4 二章 二人目の奴隷
背負って家に帰る際、気がついた鬼の少女が泣き喚き、なだめるついでに名前を付けてあげた。名前を口の中で何度も転がして、上機嫌になってくれたのか泣き止んだ。少女の名前は茜。アカネとつけた。夕日が髪に映えて似合うかなと思ってつけたが、喜んでくれたようで何よりだった。マスターって呼ばれたのは少し驚いたけどね。
風呂もご飯も気に入ってくれたようで、黙々と口に運ぶのを見て顔がほころぶ。大変だったけどその甲斐はあったかな?
終始ご機嫌な少女と共に一緒のベッドで泥のように眠る。
まどろみの中うつらうつらとしていると父に呼ばれた。
「……昨日は時間が取れなくて悪かったね。サヴァから聞いたんだけど、奴隷と同じ食卓を囲むのは褒められたことじゃないね。幾らソーマの奴隷でも立場と言うものがある。家で働いているものたちとの関係を考えなきゃね。言ってることソーマは判るよね?今日からは寝食はもちろん別にしなさい。」
執務室で相対する父は困った表情で、俺が浅慮だったことを思い知る。養われている身でわがままをしすぎた。今放り出されるようなことをするのは不味い。
「すいませんでした父上。今後このようなことは無いように致します」
「うん。失敗することは誰にでもあるから次に生かしてくれるなら僕は何も言わないよ」
温情を貰う。感謝しかないな。気を取り直していこう。ぁ、アカネを紹介するのを忘れてた……。
さて、今日からはアカネの様子を見て体調が回復するまでは勉強でも教えるかな?
とりあえず何をさせるにも最低限の知識は要るだろう。
思ったよりも賢いのか教えることをすぐさまスポンジのように吸収していく。まだまだ間違ったり、失敗したりも多いけど、できるようになるまで努力する姿勢はとても眩しい。
緊張してるのか、まだ慣れてないのか、表情も言葉も硬いけどすぐに打ち解けてくれるだろう。異世界の子供はみんなこんな素直で賢いのかな?だとしたら俺が言葉をすぐ覚えれたのも関係あるのかもしれないな……。
「マスター?これはなんとよむんですか?」
「ぁあ、これはね……」
……可愛いなぁ。子供らしさが残るアカネの横顔を見て思う。俺に子供が居たらこんなんだったのかな?……未練だな、よそう。俺はこの子を使って独り立ちする。私情を挟む暇はない。この世界は優しいけど優しくない。戦えない俺が生きていくために利用できるものはなんだって利用する。
まずは金だ。アカネを冒険者として育て資金を回収する。もちろん福利厚生はきっちりとやるし、安全管理に体調管理もしっかりやる。伊達に元管理職ではない。中級クラスになれば報酬だけでもそこそこのものになるだろう。ある程度回収できれば何か商売をするのもいいな。
風呂とか普及させるのもいいだろう。ここでは中世さながらサウナ式の風呂しか普及してないようで、汗をかいた体に油を塗って垢をそぎ落とすのが普通らしい。
魔石があれば湯を焚くのも簡単だし、仕組みを作れば魔法を使えない俺でも稼ぐことができるかもしれない。なんにしても俺が使える限りの金ではまだ何もできない。
「そろそろ体調も戻っただろうし、今日からはこの人に戦い方を教えてもらう。アカネできるね?」
「はい!がんばりますマスター」
ギルドのハイセさんには感謝をしないとな……。俺からの依頼を快く張り出してくれて、仲が良かった冒険者に声をかけてくれた。
情報収集をしにギルドに通って冒険譚を聞いたりして、情報を纏めていたときに知り合った、若いけど恐らく中堅ってところの冒険者。依頼で危険な目にあうよりも空いてる時間で楽に金が稼げると聞いてやってきてくれた。
「筋がいいな嬢ちゃん。坊主もいいのを捕まえたな」
中庭で木剣を切り結ぶ二人。木剣だと斬りあってるのを見てもトラウマは出ないようだ。俺も型を教わろうかな?アカネを背負ってひいこら言ってる程度の体力では少し心もとないし、筋トレくらいはしておいて損はないだろう。
「坊主。嬢ちゃんにゃ、早いことちゃんとした物渡しといたほうがいいぞ。いつまでも木剣じゃ変な癖が付く。それに刃物は使ってみんと慣れんしな。防具もつけてやったほうが実戦にゃ役に立つ」
「判りました。明日にでも買いに行って見ます」
へばりこんでるアカネを尻目に今度は俺が木剣で型を習う。
「坊主は全然だな……。正直驚いたわ……」
……別の意味で凹んだ。元々サラリーマンだし仕方ないよね……剣なんて、こっちに着てから初めて握ったし……諦めて体力だけでもつけておくかな……。
翌日言われたとおり武器と防具を買いに行く。全身筋肉痛だったけど何とか紹介された店にたどり着く。アカネに見合ったものを見繕ってもらい、代金を支払う。鉄のショートソードと皮鎧、合わせて銀貨2枚と少々。
アカネが冒険者としてどれくらいできるようになるか全く未知の状態では数打ちの武具で問題ないだろう。まぁ、最初だしね。ついでだし、アカネの服も少々買っておこう。照れるアカネも可愛いな。
「こんなもんか?お嬢、後は実戦で色々試してみな。坊主もきっちり素振りしとけよ?体力が無いとやってられんぞ?」
一月ほど付き合ってもらい、何とか形になったか?俺の分が増えて銀貨20枚を払う。後は冒険者ギルドに登録して、依頼を受けてみるか……。ハイセさんにも紹介しないといけないし、明日にでもアカネを連れて行くかな?
