遭遇
う~ん、良く寝た。何か久しぶりに起きた気がする。しかしここはどこだろう。周りを見てみたが全く覚えがない場所だ。物置き部屋というべきか、いろんな物が散らばっていてとてもごちゃごちゃしている。そして、とても埃っぽい。よくこんなとこで俺は寝ていたものだ。しかし何で俺はこんな所にいるんだ。確か俺は昨日、道を歩いていたら車に…、そうだ、轢かれたんだ。そして、イケメンの神様に変な所に集められて転生させてもらったんだ。ならここは、転生後の世界か。
だとすると、なんで俺はこんなところで寝ていたんだ。町の中の宿でスタートなら分かるが、なんでこんな物置小屋のしかもこんな埃っぽいとこで。つまり俺は金を持って無いのか。そういえば、俺は階級を貧民でスタートさせてしまったな。だから宿なしだと…。ついでに言うと武器も無ければ、こんなぼろい服を着ているのか。こんなことなら、1ポイントで銅の剣でも取っておくべきだったか。そういえば、女神様遭遇券だったか、俺一人しかいなかったらしいな。そんな声が最期に聞こえた気がする。今思えば、本当に聞いたのかも怪しい気がしてきた。まぁ、最初から戦闘なんてないだろうから、どうにかなるだろう。
とりあえずここから出てみるかまずここがどこか調べないとな。小屋の木と木の間から光が洩れてるから朝か昼なのは間違いないだろう。ドアはどこだろう、そこか。
とりあえず第一印象は田舎だった。周りは一面田んぼで鍬や鎌を持った人たちが畑を耕している。そして、商人と思われる人が小屋の中で色んな商品を売っている。畑にいる人達は何しているんだろう。詳しく分かればなと思ったら、ふと頭の中に鑑定しますかと声が響いた。なんだこれは。はいといいえの選択肢が出てきたが、とりあえずはいを選択してみるか。悪いようにはならないだろう。
フラン(人間) 男 29歳 農民Lv.6
グラッド(人間) 男 35歳 農民Lv.8
はいを選択してみると頭の中に情報が出てきた。なんだろう。もしかして、向こうで働いている人の情報か何かだろうか。ほかの人にもやって確かめてみるか。
ガント(人間) 男 35歳 農民Lv.10
ミネ(人間) 女 36歳 農民Lv.3
カイ(人間) 男 8歳 農民Lv.1
家族と思われる3人組に鑑定をさっきの時と同じ様にしてみた。すると前回同様情報が頭に浮かんできた。レベルは結構ばらばらだな。こう考えると鑑定は結構便利だな。相手の情報が筒抜けだ。しかも、会う必要もないので一方的に調べることが出来る。こうなると、自分自身も見てみたくなる。しかし、どうすれば自分が見れるのだろうか。すると、頭の中にさっきの言葉が浮かんできた。はいを選択だ。
ナガト ハル(人間) 男 21歳 転生者Lv.1
よし、上手くいった。名前と性別、種族、歳は一緒のように出てきたが俺の場合は農民ではなく転生者となっていた。しかもレベルが1。子どもと一緒か、少しショックだな。しかし、こうなると最期の転生者というのが職業になるのではないのだろうか。だとすると納得がいく。自分を鑑定したというのに取得したスキルがどこにもないからだ。だとすると、取得したスキルは転生者という職業のスキルになっているのではないだろうか。転生者が詳しく鑑定出来れば良いのだが。そう思うと、また鑑定しますかと頭に浮かんできた。これは、もしかして…はいを選択する。
転生者
能力 全ステータス小上昇(Lvで能力up)
スキル 運(40)
全魔法開眼素質
復活
取引上手
鑑定(Ⅴ)
隠ぺい(Ⅴ)
幸運
異世界言語理解
異世界基本知識
パーティー数限界突破
パーティー付与
職業数限界突破
職業変化機能
取得経験値分配制御
女神様遭遇券
出来た。なるほど、鑑定は自分が知りたいと思ったことならば何でも知ることが出来るみたいだな。鑑定の数字がⅤだから出来ることかもしれないが良いスキルだ。
だが、考えてみたら俺が他人に鑑定出来るように、他人からも俺に鑑定が出来るのではないだろうか。となると、転生者という職業はまずいのではないだろうか。どの程度の鑑定で職業まで見ることが出来るかは分からないが、隠しておいて損はない気がする。
だが、この転生者という職業は外したら不味い気がする。外したら、この転生者のスキルが全て使えなくなる可能性が高い。後で職業を変えることが出来たとしてもその際に、転生者の職業のことを聞かれる恐れがある。
だとすると、どうにかして他の職業を入手して職業限界数突破のスキルを使い転生者を二つ目以降に配置する。その上で隠ぺいのスキルを使わないといけない。ただ、どうすれば手に入るかが分からない。予想では、その専門の人に弟子入りするか、ギルドなどに所属するんだと思うんだが今の段階では仮説にしかならない。
さて、どうするか。すると、どこかで鐘の音が鳴り響いた。一体どうしたんだ。周りを見てみると村人達が鍬や鎌を持ち出して、一直線に同じ方向に向かい走っていった。あっちに何があるんだ。俺も少し行ってみるか、ここにいてもしょうがないからな。
