。

まさにヒミコがよからぬ事を考え付いた時の顔と同じである。

やはり同族か。


「さすがに俺もボランティアじゃないからな。そのまま帰す訳には行かないな」

「じゃあ、一体どうすればいい」

少し本気で戸惑いながら俺が尋ねると、黒猫は例の笑みを湛えたまま、俺のジャケットを自分の方に強く引いた。

勢いで俺はソファに前のめりに突っ込む。


「簡単だ。体で払ってもらう」

「…は?」

間抜けな声を出した俺は、一瞬言葉の意味を捉えきれなかった。

しかし次の瞬間、俺の守護霊が全力で危険を告げていることに気づいた。


ヒミコと同じ種族のこの男に協力などしようものなら、何よりも先に生命の危機にさらされることは明らかだ。

実際、つい今しがたまで、命の危険のために海外へ逃亡していたくらいの奴だぞ。

まだ死にたくはない。


「明善の件は大きいからな。それに見合うくらいのことはしてもらわないと」

まるで逃がすまいとするように俺のジャケットを掴んだまま、黒猫が言った。

「ちょっと待て、次に会った時に渡すのは駄目か?」

若干慌てて俺が尋ねると、黒猫は顔をこちらに近づけながら答えた。

「後払いも受け付けていない」

低い静かな声が耳の近くで響く。

背中を冷汗が伝うのを感じた。

逃げるすべ無しか。


俺が軽く死を覚悟した瞬間、カーテンが勢いよく開いた。


「黒猫! なに由良くんの半径50センチ以内に侵入してるのよ!」

かこーん、というギャグ漫画のような効果音と共に、プラスチックのあひる(何のための物だろう…)が黒猫の額にクリティカルヒットした。

彼は面白いくらい後ろにのけぞったあと、額を押さえて正面を向いた。

「リキマルめ…、いいところで邪魔しやがる」

「本名で呼ぶなって言ってるでしょこの悪徳外道情報屋!」

スキンヘッドに青筋を浮かべたママが、金切り声で叫んだ。


本名、リキマルだったのか。

似合うな。


「今日めちゃくちゃ忙しいのよ。お客さんも満員。あんたに貸す席はもう無いの。さ、飲む気ないなら帰って頂戴」

確かに、開いたカーテンの先は人で溢れ返った店内だった。

黒猫は頭をさすりながら、疲れたようにゆっくりと腰を上げると、カーテンを払ってボックス席から出た。

「仕方がない。今回は特別に後払いで許可する」

気のない顔で振り返りながら黒猫が言った。


「じゃあ、幾らくらい渡せばいい?」

俺が尋ねると、黒猫は悪戯っぽい笑みを戻して答えた。

「何言ってんだ。次に会った時に、体で払ってもらうので決まりだ」


……。

二度と会わないことを祈ろう。

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