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序章

 幼いころから僕は、クルマが大好きだった。大きくなったら、スーパーカーに乗るんだって思って、母さんが誕生日に買ってくれた真っ赤なカウンタックのミニカーでいつも遊んでいました。大切な宝物だったので、起きている時はもちろん寝る時も、いつもカウンタックのミニカーを握りしめながら・・・。いくらかわいい妹でも、カウンタックに触っただけで、僕は怒ってました。

 妹が生まれてすぐに両親は離婚をして、母子家庭で経済的にも苦しかったこともあって、家にはクルマがありませんでした。でも、僕がサッカーをやるようになって、遠征に行くことが出てきて、母さんがほとんどそのためだけに、クルマを中古で購入してくれた。購入先は、母さんのお兄さん つまり自分から見たら叔父さんが経営してる中古車屋で、下取りに入ってきたものを安くしてもらったようでした。クルマの名前は、トヨタ ターセル。1300㏄のグリーンメタリックのような色をしたセダン。スーパーカーに憧れている僕にとっては、全然カッコいいクルマには思えなかった。でも、自分の家にクルマが来たっていうことが、誇らしくて、とっても嬉しかった。新しい友達が出来たみたいで、本当に嬉しかった。

 母さんは、家から自転車で通える、そう遠くないお茶の缶を製造する会社に勤めていたが、昔は短大を卒業していすゞのディーラーに勤めていたそうだ。その頃は、自動車を運転していたけど、そのあと数十年はペーパードライバーで、また運転を思い出すために、会社帰りに教習所に通ってくれていました。

 母さんとの思い出でよく覚えているのが、クルマを買ってすぐのドライブで、長い坂道で停止してからの発信の際、クラッチとアクセルの操作がヘタクソで、ジェットコースター並に思いっきり坂を下っていったという、まさにマンガのような笑えない怖い思いをしたことがありました。   

 でも、今となればいい思い出なのかな?

 クルマが家に来てから、一年が過ぎようとしていたころ、母さんは・・・。

 いつものように、放課後に運動場でサッカーの練習をしていた時、担任の先生が血相を変えて僕のところに来て、お母さんと妹さんが病院に運ばれたようだから、今から病院に行こうって、僕の手を強く引っ張った。

 今日家を出てくる時、母さんが妹と叔父さんの家に行ってくるとは言ってたけど、二人とも元気だったので、どうしたんだろう 何があったんだろうって、先生のクルマの中でずっと思ってました。先生が何か声を掛けてくれたみたいだけど、まったく耳に入りませんでした。

 病院に着いて、妹はケガもなく話も出来て大丈夫でしたが、母さんは既に息を引き取っていました。

 あんまり、泣くことはないけど、その時は心臓がバクバクして、大声出して泣いてしまいました

 あとから、警察の方から聞いた話だと、免許取りたての少年のスピード違反及び一旦停止無視で、運転席側からブレーキすることなく、クルマが突っ込んできた事故だったそうです。相手は軽傷で済んだそうですが、そんなことはどうでもよかった。

 何日か経って警察の方から、お母さんが乗っていたクルマを処分することになると思うけど、所持品の確認もあるので一度見に来てもらえませんかと連絡を受けました。正直怖いところもあったけど、もうターセル君に会えなくなるかもしれないということで、叔父さんと警察に向かいました。

 青いビニールシートに包まれてるターセル君。ビニールシートを外してもらうと変わり果てた姿のターセル君が・・・。泣きながら叔父さんと一通り所持品の確認をしたあと、僕は母さんとの思い出だと思って、クルマの後ろに貼ってあるTERSELのエンブレムを外そうと思いました。

 コドモながら精一杯のチカラで、エンブレムを外そうとしたその時、僕には確かに声が聞こえた。

 痛いから、外さないで もう、痛いことはしないで って。

 ターセル君の声だったのか?それとも母さんの声だったのかよくわからない。

 不思議なことだったけど、それから僕は、クルマの声を聞くことが出来るようになった。


 その後、僕と妹は、優しい叔父さん夫婦に引き取られ育ててもらうことになる。  


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