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6 すたーとです

 スカートの裾を整え、少し乱れた襟元を直す。小さくなった体にぴたりとフィットする、この赤い服は間違いなく、私の制服だ。


「こうして服を変えるくらいしか、できませんね。楓さんにいつまでも恥ずかしい格好させるわけにもいきません」


 いや、服のサイズを変えてくれるのはありがたいよ。だけど、そもそもはこんな姿にした男が悪いわけで。元の姿に戻してくれれば、問題は解決する。そう抗議しようとしたところで、男は「さて」と手を叩いた。何気ないその仕草に、何故か予感がした。こいつは、今から嫌なことを、言う。


「これで、貴方に手を出せる人間はいなくなったわけだ。望んでロリコンなんて周囲に認識されたい人は、そうそういませんからね」

「何言って――」

「貴方を愛しています。他の誰かに取られるなんて、絶対に嫌だ。だから、自分と貴方だけが過ごせる場所の準備をするのです。ああ、でも、もうしわけありません。一年――そう、一年だけ、お待ちください。その間、全てを整えてきますから」


 男は勝手に決め、話を進めていく。私は男が誰かと言うことすら、分かっていないのに。どうして私が、お前とだけで過ごす場所の準備とやらを待たなければならないのか。そんなの、これっぽっちも望んでいない。

 なんにも理解できない中で、分かったことがある。こいつは自分の思い込みだけで動いているってことと、すっごく腹が立つってこと。


「ふざけんな。なんで、私が顔も見せない人間と共に過ごさなきゃならない。まっぴらごめんだ」

「大丈夫です。一年後に迎えに来るときには、きちんと顔をお見せしますし、声も変えません。口調だっていつも通りにします」

「そこじゃないから!」


 というか、口調すらも違っていたのか。そう突っ込んだところで、男は今度は自分の頭上で杖を振るった。白い光が溢れ、男の体をみるみる隠していく。それに私ではなく、先生が「待て!」と焦った声をあげた。しかし、それを意にも返さず男はくすくすと、あの粘着質な笑みを浮かべる。


「それじゃあ、また。先生、あまり楓さんに触らないでくださいね」


 光が男を消していく。足元から光に包まれ消えていく姿に、私は歯をくいしばり、そして叫ぶ。一年も待っていられる訳がない。第一、待っていたらその間に準備を終えるのだろう。そうして、きっと今回みたいにこちらの話なんて一切聞かずに事を進めるに違いない。そんなこと、誰がさせるものか。

 私のことは私が決める。お前になんてついていかない。こんな子供のまま、一年も何もせず待つなんてしない。


 私は――


「一年経つ前に、お前を見つけて殴ってでも元の姿に戻ってやる!」


 そう叫ぶと男は驚いたように口を開け、そして笑った。


「楽しみにしています」


 余裕綽々なその態度に、ますます苛立ちがつのる。そうこうしている間に、光は完全に男を包み、ほんの数秒には光も男も綺麗さっぱりなくなっていた。私は小さく悪態をつくと、先生を振り返った。苦い顔をしている須黒先生の腕を掴む。

 それに表情を緩め、「なんだ」と尋ねてくる先生に、私は単刀直入に言う。


「先生の知っていること、ひとつ残らず教えてください」


 あんな変な人物を見ても驚かなかったし、魔法について知っているようであった。私が理解出来なかった男の言葉を理解し、魔力だの命令式がどうのだとか言っていた。それに、光が男を包んだ瞬間に待ったをかけていた。光によって姿が消え始めたのは、先生が止めた後だ。

 あの男そのものより、私の知らない「魔法使い」という存在のことを知ることからはじめるべきだ。見つめれば、先生は少し言葉につまり、それから「まさか」と驚きを口にした。


「なにも、知らなかったりするのか?」

「魔法使い、狼とか、悪魔とか、そういったファンタジーな存在の子孫がいることは知っています。でも、それ以外はほとんど何も」


 素直にそう答えれば、先生は深く溜息を吐いた。それから立ち上がり、ひょいと軽く私を抱き上げた。――は? 抱き上げた?


「はっ、な、何すんですか!」

「ここじゃ説明が大変だ。移動するぞ。ああ、そうだ」


 何かに気がついたように先生は周囲に目をやる。そういえば、先生を連れてきた生徒を含めこの騒動を見ていた人たちがいるんだった。それに気が付き、同じように周囲を見る。そして、何故か異様に距離を取られていることに驚いた。

 そりゃ、巻き込まれたくないのは分かるけど、そこまで離れなくたっていいじゃないか!


「あんだけ丁寧に元々の姿を隠していたんだから、期待は出来ねえと思うけど、一応聞いとくか。おーい、お前らの中で誰か、今の魔法使いがどこの誰か知ってる奴いねえかー?」


 少し声を張り上げ、須黒先生がそう聞くものの、誰もが首を横に振った。やっぱり、と先生は肩をおとした。しかし、すぐに持ち直し、気をつけて帰るように皆に伝え、校舎に戻っていく。私を抱きかかえたまま。


 校舎の中にはまだ何人もの生徒が残っている。腕の中の私を見つけると、誰もがぎょっとしていた。それに居心地の悪いものを感じ、先生に離してほしいと告げるが、今の私の歩幅に合わせるよりこっちの方が早いからと丸め込まれてしまう。

 そりゃそうだし、見た目が子供なのだから問題はないかもしれない。でも、中身は子供なんかではないわけで、羞恥心が私のHPをガンガン削っていくんですよ。唇を噛み締め、せめて早く目的地についてほしいと切に願った。

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