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1 とある魔法使いの独り言

 今日も、彼女は美しい。最初に見たときから変わらず……いや、最初のときよりもずっと、美しい。

自分は知っている。彼女が誰より美しく、誰より努力家で勤勉であること。優しく、ときに厳しく、面倒見がいいこと。彼女は、とても素晴らしい人間だ。


 だからこそ、自分は、彼女が誰かのものになってしまうのではと恐ろしい。


 自分は彼女が大好きで、一番愛しているという自信がある。他の誰にも渡したくない。

 きっと、そろそろ彼女の素晴らしさに気がついた奴が告白するだろう。外部から入ってくる人間だっている。誰も彼も、彼女に魅了される。その中で万が一、彼女が誰かを好きになったら――。……嫌、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! そんなの、絶対に嫌だ!

 でも、もし自分と告白して、それで彼女と付き合えたとしても、だからといって彼女を好きになるやつがいなくなるわけじゃない。どうすればいいだろう。悩み、そうして不意に思いついた。


 ――魔法だ。


 そうだ、自分は魔法使いじゃないか。魔法で、自分と彼女を邪魔するものを取り除こう。はは、なんで忘れていたんだろう。自分ってば、馬鹿だなあ。

 でもどういう魔法を使えば、自分の憂いはなくなるだろう。彼女を自分のものに……いや、心を操るものは外道だ。そんなことをするくらいなら、自分は自分自身に死の呪いをかけよう。もしくは、杖を折って二度と魔法を使えなくしよう。魔法使いとして、心を操る魔法は命を奪うことと等しく、最も忌避することだ。


 なら……そうだ、二人の家をつくろう! 遠く、いっそ外国に行ってしまおう。そこに自分の魔法で家をつくって、街にいかなくてもすむように畑を作って、水をひいたり電気を使えるようにしたり環境を整えて……。かなり魔力を使いそうだが、彼女との生活のためなら、自分はなんだってしてみせよう。


 だけど、これだけのことをするには、時間もかかるだろう。準備に時間をかけすぎて、その間に彼女を奪われてしまっては本末転倒もいいところだ。どうにか対策を経ててからでなければいけない。


 ――そういえば。この間、彼女が少年と話しているのを見かけた。穏やかな顔で笑う彼女に見惚れたのだった。

 その相手が、例えば少年でなく青年であったなら、自分は嫉妬に苦しんだことだろう。だけど少年であったから。庇護される存在であり、いくら愛おしく想われようと決して恋愛対象にならない存在であったからこそ、自分は安心して彼女を見ていられたのだ。相手が、子供だから。


 ああ、思いついた。そうだ、この方法ならば。彼女には怒られてしまうかもしれない。だけどもう、自分にはこれ以外に考えられない。こうでもしなければ、誰かにとられてしまうかもしれないという恐怖で、おかしくなってしまう。ごめんね、ごめん。ごめんなさい。


 貴方を、誰よりも愛している。

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