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悩める古道具屋 -夜雀と山彦の狂想曲-

作者: 與七

幻想郷の英雄は、だあれ?

「それは霊夢」と里の人間が言った。

霊夢は悪い妖怪を退治する。

幻想郷のアイドルは、だあれ?

「それは鳥獣伎楽」と山の妖怪が言った。

彼女らはみんなを虜にする。


「やっぱり、定期的に整理しないと駄目だよな・・・」

僕は店の中を見回しながら呟いた。最近は外の世界の品物や外来本を手に入れる機会が増えたものの、それと比例して香霖堂の店内は手狭になっていく。要らないものは片付ければ良い―が、僕の店の場合、そんな単純な問題ではない。壊れやすい貴重品や、絶対に傷つけたくないコレクション、他人の手を借りなければまず動かせないであろうドでかい物など、様々なものがあちこちに置かれている状態である。こうなってしまうと、もはや何から手をつけていいのかもわからない。

「まあ仕方ない、片付けられそうなものから順番にやるしかないな」

僕は自分の両頬をぺチペチと叩くと、今日こそは、と意気込みを入れて作業に取り掛かった。のだが―


―カランカラン

「こんにちは!」

「お邪魔しまーす」

元気な二つの声が店の中に響いた。・・・気合を入れて始めようとした刹那、全くタイミングが悪すぎる。しかも彼女たちは―


「お久しぶりですね、店主さん」

ミスティアが僕に笑顔で言う。

「あ、ああ。ご無沙汰だね」

「ご無沙汰ですね」

響子も満面の笑顔で僕と同じ言葉を繰り返した。

うう、よりによって騒がしいのが来たな。しかもこの二人が同時に来店するとは・・・相手をするのに苦労しそうだ。さて、この二人は「お客さん」として来てくれたんだろうか?そうでなければ少々乱暴だが、さっさと出ていってもらうという選択肢も・・・


「店主さん、またいっぱい、珍しい品物拾ったって聞きましたよ」

ミスティアが僕に無邪気な声で言う。

「私も聞きました!」

響子もやはり同じ言葉を繰り返した。

「なので、今日は」

「色んな珍しい品物を」

「「見に来たんですよ!」」

僕に向かって、二人は元気な声でハモる。

「なるほど、それは有り難いね。ただ―」

僕の視線の先には、片付けるべき商品が山のように置いてある。


「今は商品の整理が十分じゃないんだ。だから、品物も非売品もまとめてごっちゃにして置いてあるんだ。だから、品物を見るのは構わないけど、勝手に触ったり動かしたりはしないでほしい。欲しいものがあったら、必ず一声掛けてくれないかな」

「はーい!ありがとうございます」

響子が元気な事で返事をする。

「はい、わかりました」

ミスティアも僕に笑顔で言う。

「ところで、珍しい品物を見に来たって言うけど、特に何を買うっていうのは決めていないのかい?」

僕は彼女たちに尋ねてみる。

「あ、はい。実はですね、ライブの際のパフォーマンスに使えそうなものを探そうかと思って」

ミスティアが商品の山をちらりと見ながら言う。

「パフォーマンス?」

「そう、パフォーマンスです」

響子が僕の言葉を繰り返す。

「ライブのMCの時とか、歌の最中でちょっとした芸をしたいんですよ」

響子が僕の顔を笑顔で見ながら言う。

「へえ、それは面白そうだね。でも・・・」

鳥獣伎楽のライブか。前に魔理沙に面白半分で連れていかれた時は、何が何だかよくわからない間に終わっていたような、そんな奇妙な印象しかない。爆音でガンガン音楽を聞かされたが、どんな歌だったかはもはや覚えていない。終わった時には耳がジーンとして、もうあまりこういうのは行きたくないな、というのが当時の僕の感想だ。彼女たちには悪いけど。最も、魔理沙のほうは結構ノリノリだったような気もするが・・・

「前にライブに行った時、パフォーマンスみたいな事ってやっていたかな?僕の記憶には無いんだけど」

「ああ、以前はただ歌ってMCして、また歌ってって、ただそれだけでしたけど」

ミスティアの言葉の後に、響子がすかさず続ける。

「今回はお客さんの心を鷲掴みにするような、面白い事をやろうか、って話になって」

「それで、今回はここに来たという訳です」

「そう、何かそういうのに使える品物が無いかって」

「「ねー」」

二人は最後に言葉を合わせると、お互いの顔を見つめ合ってニッコリした。

ふうん、ファンサービスのためのパフォーマンスね。しかし、そんな都合の良いものがうちに果たしてあっただろうか?彼女たちからすれば、大半は訳の分からない道具にしか見えないだろう。僕の解説は必要不可欠だ。いやしかし、いちいち道具の解説をしていては、日が暮れてしまう。まあ、彼女たちは自分たちが使えると判断したものにしか興味はないだろう、きっと。その時は軽く説明してやればそれでいい。