皆が走っていた方向に行ってみると村の出入り口らしき場所にたどり着いた。村人の殆どが集まっているようだ。そして皆目線が出入り口の先にある道を向いている。俺もその方向に目を向けてみると何かがこちらに向かって来ているようだ。よく目をこらしてみると鉄の剣や木の棒みたいなものを持った緑色の集団だった。なんだろうと思い、鑑定を使用してみた。
ゴブリン兵A ♂ Lv.12
ゴブリン兵B ♂ Lv.16
ゴブリン突撃兵A ♂ Lv.13
ゴブリン突撃兵B ♂ Lv.14
ゴブリン突撃兵C ♂ Lv.12
ゴブリン統率兵 ♂ Lv.22
人間じゃないっぽいな。種族も出ないし、名前もゴブリンって出てる。これが魔物と呼ばれる存在なのだろう。そしてあのなかで一番強そうなのは統率兵だな。あいつだけ、木の棒じゃなくて鉄の剣だもんな。しかも、一回りでかい。
ここまで来たがさて、俺はどうするべきか。まさか最初から本当に戦闘になるとは思わなかったな。いくら転生者の職業で多くのスキルを持っているといっても戦闘に関するスキルは全魔法開眼素質しかない。しかも、魔法は一つも使えないとなれば、ここは無理しないでおこう。もし、倒せそうなら倒すが下手に手を出しても足手まといにしかならないからな。そうと決まれば、そこらへんに隠れてやり過ごそう。
……あの小屋の近くなら良いだろ。出入り口にも近いし。俺が小屋の裏手にたどり着いたころゴブリン達は出入り口に到着した。ゴブリン達は村の出入り口に到着すると村人達を一斉に襲い始めた。そしてゴブリン達はゴブリン統率兵の指示のもと的確に動いている様だ。
不味いな、村人達も頑張っているがいまいちゴブリンの動きに対応出来ていない感じだ。今の段階で既に2人の村人が死んでいる。この様な場所に村を作ったのだからある程度は、戦闘能力が有るのかと思ったが所詮は村人か。
しかし、逃げるなら今か。今ならゴブリン達は全員正面の村人達に意識が集中している。しかも、ゴブリン達も村人達の必死の抵抗を受けてか傷が目立つようになってきた。全力で走れば逃げれないことはないだろ。さてどうするか。
だがここで逃げたとしてどうする。俺には金も無ければ行く宛も無い。だとするとここで、村人達に恩を売るべきではないだろうか。いくらどこの馬の骨とも分からないやつでも、魔物を倒してこの場を救えば多少なりとも感謝はしてくれるだろ。幸いこの小屋は商人の小屋だ。先程、隠れる時に中を覗いたが剣の様な物が有った。この非常時だ。とっても怒られはしないだろ。そうと決まれば急がないと。
とりあえず武器を借りるか。小屋のなかに入り幾つもある剣から適当に手に取る。この剣は何だろうか。ふと、そんなことを思うとあの選択肢が出てきた。出来るのか。はいを選択する。
銅の剣 武器
なるほど、銅の剣か。鑑定が装備にも使えることが分かったのは収穫だ。だが今はそんなことよりゴブリン達だ。村人達はあれ以上死人を出していないようだが、いつ死んでもおかしくないぐらい追い詰められている。これは急がないとな。
しかし、どいつを狙うかだがとりあえず狙うのは統率兵にするか。あいつがこの群れの実質のリーダーっぽいからな。今も手下のゴブリン達に指示を出してるみたいだ。レベルは一番高いが後ろからの不意打ちなら俺でも倒せるだろう。しかも運良くこっち側が風下だ。ゴブリンの嗅覚がどの程度なのか良く分からないが丁度良い。
そうと決まれば、ゴブリン統率兵の情報をもう一回調べるか。
ゴブリン統率兵 ♂ Lv.22
装備 鉄の剣 統率の指輪
統率の指輪(Lv.1)…リーダーからメンバー又はメンバーからリーダーに対する声がどんなときでも聞こえるようになる。
そうか、これでこの群れの統率の高さの理由が分かった気がする。いくら統率兵とはいえ、声が届かなければ指示が出せない。そこを指輪の効果で補っているわけか。ほしいな。あいつを倒したら手に入るのか分からないが、これからパーティーを組むことになるだろうからぜひ手に入れたい。倒せたらの話だが。
そうこう考えていたら統率兵がこちらの小屋に近づいてきた。やばい、ばれたか。逃げるべきか、否今更逃げても逃げ切れない。となれば、じっと息を殺して統率兵が通り過ぎるのを待つか。小屋の陰でじっと息を殺していたら統率兵は小屋の前で立ち止まった。ドキドキ…。
こうなれば先手必勝か。そう考えゴブリンが小屋の陰から出てくるのを待つが一向にこない。やりすごしたか。そう思い、小屋の影から様子を見てみるがゴブリンの姿は見えなかった。あれどこいった。小屋の影から更に体を出した時、小屋の中で不意に物音がした。
まさか、ここか。小屋の中をのぞいてみると想像通り統率兵は商人の小屋を漁っているようだ。狙いは金や武器なのか。しかしこれは絶好のチャンスだ。俺は、意を決して小屋の中に入りゴブリンの後ろに回り込んだ。幸い、ゴブリンは金や武に目が集中しておりこちらには気づいてないようだ。
そして俺は銅の剣を両手で握り思いっきりゴブリンの首元に振りおろした。
「ぐぎゃーーーー。」
「うわっ。」
やばい、半分程度しか行かなかった。しかも剣が抜けない。俺は咄嗟にそばにある銅の剣を手に取りもう一度ゴブリンの首元に振りおろした。
「ぐぎゃぁぁ。」
ゴブリンは悲痛の声を上げながら頭と胴体の二つに分かれた。