アカネと二人道を行く。まだまだ暑くなる時期には早いが、少し日差しがきつい。そろそろマント以外で変装できるものを考えなきゃなぁ……。
「マスターなんで髪の色変えるの?綺麗なのに……」
「んー。目立ちたくないんだよ。目立ってもあんまりいいこと無いと思うしね」
不満そうに頬が膨らむ様は見ていて飽きない。3ヶ月もするとアカネも大分と柔らかくなってきた。
ギルドに付くとカウンターからいつもの職員が迎えてくれた。2歳のときからの付き合いだからもう5年になるか……。時がたつのは早いなと思いふける。傍から見たら7歳の餓鬼なんだけどね。
「お久しぶりです。ハイセさんはいらっしゃいますか?」
「やぁ、ぼっちゃん。ご無沙汰ですね。ハイセさんは少し用事で……もうすぐいらっしゃいますよ。今日はデートですか?うらやましいですねぇ。私なんてもうこんな歳なのに……」
相変わらず良く喋る職員はさらに変なスイッチが入ったようだ。面倒くさいなぁとか失礼なことを思ってるとハイセさんがやってきて変わってくれた。助かった。
「ソーマ様。いえ、アッシュ殿でしたね。今日はどのようなご用件でしょう?」
「この前は助かりました。今日はそのお礼とこの子をギルドに登録しようと思いまして、顔合わせがてら挨拶でもと」
ハイセさんの目が鋭くなる。……この人怖いんだよなぁ。
「……奴隷、ですかな?では、アッシュ殿も一緒に登録して頂いて身元を保証していただく必要があります。別段登録等にお金がかかることはありませんが、依頼に失敗したり、不手際があった際奴隷では保障ができません。アッシュ殿のままで構いませんので登録して頂き責任者であることを証明する事が必要になります」
もっともな話だな。というか一目で奴隷と見抜くハイセさんが怖い。アカネは亜人だからかな?身なりもきちんとさせてるし、剣も鎧も着せてるから冒険者志望の子供って見られるかと思ってたんだけどな……。
「ふふ、いえ鬼の子でその程度の身長ですと若すぎますからね。同じ歳の子供と比べるとずいぶん背は高いですが、鬼でその程度ですと3歳ほど、でしょうか?だとすると奴隷かなと思った次第ですよ」
3歳!?嘘?えっマジで?あわてて確認する。
「っぇ!?アカネって今いくつ??」
「……5歳……だと思います」
首をかしげ少し考える風を装って答える。何か問題でも?といったように顔を向けてくるアカネ。そりゃ最初に聞いてなかった俺が悪いんだろうけど、問題しかないんじゃないか?てか……、それでも5歳か……10歳くらいだと思ってたよ……。マジかー、さすがに一人で依頼を受けさせるのは怖いぞ……。
「大丈夫でしょうアッシュ殿。鬼族で5歳ともなればそこらの人より強いはずです。簡単な依頼で様子を見てはいかがでしょう?何かあれば人を増やしたり、パーティーを組んだりすればよろしいかと」
微笑んで、考え込む俺を気遣い提案してくれる。そうだな……。とりあえず今は登録してしまおう。
「判ったよハイセさん。でも今日は登録だけで、依頼は一覧があれば見せて貰って家に帰ってできそうなのを見繕うよ」
「判りました。では、こちらが登録用紙になります。判らないことがあれば職員にお聞きください。書いていただいている間にできそうな依頼を見繕ってきます」
出された用紙に必要なことを書き込んで、職員とたわいも無い話をしながらハイセさんを待つ。アカネは初めてくる場所に興味津々であっちこっちをきょろきょろと見ている。
書いた書類に不備はなさそうだし、アカネもしっかりしてきたなぁ。
ちょっとしてハイセさんが持ってきてくれた依頼の束の写しを礼を言って受け取り、今日は外食でもするかなとアカネと露店めぐりをして帰る。