「まあいいや、それじゃちょっとごちゃごちゃしてるけど、自由に見ていいよ」

「「はーい」」

二人は声を合わせると、品物の山の近くに足を進ませる。


「雄の駒鳥を殺したの、だあれ?」

「『あたし!』って雀が言った☆」

「あたしの弓矢で駒鳥殺しちゃった♪」

「彼が死んだのを見たのは、だあれ?」

「『僕だ!』って蠅が言った☆」

「僕の小さいお目目で彼が死んだのを見たよ♪」


「・・・」

二人はライブで歌う曲なのだろうか、二人で仲良くデュエットしながら品物を物珍しげに見ている。ポップでキュートなリズムに載せて、そんな物騒な歌詞のシュールな歌を聞かされる僕は、多分数十分後には気がおかしくなっているかもしれない。いや、よく考えたらこの二人は妖怪だ。彼女らにとっては、これはいつもの通り、通常運転なのかもしれない。


「あのさ、発声練習なら外でやってほしいな。品物を見るならお静かに―」

「あ、ごめんなさい」

ミスティアが僕の言葉に驚いた表情を見せる。

「静かにしないとね」

ミスティアが響子の顔を見ながら言う。

「しないとね」

響子もミスティアの言葉を山彦らしく繰り返した。

「で、どうだい?パフォーマンスに使えるような気になるものは見つかったかな?」

僕は彼女たちの元に歩み寄る。

「そうですねー、ほとんど全部気になっちゃう」

響子が戸惑いながら言う。

「面白そうなものばっかりだもんね、仕方ないよ。ですよね、店主さん」

ミスティアが響子を見、続けて僕の顔を見る。

「出来れば、以前見た、外の世界の歌手がやったようなパフォーマンスをやりたいんですよね、私たちも」

「外の世界の?」

「そうです。河童さんに外の世界の歌手のライブの様子を見せてもらったんですよ」

響子も僕の顔を見た。

「例えば、ギターの上でキャベツの千切りしたりとか、髪の毛で習字したりとか」

ミスティアが笑顔で僕に言う。

「ステージで河童さんがやってるような溶接作業したりとか、野球拳やったりとか」

響子も笑顔で僕の顔を見上げる。

・・・何かもうツッコミどころが多すぎて困る。特に最後のは、ストリップとあまり変わらないんじゃないか。どう考えても不健全だ。

「あのさ、それでお客さんは喜ぶのかい?」

「はい、そりゃもう馬鹿受けでしたよ。ねー」

「だよねー、歓声や笑い声がすごかったもんねー」

二人は顔を合わせてニッコリする。

うーん、盛り上がるのはいいけどちょっとそれは方向性が違うというか、おかしな形になってしまうんじゃないだろうか。そもそも、音楽と関係あるのか?そのパフォーマンスは・・・。まあ、パフォーマンスだけなら、もっと違う形で盛り上がれるグッズが確かあったはずだ。


「そうだ、観客を盛り上げたいのなら、手品なんかどうだろう」

ふと思いついた僕は、道具の山の中の一角を探り出す。おっと、結構たくさんあるじゃないか。

「手品ですか?」

ミスティアが後ろから声を掛ける。

「手品ですか。なんか面白そう」

響子も言葉を繰り返した。

「そうだな、例えばこういうのはどうだろう」

僕はある手品の道具を右手に忍ばせると、そのまま二人の方に振り替える。

「こんなふうに―」

パッと手を開くと同時に、ミスティアと響子が歓声を上げた。

「うわー、すごーい!」

「店主さんの耳が大きくなっちゃった!」

「まあ、これは単純な仕掛けだからね」

僕は手に持ったダミーのデカ耳を二人に見せながら言う。

「単純だけど、面白いです」

「面白いですね」

二人は目を輝かせて僕に言うが、ふいに二人とも何かに気づいたようにはっとした表情になる。

「どうしたんだい?」

「・・・あの、店主さん。それ、私たちの耳じゃ、出来ませんよね」

ミスティアが落ち込んだ声で言う。

「うん、出来ないよね」

響子もミスティアの顔を見ながら繰り返した。

・・・しまった。この手品グッズはあくまで人間用だ。よく考えたらこの二人の耳の形は、人間のそれとはまったく異なるではないか。

「ごめんごめん、確かに言われてみればそうだね」

「うーん、残念です」

「でも、こんな感じの手品だったら、ステージ上でも簡単に出来そうだよね」

響子がミスティアを励ますように言う。

「だね。店主さん、手品用の品物、とりあえず全部見せてください」

「見せてください!」

全部、か・・・。しかしライブで使用出来るものでないと意味がなさそうだし・・・・本格的なマジックショーに使う大きな品物もあるけど、それは黙っておこう。とりあえず、簡単なグッズは全部出してあげるとしよう。

