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三話 夢の現実

 竜馬が牢屋で見たのは十人ほどの人間、その全員が若い女で、なかには十歳ほどにしか見えない子供もいた。

 一人を除いて全員の様子がおかしく、竜馬が声をかけてもその一人以外はぼんやりとしていて反応がなかった。その一人にしても最初に見たときは眠気に耐えるかのようにどこかぼんやりとしていて、竜馬の声で我に返ったという風だった。

 その一人は十三、四歳ぐらいの少女で他の女に比べて少し長く尖った耳と綺麗な長い金色の髪が特徴的だった。服装は他の女達と同じで服と言えるのかも分からない古びた無地のワンピースのようなものを着ていた。


「おい、お前らこんなところで何してんだ?」


 鉄格子越しの竜馬に問われると少女は寝ぼけたような顔で何かを思い出そうとするような素振りを見せた。


「・・・ぅっ、えっと・・・、わたしは、私は・・・」


 彼女が呟くように言葉を吐き出すと、その顔がみるみる青ざめていき、大声で悲鳴を上げた。


「わっ、私っ! ああっ! 男の人が! お父さん、お母さんがっっ!」

「うるっせえ!」


 混乱して単語だけをぶつ切りに大声で叫ぶ少女を竜馬は一喝し、鉄格子についた扉を勢いよく思いっきり手前に引っ張った。扉はいとも簡単に開いたというより、外れて竜馬の後ろに音を立てて転がった。すると、彼女はびくりと身体を震わせ、目に涙を浮かべながらも叫ぶのを止めた。

 竜馬は少女が叫ぶのを止めたのを確認すると牢屋の中に入り、他の女達に目を向けた。

 少女の叫び声にも竜馬の怒声にも彼女たちはなんの反応も示さなかった。

 そして竜馬は再び少女に視線を戻した。

 竜馬は座り込んでいる彼女と目線を合わせるように膝を折り、頭を抱えるようにして顔を覆っていた彼女の両手を掴んでどかし、真正面から彼女の目を見据えるとその肩に自分の手を置いた。


「なんかあったなら助けてやるから、何があったのか、ここがなんなのか、分かりやすく言え」


 完全に正気に戻ったらしい少女は一連の出来事を理解しようしているのか少しの間、何かを言おうと口を動かしつつも黙っていたが、少しずつ自分の身に起きたことを話し始めた。



 少女はこの森の近くにある村で暮らしていた。

 父と母がいて、兄弟はなく、彼女は両親の愛情を一身に受けて育てられてきた。そのせいか素直で心優しく、そしてエルフの血を引いていた母のように歳を重ねるごとに美しく成長していった。そんな彼女は村の人々にも可愛がられていた。

 贅沢な暮らしではなかったが幸せだったと彼女は竜馬に言った。


 しかし、ある時村に一人の魔術師の男がやってきた。

 魔術師はガーゴイルや悪魔を連れ、村の人々を襲わせ、家に魔法で火を放った。

 人々が逃げ惑う中、若い女、子供は捉えられ、他の者は殺された。

 彼女の父親も目の前でゴーレムに潰され、母は悪魔達の餌にされた。

 彼女はその光景に声を出すことも許されず、見ていることしか出来なかった。

 

 そして、捉えられた者は皆、催眠術のような魔法を定期的にかけられたという。

 母の血のおかげかその中で彼女は唯一魔法への耐性があり、他の女性達のように完全に術に嵌ることはなかった。


「それで、ここに連れてこられてからのことは何も覚えてねえのか?」

「……うん、……魔法をかけられてからのことはぼんやりとしてて……、うぅっ、ひっく、お父さん、お母さん……」


 事件を思い出した少女は再び泣き始めた。

 竜馬は仕方なく彼女を宥めるように頭を撫で、細く弱々しく震える身体を抱きしめ、背中を摩った。


「泣くな、泣くな。泣いても現実はそう簡単に変わってくれねえぞ。お前の両親と村の人間を助けることはもう出来ねえが、お前達を助けることはできる」


 竜馬は自分でも似合わないなと感じながらも彼女の耳元で優しく囁いた。

 そして再び肩を掴むと彼女と目を合わせた。


「お前名前は?」

「……ミエナ」

「じゃあミエナ。そのクズ野郎は俺が徹底的に痛めつけてやる。ついでに他の奴らを元に戻す方法も聞き出してくるからお前はここで待って、こいつらを見ててくれ。てかこいつらはお前の村の連中ってことでいいんだよな?」

「ううん、わたっわたしの村の人はここにはいないみたい」

「じゃあ他の場所にもこういう部屋があるのかもな。それも探すか」


 そう言って竜馬は立ち上がった。


「まあ、もしここにいるのが嫌なら階段をひたすら上に上がっていけば外に出るぞ。俺が通った後はめちゃくちゃになってるから迷うことはねえだろうし、どうする?」

「・・・ここにいます」

「そうか、じゃあ待ってろ」


 竜馬は牢屋を出て、粉々になったガーゴイルの横を通り過ぎた。その顔にあるのは怒りに燃えた憤怒の表情ではなく、まるで新しい玩具を見つけた子供のように無邪気で獲物を目の前にした獣のように凶悪な笑みだった。





 総司は考えていた。

 竜馬から電話が来たということは竜馬も自分と同じ世界にいるということなのか?