帰ってから依頼の束と格闘する。とりあえずできそうなのは薬草採取と畑に出る害獣駆除かな?他の依頼は結果次第でやらせることにして、最悪失敗しても違約金やら払えば何とかなるだろう。評価は落ちるだろうが最初からうまくいくことは考えない。色々と考えていると夜も遅くなってきた、仕方が無い。もうアカネは寝てしまっているから、詳細は明日ギルドに行ってからだな。何事も挑戦だ。
翌日アカネを連れてギルドを尋ねる。日はまだ昇ったばかりだ。すぐさま昨日の依頼を受けて、アカネにギルドでの依頼の受け方を教え、終わってからの報告の仕方と内容を伝える。出てくる害獣の対処法や、とってくる薬草の種類と形をできる限り簡単に伝え送り出す。
「こんな感じだけど、どう?アカネできそう?無理そうならもう少し安全そうなのを探すよ」
「大丈夫だよマスター。がんばる!」
物言いに少し不安は残るが信じるしかないな。この時間からなら順調に行けば夕暮れには依頼も終わるだろう。ここで待つのもいいが、5歳の少女にいつまでも一人で危険な仕事をやらせるのはダメだろう。待ってる間にドワイの所でもう一人くらい見繕うか?金の問題もあるからまた亜人の子供かな?今度は歳をきちんと聞こう……。
「おう?坊主、アッシュか?久しぶりだな?どうだあの餓鬼は?」
奴隷市の前まで来ると相変わらず門番でもやってるかのように振舞うおっさんが居た。仕事しろよ……。
「やぁ、ドワイ元気そうだね。色々と言いたいことはあるけど、まぁ、感謝するよ。年齢を教えてくれてれば最高だったね」
「あん?なんだ?あの鬼のことか?鬼の歳なんて見りゃ大体判るだろ?お前だって10以下のがほしいってたろ?もしかして鬼がでかいの知らなかったのか?そりゃ自業自得だろ」
くそぉ、情報はやはり力だ……。言うとおり知らなかった俺が悪い……聞いただけで実物を知らなかったんだよ。気持ちを切り替えよう。
「まぁ、それはもういいさ。今日はどんなのが居る?一通り見せてもらえばと思うんだけど?」
「今日はあんまり居ないな。10以下のは3人だけだ。買ってすぐ来るってことは、あれはダメだったか?文句を言わないだけありがたいが、あんまり関心はせんな」
「ん?元気にしてるよ。後名前も付けてやったからあれとか言われると気分が悪くなる。とりあえず中に入っても?てか、10以下のを買おうと思ってたけど先に言われると俺が変な趣味持ってるって誤解されそうで嫌だな」
「おう、そりゃすまんな。そうか元気にしてるか。がはは、そりゃいいことだ」
バシバシと背中を叩くのをやめて欲しい。むせながら後ろについて青い屋根の店に入る。前回と同じ椅子に座り、出された苦い茶を飲む。相変わらずすえた匂いには慣れない。
「今冒険者をやらせてみてるんだけど、5歳って聞いてさすがに胸が痛んでね。俺と同じ歳くらいの奴隷が居ればもう一人くらいつけようと思ってさ。理想としては亜人で……犬か鬼、魔法の素養あるなら何でもいいんだけど?」
「ふむ。冒険者ねぇ……変わった奴だなお前。まぁ、俺は売るだけだから後のことは別に構わんがね。しかし、アッシュの望む奴隷となると10以下は今はいないな。特に魔法が使える奴となると値段が跳ねる。10より上だと居る事には居るが、あまりお勧めはせんな。時間はかかるだろうが適当に探しておいてやろう。連絡は何処にすればいい?」
「ん。助かる。連絡は俺宛にギルドに言付けてくれればいいよ。どれくらいかかりそう?」
「さすがにその時次第だからな。伝手を当たってやるが、半年からって所か?やはり餓鬼でいいのか?」