「わかった、ちょっと待っててもらえるかな」

「はい、あ、全部どんどん持ってきてもらってもいいですか?」

「いいですか?色んなのを早く見てみたいです」

そうねだる二人を背にしながら、僕は品物の中から手品グッズを次から次へと取り出した。そしてそれをどんどん彼女たちの前に置いていく。


「何これ、変なの!これ、ちょっといじってもいいですか?」

響子が僕に大きな声で言う。

「いいけど、壊さないようにね。って、使い方はわかるのかい?僕の解説が―」

「いじってればそのうちわかるんじゃないですか。ねー」

ミスティアが響子に向かって言う。

「そうだよねー」

響子もミスティアに向かって笑顔で言う。

おいおい、僕の役目はどうなるんだ。とりあえず、必要最低限の解説くらいはしてあげないと。

「うわー、面白い、見て見て」

「あはは、本当だ。すっごーい」

後ろから無邪気な笑い声が聞こえてくる。うーん、本当に使い方をわかってるんだろうか。

「あ、店主さん。なんか、大丈夫そうです。いけそうです」

「私たちだけでもいけそうでーす」

「え?」

僕は思わず、彼女たちの方を振り返った。

「なんか、ほとんど使い方を書いた紙が挟まってるみたいです。えっと、これは・・・」

「とりあつかいせつめいしょ、って読むんだよ」

響子がミスティアに説明している。

「あ、そうそう。なので、使い方はすぐにマスター出来そうです」

「出来そうでーす!」

・・・なんてこった。僕の能力を使うまでも無かったか。しかし、僕も少し反省すべきだな。取扱説明書がほとんど挟まっているのすら気づかず、拾った品物はただ積み上げていくに等しい事をしていたのだから。ちゃんと、拾った品物は隅々までチェックするべきだ。

「店主さん、これすごいですよ!」

「ライブでやったら大盛り上がり間違いなしです!」

大量の手品グッズを前に、二人の嬉しい悲鳴が僕の耳に木霊した。


「店主さん、今日はありがとうございました」

「ありがとうございましたー!」

二人は満面の笑顔で、僕に感謝の言葉を述べた。当然であろう、あの後結局、二人は僕が引っ張り出した手品グッズをほぼ買い占める形となったのだから。買わなかったのは、あの耳が大きくなる奴ぐらいである。ほくほく顔の二人は、互いに顔を見合わせてニッコリする。僕もその姿に思わず笑顔がこぼれた。

「あの、これ」

そう言うと、ミスティアは僕に一枚の紙を手渡す。

「次のライブのチケットです。よかったら」

「よかったら来てくださいね!」

「ちなみにペアチケットですので」

「誰か好きな人を誘って下さいな」

「「これからも、鳥獣伎楽をよろしくお願いします!!」」

鳥獣伎楽の二人の明るい声が、香霖堂内に響いた。


「ふう・・・」

僕の二人の背中を見送りながら、小さな溜息を付いた。

「いっぱい買い物をしてくれたのはありがたいけど、まだまだ残ってるな。どうしよう」

彼女たちはたくさん買い物をしていったはずなのに、品物が減ったという印象は無い。そもそも、元々物が多すぎるのだ。

「やっぱり、地道に片付けるしかないか」

整理整頓は日頃からきちんとしておくべきだな、と改めて僕は思った。


そうだ、これの事も考えておかないと。

「ライブか・・・」

僕は手に持った鳥獣伎楽のライブのチケットを見た。ペアチケットだから、誰か一人誘わないといけないな。ここは魔理沙に声を掛けるか。いや、魔理沙にこれを譲ってあげるのもいい。そうすれば誰かと一緒に喜んでライブに行くだろう。彼女たちには悪いが、あの二人の歌はあまり自分には合わない気がする。だったらまだ騒霊楽団のほうが聴いていて心地が良い。だが―

「パフォーマンスは、見てみたいかな・・・」

僕の店から仕入れた道具を上手く使いこなす彼女たちのパフォーマンスは、どんな感じになるのだろうか。爆音でシャウトする姿だけでなく、観客に向けて笑顔でおどける彼女たちも一度は見てみたいと思う。うん、やっぱりもう一回は行ってみようかな、彼女たちの晴れやかなステージを見に。


幻想郷のアイドルは、だあれ?

「それは鳥獣伎楽」とみんなが言った。

彼女らはいつも注目の的だ。

幻想郷の古道具屋は、だあれ?

「それは霖之助」と誰かが言った。

古道具の事について、彼の右に出るものは居ない。

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