五話 命だけは
ちょっとした拷問シーンのみでストーリーに関係ないです
「ああいいぜ、命だけは助けてやる。命だけはな」
そう言って竜馬は掴んでいた髪を離し立ち上がった。
そして、改めてこの広い空間を見渡し、歩き回った。そして複数ある小さな魔法陣の内の一つに近づいた。
陣の中心には人間の骸骨、つまり白骨化した遺体が横たえられており、その手足は一メートルほどの杭で床に打ち付けられていた。その様はまるで十字架のようで、キリストを彷彿させた。他の小さな魔法陣にも同様に中心には骸骨が置かれているようだった。それがないのは大きな魔法陣だけだった。
竜馬が杭に手をかけ、抜き取ると骸骨の手は形を崩し、塵になった。竜馬はさらにもう片方の手と足に打ち付けられている杭を引き抜いた。
「これが生贄にされたってやつらか」
竜馬は三本の杭を手にレイムの元へ戻った。
竜馬にとっては自分も含め世界中ほとんどの人間がいてもいなくてもいい存在だった。だからこそ拷問まがいのことをしても心を痛めることはなく、自分の攻撃欲、支配欲を満たし、ストレスを解消するための存在としていてもいい、と思っているぐらいだ。
ただこの日生まれて初めていない方がいいであろうと思える人間に出会った。
それは総司が傍にいない竜馬にとって、暴力に歯止めがかからなくなるのには充分なことだった。
竜馬は身動きの取れないレイムを膝で立たせた。
「お、おい、い、一体何をするつもりだ? 命は助けるんじゃなかったのか」
「ああ。助けてやるよ」
そう言って竜馬は杭の一本をレイムの左肩に鋭く尖ったその先端を置いた。
「言ったろ。命だけは助けてやるって」
瞬間、レイムの体を痛みが貫いた。
「がぁぁぁぁあああああアアアア!」
「漫画で読んだんだけど、昔はこんな風に鎖骨とアバラの間に杭を通して何日も生かしてたらしいぜ。一度やってみたかったんだよな。これ」
言いながら竜馬がレイムを貫く杭を軽く叩くとレイムは再び悲痛な叫びを上げた。
実際にはそんな綺麗に鎖骨とアバラの間を通るはずもなく、筋肉を抉り、骨を削るようにして杭はレイムの体を貫いていた。先端からは血が滴り、声を上げ、痛みに耐えることで胸や首回りの筋肉が強張るたびに激痛が体中を駆け巡り、それは竜馬に折られた手足に負担をかけ、さらなる痛みを呼んだ。
そして竜馬が杭に触れるたび、電流でも走ったかのように体を震わせた。その様が竜馬にとっては非常に滑稽で何度も杭を叩き、捻った、そのたびにレイムは喉が枯れそうなほどの声を上げた。
「おいおいまだ右肩も残ってるんだぜ。音を上げるには早過ぎんだろ。てか命は助けてやるんだからむしろ礼を言えよ」
その言葉に戦慄したレイムが何かを言う前にその右肩を二本目の杭が貫き、言葉は意味を成さない絶叫に変わった。
「さてと手元に残った一本はどうするかな。口から顎にでも通すかね」
「……ま、待ってくれ……もういい、……こ、殺してくれ」
レイムは涙を流し、震える声で必至に言葉を紡ぎ、懇願した。その懇願を聞き、竜馬はレイムの背中を手に持った杭の先端で殴り書きするように削った。服ごと背中の肉を抉られ、声にならない悲鳴が部屋に響いた。
「自分の言葉に責任持てよ。大人だろ。この部屋にある杭を全部使って生かしたオブジェにしてやるから大人しく悲鳴でも上げてろや。まあ今から顎に杭通すから悲鳴は無理かもしれねえけどな」
竜馬は邪悪な笑みを浮かべながら、邪悪な魔術師の絶叫に対抗するかのように笑い声を上げ、相手と自分を血で赤く染めていった。