「そうだね。7、8歳位なら助かるよ。小さすぎるのは金輪際やめてくれ。ちっぽけな良心しかないが心が痛む」
「がはは、お前がそんなたまかよ。笑わせてもらった礼だ。その茶はただにしておいてやろう。見つかったらギルドに言って置く」
バシバシと机を叩き上機嫌なドワイ。ヤクザでドカタなおっさんのその様はあきれを通り越して滑稽だ。てか茶の金取ろうとしてたのかよ……やっぱ商人は侮れんな。
ドワイと分かれてギルドでアカネの帰りを待つ。待ってる間にギルドにおいてある薬草や魔物の対処についての本を読む。そうこうしていると多少のすり傷を負ったアカネが戻ってきた。ニコニコとしているアカネをよそに怪我の心配をするが、幸いたいしたことがなかった。すっかり親気取りだ。危ないことさせてるのにな……。
「マスター、がんばったよ。薬草も一杯取れたし、獣も一杯倒して褒められたよ」
にこやかに言うアカネから薬草の束と依頼完了証明を見せてもらう。正直薬草はぼろぼろであまり値打ちにならないだろう。初めてだしこんなもんだと思う。これはマニュアルを早急に作成したほうがよさそうだな、スケッチはあまり得意じゃないけど無いよりはマシだろう。さっきまで見てた本を簡単にして説明を書けば良いかな?教育はやはりマニュアルからだ。
「はい!マスター、お金!」
清算をしてお金を受け取ったアカネが満面の笑みで、衆人観衆の中俺に渡してくる。……ちょっと恥ずかしい。頭を撫でてやり、そそくさと受け取り家路を急ぐ。マントをかぶってるので犯罪者に見えないことを祈ろう。
その後も何度か依頼を受けて、もちろん無事に帰ってくる。生傷は絶えないけどね。もうちょっとしたらマニュアルも出来上がるし、最近は魔物も少し倒したみたいだけど、今でも安全圏での依頼しか受けていない。
「マスター、ごめんなさい……。あんまりうまくできなかったの……」
ある日、今にも泣き出しそうなアカネがいつもより遅く帰ってきた。どうやら剣がいつもより切れなくて時間がかかったらしい。多分刃が鈍らになってるんだろう。しまったなぁ……俺が刃物見れないからすっかり忘れてたよ。んー。研ぎに出すついでに整備の仕方も教わるか……マニュアルに乗っけてしまおう。
依頼は3日から1週間に1回。後の日は休日や訓練、勉強にまわす。週に一度は銅貨を幾らか渡し好きにさせる。大体家で俺にくっついてるけどね。思い返せば体調管理から安全管理、福利厚生と色々と日本に居たころとやってることは本質的には変わらない……。幼い奴隷を買って無茶をさせてるって考えるより、金で社員をヘッドハンティングして働かせてるって考えたほうが精神安定になるか……、そうしよう。日本でも昔は子供から丁稚奉公とかいって働いていたんだし、工場で働いても怪我するんだ。ますます公私をきっちりとしないとな。
研ぎに出すついでに予備の剣を買う、今度はロングソード。栄養が回ったのかアカネの背が少し伸びたからだ。膂力もあるようで重さも気にならないみたい。おまけで鎧のサイズを合わせてもらった。簡単な整備を教わり磨き粉とオイルを買う。素人は砥石を使わないほうがいいと聞いたからね。マニュアルの作成は順調に進み、アカネが理解できる範囲で書き上げた。アカネは喜んで夢中でずっと読んでいる。
……ドワイからの連絡はまだ無い。さすがに言ってすぐ見つかるわけも無く毎日を過ごす、最近アカネがよく引っ付いてくる。奴隷を買うのは決定してるんだし、アカネに連携とか覚えてもらいたいな……。
幸いにも一緒に行ってくれる人はすぐに見つかった。以前色々教わった冒険者。アカネと一緒に簡単な依頼なら行ってくれるとのことだ。