 おそらくそうなのだろう。でも、もしかしたら竜馬は元の世界にいてこの携帯電話だけが元の世界とつながっているのかもしれない。


「で結局なんだったのじゃ?」


 ただそうだとしたら、電波とかの問題はどうなるのだろう。

 いやそれは竜馬が自分と同じ世界にいる場合にも言えることだ。

 聞いた限りだとこの世界には電気を使って何かをするという概念もまだないようだし、そんな技術レベルで電波を扱えるとは思えない。


「おい、聞こえとるのか?なんだったのじゃ?」


 もしかすると電気に変わるエネルギーがこの世界にはあるのかもしれない。例えばファンタジーではおなじみの魔力とか。

 魔力か、もしそれがゲームや漫画のように万能で、万物の素となるような存在なら、電波の無い場所でも通信を行うことが可能かもしれない。

 とはいえここまで考えたことは全て推測に過ぎないし、そうなると……


「聞けい!」


 吸血鬼の言葉と同時に総司の体にさらに伸ばされた鋭い爪が刺さった。


「ぎあぁぁー!」


 突如、体に走った痛みに思わず総司は床に転がった。


「何するんですか! ツッコミにしったって度を越してますよ!」

「知らんわ! 散々妾を無視しおってからに」

「いやちょっと考え事をしてて……」

「知っとるわ! それが気に入らんのじゃ!」

「そんな理不尽な」


 言いながら総司は刺された箇所を手で揉みながら立ち上がった。


「えーとじゃあ、一応説明すると……」

「一応ってなんじゃ、一応って」

「アハハ、まあ上手く説明する自信がないんで」

「構わぬ、言え」


 総司は苦笑いを浮かべながら少しだけ間をとった。


「えーとこの機械をある特定の条件下でしようすると同じ機械を持つ、離れた場所にいる人と会話することが出来るんですよ」

「ほう、テレパシーみたいじゃの」

「うん、まあそんな感じであってると思います」

「お主、今説明するのが面倒になったじゃろ」

「いや、……はい、面倒になりました。すいません。もう疲れたんで全部説明する気力がちょっと……」

「しょうがないのう、では明日またお主の世界の話を聞くとするかの」

「……ここから出してはもらえないんですかね?」

「出てどうする?」

「いやそれは……」

「ここ一帯は荒野になっておるし、一番近い村でも人が歩けば丸二日はかかるじゃろう。それも村の正しい方角が分かり、魔物に襲われなかった場合の話じゃ」

 吸血鬼は意地の悪い笑みを浮かべて言った。

「それでもここを出ていくかの?」

「確かにそれならここにいた方がいいかもしれませんね。まあ食事を出してもらえるならの話ですけど」


 総司にとって今一番問題なのが水で次が食ベ物だった。この牢屋に連れてこられて以来、総司はなにも口にしていなかった。空腹ならまだしも、散々喋ったせいでもう喉は干上がっていて、色々と説明をする気が起きないのも無理からぬことだった。このままなにも与えられないのなら外に出て自給自足した方がまだマシだと総司は考えていた。


「案ずるな。お主は妾が考えておった敵ではないようじゃし、なれば久々の話し相手じゃしの。牢からは出してやるし、食事も用意しよう。ただ妾も少し喉が渇いてな」


 その言葉と眼つきに総司は嫌な予感がした。


「……そういえばあなたって一体なんなんですか? どう見ても人間には見えないんですけど」

「そうじゃな。人間は妾のことをヴァンパイアもしくは吸血鬼などと呼ぶのう」

「あーなるほど」


 その吸血鬼が喉乾いたってことはやっぱり……と総司は後ずさろうとして自分の手足がまるでなにかに縛られているかのように動かせないことに気付く。力を込めても動かせるのは首から上だけだった。

 その様子を吸血鬼は笑みを浮かべながら眺める。


「では逆にお主はなんなのじゃ?」

「あなたの反応を見るに異世界の人間という位置づけでいいんじゃないですか」


 総司は冷や汗をかきながら言った。

 これはなんかもうどうしようもないな。その結論に至った総司は自分を縛る見えないなにかと格闘するのを止めて力を抜いた。


「んっ、諦めるのか?」

「これ以上は体力の無駄ってことに気付いたんで。ここまで力の差があるとどうしようもないですよ」

「そうか、ときに名はなんという?」

 吸血鬼は身動きのとれない総司に近づき問うた。

「新藤総司、ファミリーネームが新藤で、ファーストネームが総司です。あなたは?」

「ニカと呼ぶがよい」

「じゃあニカさん。この後、僕は血を吸われちゃうんですか?」

「そのとおりじゃ」


 やっぱりか。てか吸血鬼ならそうして当然か。まあ後で話しをきくって言ってたし、死ぬほど血を吸われることはないだろう。終われば食事も貰えるみたいだしまだましか。総司はせめてそう考えることにした。


「ええと、なるべく痛くないように頼みます」

「ククク、言ったはずじゃ案ずるなと。これはただ単にお主の血を貰うだけで死ぬことも、吸血鬼になることもない」


 ニカは総司を抱き寄せるようにして総司の首に顔を近づけた。


「痛みもすぐに快楽に変わる」

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