僕が産まれてしまった日
ある町のある産婦人科で赤ちゃんが産まれた
男の子だ、身体は丈夫で、元気いっぱいの赤ちゃんだ
母親は赤ちゃんを見つめて、ため息をついた
そうだ、この日僕は産まれてしまった
きっと僕は泣いていただろう
悲しくて泣いていたに違いない
母親は泣いていただろうか
その涙はどんな涙だったのだろう
その日からさかのぼること一年前の話をしなくてはならない
ある町のある産婦人科で双子の兄弟が産まれた
難産だったのもあるだろう双子の産声を聞いた父親は
膝から崩れ落ちてポロポロと涙を流した
母親と一緒になっていきみ続けた父親は
かすれ声で助産師さんにありがとうございます、ありがとうございますと
頭を下げた
その後に、母親を見つめて
「頑張ったね、お疲れ様。」
と言いながら汗を拭いてあげて
乱れた髪の毛を手ぐしで整えた
母親は幸せを噛みしめた
父親は海上自衛隊で働く、正義感の塊のような人で優しく、気高く、真っ直ぐな人だ
そんな家族に試練が訪れる
双子の兄弟は、新生児横断が発症していて
危険な状態だった
新生児横断は、数人に一人は発症するらしい
産まれてから2〜3日位で肌と眼球が黄色くなる、赤ちゃん特有のポピュラーな病気だ
しかし例外がある
産まれた時からすでに発症していたら重症だ
赤ちゃんの身体に流れる血液を全部取り替えなければいけない
双子の兄弟は二人して重症だった
特に兄の方は病状がひどく、いつ死んでしまうか、わからない状態だった
父親は迷いなく、自分の血液を差し出した
それから2〜3カ月が過ぎても双子の兄弟は
入退院を繰り返した
父親も母親もすでに心も身体もボロボロだった
父親は採血のし過ぎだったのかどうなのか
身体を壊して入院していた
職場復帰は難しいだろう
その時は突然やって来た
双子の兄が大きな声でギャン泣きしたのだ
それはそれはあり得ない事だったらしい
元気がなかった双子は、泣く時は
フニァフニァと寝起きの子猫程度の声量だ
それが全身をバタバタと動かして
オギャーオギャーと泣いた
信じられないかもしれないが、それと同時に
弟が息をひきとった
医者からは兄の方が症状が重いので
心の準備をしておいて下さいと言われていた
それが突然だ!
更に信じられない事に、その日から兄の容体はみるみる回復していった
この出来事は何か
神の存在を感じさせる
弟の葬儀をひっそりと行い
この家族は
さあ!これから支え合って乗り越えていこうという矢先の事だった
母親が妊娠していた…
それこそあり得ない状況だった
母親と父親は妊娠期間中も出産後も一度も
子作りはしていないからだ
だとしたら、天国にいった弟が再び母親のお腹に降臨したのでは!?
そんなファンタジーな事は現実には起こらない
母親は親族から親戚から友人から責め立てられた
誰の子だ!金返せ!ふざけるな!
双子の入退院費は相当な額にたっしていたようで親戚、友人からお金を借りていた
母親は口を閉ざして誰にも真実を口に出さなかったらしい
一番悲しかったのは父親だったに違いない
父親は怒らなかった
静かに、力無く、心無く、母親に言った
子供達の入院費は俺が出す
その代わり2度と俺の前に現れないでくれ
ほど無く離婚が成立した
ここで母親の自己紹介をしよう
母親の性格はお人好し、頑固、後先考えない
逃げ癖、現実逃避、そしてギャンブル好き
母親は一度友人の借金の連帯保証人になり
友人に逃げられ
自己破産している
セールスマンに勧められてペラッペラの
高級羽毛布団を購入して親戚にお金を借りて
いる
そんな人間だ
僕は自分なりに推理してみる
そして簡単に答えは出た
母親は辛い現実から一時でも逃れる為に
パチンコをしていた
直ぐに資金が尽きると、自分の身体を売って
資金を調達していた
結果がこれだ、母親は誰にも言わなかっのではなく
言えなかったんだ、誰の子かも分からない
ハッキリ言ってしまえば国籍すらもわからない
そして僕は産まれてしまった
誰にも耳も傾けず頑なに子供を産む!
と言い張った母親はひっそりと僕を産んだ
母親は意地になっていたに違いない
子のは双子の弟の生まれ変わりだ
おろすなんて出来るわけがない、と
産まれてしまった僕の人生の足跡を一歩ずつ辿っていくことにしよう