「嬢ちゃんなら安心だ。坊主は一緒にこんのか?……そうか、少し残念だな」
丁寧に固辞し、アカネと一緒に依頼を受けてもらうように頼む。暇なときだけと言われたが結構な頻度で一緒に行ってくれている。多分若いのに厳つい顔のせいで子供に人気が無いのを嘆いていたからだろう、いつ冒険譚を聞きに行っても一人だったし内心喜んでるに違いない。そのおかげで一人では難しかった依頼もこなせる様になった。
「坊主。これはさすがにお前に聞かないといけないから聞いておく。このマジックアイテムどうする?お前が買い取るなら半金で構わん」
ある依頼で出た魔法のエンチャントが付いてるらしいピアス。効果はわからないが貴重なものだそうで、豚顔の魔物が付けていた物だとか……何処についていたかは聞いていないが、半金で銀貨50枚支払う。未鑑定でもマジックアイテムなら最低でも金貨1枚はくだらないらしいけど、呪われてたりしたら怖いのでいつもの武具屋で幾らか支払い鑑定してもらう。3日ほど待って帰ってきた。効果は聴力を上げる魔法具だそうだ。漫画じゃないしこんなものか?体力が上がるとか筋力が上がるとかだったらアカネにあげたんだけどな……そんな便利なものは無いか。珍しいものらしいし、何かの役に立つかもしれないからとりあえず置いておこう。
半年がたち、もう一年が過ぎるってころにドワイから連絡が来た。
どうやら俺の求めている奴隷に近いのがみつかったらしい。
「アカネ。出かけるから付いてきて」
「はい!マスターお供します」
打てば響く鐘のようにアカネが答える。うまくいけば今日はアカネのパーティーメンバーが増える日、心がざわめき立つ。
「今日は奴隷を一人買うよ。これで少しは楽になると思う」
アカネに言い顔も見ずに準備をする。楽しみで仕方が無い。これで小さい子供1人に危ないことをさせないってわずかばかりの免罪符になる。ドワイに会うのも久しぶりだ。あの気のいいおっさんと喋るのは楽しい。アカネが頑張ってくれたおかげで結構金には余裕があるし、帰りはみんなでご飯でも食べるか?ああ、でも奴隷だと体も洗ってないから店に迷惑がかかるかな?サヴァに言ってご馳走を用意してもらっておこう。ふふ、風呂に入れると驚いてくれるかな?あぁ、楽しみだ。
「ドワイ!待たせたね。さっそく会わせて貰っても良いかい?」
青い屋根の店に入るとすぐさまドワイを確認して言う。アカネは黙って後ろについてきている。今日は店にいたようだ。
「ん……アッシュか、ぁぁ、こっちだ」
俺とアカネを一瞥したドワイはすぐに案内してくれる。あの苦い茶が出されなかっただけドワイも成長したのだろうか?ぁぁ、楽しみだな。どんな子なんだろうか?犬か鬼の子か?魔法を使える子だったらいいなぁ。そしたらアカネを安心して任せれるだろう。
連れられてアカネとあった部屋とは別の部屋に通される。
「おう、こいつだ。他で売れんと言って回されてきた。猫だから魔力に関しては問題ないだろうが少し訳があってな。一応知らせたがお前にはあまり売りたくない。……まぁ、決めるのはお前だし好きにしろ」
言い捨てるドワイを脇に部屋に入る。居たのは猫の亜人。人の耳があるはずの場所には耳がなく、頭の上に二つ。尻尾が二つふりふりとしているのが微笑ましい。って、何で二つも尻尾があるんだ?猫又?猫又か?はじめて見た。
相変わらず暗い部屋で様子はあまり見えないが、ちゃんと服は着ているし人が入ってきたのも認識しているようだ。ふっくらとした胸を見るに女の子か?猫と言うことは魔法を使える子なのかな?
「耳が片方聞こえん。こっち側から声をかけても聞こえん位にはな。気配は感じるようだが俺らがしゃべってるのはあまり聞き取れんようだ。冒険者として使うならこんな奴は使いようもない。だからアッシュには勧めんし、こいつも一緒に戦うのなら気が置けんだろう」
「へぇ?生まれつき?後から?体に問題は?魔力はあるんなら魔法も使えるよね?」
「知らん。知りたきゃそいつに聞け」
辟易とした顔で突き放される。訳有で売りたくないと言ってたから気が乗らないのだろう。ドワイの許可は取ったし聞いてみるか?体も軽く見て問題なければ値段次第で買おう。受け答えができれば問題はないだろう。
「はじめまして」
進み、声をかける。アカネと初めて喋った日を思い出す。こちらを見てるが声は聞こえていないようだ。ふふ、そっくりだなぁ。
「……はじめまして」
近づき逆の耳から声をかける。ぉ?反応があった。揺れる耳が可愛らしい。尻尾がふりふりと動く様は嗜虐心を増加させる。
「……はじめまして?」
ああ、こっちからなら聞こえるのか。よくよく見てみるとオッドアイ。左右で眼の色が違う。金色に銀色。そういえば猫のオッドアイって耳が片方聞こえないんだっけ?こういうところは異世界でも変わらないんだなと変に納得する。
「立ってもらっても?少し調子を見させてもらいたい。後舌も見せて。そうそう、耳も少し触るね」
言って確認する。素直に立ってくれるし、耳も思う存分もふもふする。尻尾が別々に動くのは面白いが、さすがに触るのは気がとがめてそのままだ。間接も舌も問題なさそうだし、耳も片方が聞こえるなら良いだろう。魔法が使えるなら後ろでサポートしてくれれば良いか。
「ドワイ、値段は?」
アカネのときと同じようにドワイに聞く。
「……ふーーーー。アッシュは物好きだな。お前の勇気に敬意を表して特別に金貨3枚にしておいてやろう」
何を言ってるんだこのおっさんは?しかし、高い……さすがに魔法が使えるのは高いな……ドワイがぼったくりはしないだろうし、アカネの安全が買えるならそれくらい安いか?でも、前に居た猫は銀貨70枚じゃなかったか……まぁ、家に連れて行って教育しだいか?アカネみたいに賢ければ問題ないだろう。
「少し高くないか?前に居た猫は銀貨70枚じゃなかったか?何でこんなに高いんだ?」
「これでも大分まけてるんだがな、回されてきたっつったろ。それが乗ってるのと、後はそいつの容姿だな。目の色が違うしそれなりに整っている。おまけに耳も聞こえづらいときてる。2,3年置いといて娼館にでも売れば物好きが客に付くだろう」
「ふーん。そんなもんか?まぁ、いいや。君?名前と歳は?」
「……エリサと申します。歳は7つになります。ご主人様とでもお呼びしましょうか?」
口の端に手を当ててクスクスと笑う猫。嫌われてるかな?受け答えもはっきりしてるしまぁ、問題はない。
「すまないね。僕はアッシュ。エリサは魔法を使える?」
「母から少しばかり手ほどきを受けました。この部屋では使えませんが、簡単なものでしたら一通りはできると思います」
先ほどとは一転して素直に喋ってくれる。名前を教えたのが良かったのか?魔法が使えるのならそれを伸ばしてやればいいだろう。教師でもつけるか。その後アカネと組ませて依頼をこなせば元はすぐに取れる。
「ドワイ金貨2枚と銀貨50枚でどうだ?」
「3枚だ、それよりはまからん。さっきも言ったが大分まけてんだよ」
「どうせ2,3年置いといても売れるとは限らないだろ?この値段だと今売るほうがいいんじゃないか?」
「金貨2枚と銀貨80枚。これ以上は無いぞ!糞餓鬼が!」
安く買えるに越したことはない。懐から金貨3枚取り出しドワイに渡す。それを受け取ると付いて来いと手を振って俺とアカネはいつもの部屋に連れて行かれた。
「釣りと書類だ。サインしたら契約しに行くぞ。あいつは魔法が使えるからあの部屋からは出せん。お前の物好きには飽きれて物が言えんな、耳の聞こえん奴を冒険者にするなんて……」
「試してみたい物もあるし、失敗してもサポートに回せばいいさ。それに他に良い子がすぐ見つかるってわけでもないだろ?別にドワイが損をするわけでもないし後のことは気にしないんじゃなかったのかい?」
「ふん。今度は気を失わせるなよ。ほれ、書けたなら行くぞ」
いまいち調整がわからないんだよなぁ、まぁ頑張って魔力を調整してみるか。念を入れて気を失ったときのためにアカネも付いててもらおう。
……結論から言うと、今度は気を失わせること無く契約に成功した。
こうして青い髪の金目銀目の猫を連れて帰った。
終わりと言ったのに投稿頑張ってみました。
PV300行ったので嬉しくて……。
ただ、これで本当に打ち止めなので続きはしばらくお待ちください。
後急いで書いたので荒かったりします。手直し入るかもですがご了承いただけると幸いです。




